松江高専ご卒業後、長岡技術科学大学に進学された山口剛士先生。「自然環境を守りたい」というお気持ちから、水に関する研究を続けてこられました。現在は母校である松江高専で准教授として勤務されている山口先生に、研究内容や学生への思いなどについてお伺いしました。
「自然環境を守りたい」という気持ちで、高専へ
―山口先生が高専に進まれた理由を、教えてください。
僕は広島県作木町という土地で育ちました。中学校は全校生徒が60名くらいの小さな学校だったんですけど、ほとんどの生徒が普通高校に進学しました。でも、僕は「他の人と同じ道を歩みたくない」という気持ちがあったんですよね(笑)。そんなときに担任の先生から「高専」という進学先があることを教えてもらいました。
僕が生まれ育った土地が自然豊かなところだったこともあって、「自然環境を守りたい」という気持ちが常にありました。高専では環境に関する知識や技術を身に付けたいと思い、土木工学科を選びました。
―高専での生活はどうでしたか?
実験が多く、授業は楽しかったですね。また、数学が好きだったので、毎日夜遅くまで勉強していました。当時の数学は成績に応じてクラス分けがあったんですが、1番上のクラスを担当していた村上享(あきら)先生の雑学がとても面白かったので、先生のクラスに入るために、一生懸命勉強していたことを覚えています。
高専では、授業以外の活動にも積極的に取り組みました。高専祭では車が渡れる橋をつくったり、所属していたラグビー部では部長、寮では寮長も務めたりしました。授業以外のことにも取り組めたおかげで、いろんな世界を見ることができたと思います。
初の海外研修で、自分から発信する大切さを実感
―ニュージーランドに語学研修にも行かれたそうですね。
高専のときに仲が良かった友人と、「何かしたいね」という話になったんです。そこから「語学研修に行こう!」と話が進み、松江高専で企画されていたニュージーランドのハミルトンにあるWaikato Institute of Technology (Wintec)での語学研修に3週間ほど行くことになりました。
友人と一緒に行ったものの、クラスもホームステイ先も別でしたが、英語をたくさん話すことできたので、結果よかったと思っています。
ハミルトンは、僕にとってちょうど良い田舎でしたね。日本人に会う機会もなく、日本語を喋らずに英語だけで3週間過ごせたのは良かったです。クラスでは他の国から来ている人も多くて、さまざまな国の方の意見を聞くことができました。
外国の人って、拙い英語でも積極的に自分の意見を発言するんですよ。一方、僕はなかなかできなくて(笑)。でも、他の国の方を見て、「もっと自分を出さなければ」と感じました。自分の意見を発信することの大切さを実感したきっかけも、この語学研修でしたね。
水に関する研究がしたくて、長岡技術科学大学に進学
―高専卒業後は、長岡技術科学大学に進まれたんですね。
大学に進学して研究を続けたいと思っていたときに、長岡技術科学大学に松江高専から推薦で進めることを知りました。高専に進学したときと変わらず、水に関する研究をしたいと思っており、長岡技科大にはそれがあったので、進学先に決めました。
長岡技科大では、山口隆司研究室に所属しました。編入した後で知ったんですが、考えていたよりも世界的に有名な先生でした。排水処理をメインで研究されている先生で、東南アジアやインドで排水処理をされていました。
山口先生には、いろいろな経験をさせていただきましたね。海外の学会に連れて行ってもらったり、申請書を手伝わせてもらったり、研究以外の面でもとてもお世話になりました。研究室には30人ほどの学生がいて、長岡技科大の研究室の中でも大所帯でした。
―大学4年生のときには、台湾に行かれたそうですね。
そうなんです。実は長岡技科大には「実務訓練」という制度があって、その制度を使って台湾に半年間、行きました。普通は国内の民間企業に行く学生が多いのですが、高専のときにニュージーランドに行ったことで、また海外に行きたかったんです。
「微生物に関する研究がしたい」と話すと、先生の知り合いで、台湾で微生物の研究をしている先生を紹介していただきました。台湾では、その先生のもとで研究を進めましたね。
長岡技科大では「fluorescence in situ hybridization (FISH)」という手法で微生物を解析していたんですが、台湾の大学では、「hierarchical oligonucleotide primer extension (HOPE)」という手法を使って研究を行いました。
ですので、台湾では「HOPE」という手法について教えてもらうことが多かったですね。それと僕が研究していたFISH法で比較しながら、微生物の解析を進めていました。一方、台湾ではFISH法はやっていなかったようなので、僕自身が教えることもありましたね。教えることで自分自身の理解も深まって、より研究に対する熱意が高まったと思います。
世界的な権威学者のもとで、研究を進歩させる
-大学院での生活はいかがでしたか?
大学院では、朝から夜まで実験漬けの毎日でした(笑)。実験自体は好きだったので、全く苦ではありませんでしたね。研究室にいる30人くらいの学生と、他愛もない話をしながら、実験するのは本当に楽しかったです。
博士後期課程1年次に、デンマークで開催された国際学会に行く機会があったんです。当時、新しいFISH法の開発をしていたのですが、それがうまくいっていたので、デンマークで口頭発表することになりました。
国際学会に行ってみると、その座長がFISH法を初めて微生物に適用したアーマン(Rudolf Amann)博士だったんです。博士は世界的な権威学者でしたが、僕らの研究に興味を持ってくれたようで、たくさん質問してくれたんです。そこから繋がりができて、アーマン博士が在籍しているドイツのマックスプランク研究所に行きました。
僕の拙い英語で研究内容について説明していたのですが、アーマン博士やFISH法の第一線で活躍しているフックス (Bernhard Fuchs) 博士は、それをいつも熱心に聞いてくれました。研究に対する考え方や時間の使い方、研究の話し合いなど多くのことを先生方から教えてもらい、自分の研究の進歩にもつながったと思います。
また都市部と離れた場所でも世界と戦える研究ができること、語学が堪能でなくても研究内容で評価されることなど、物事を考える上で重要なことも学びました。
このような経験を次の世代にも経験してほしいと考え、自身の進路として、比較的若い世代を指導できる高専教員がいいなと思い始めました。そして、ドイツに留学しているときにたまたま母校の公募を見て、応募したのが高専教員になったきっかけなんです。
研究に興味を持つきっかけを、授業以外の面からもサポート
―母校で准教授として勤務なさっていますが、何か心掛けていることはありますか?
授業だけで「学生の興味をつくる」って、なかなか難しいと思うんですよ。だから、授業以外の部分で、学生が研究に興味を持ってくれるようなきっかけづくりを行っていますね。
特に「現場を見せること」は大切にしています。話を聞くだけでは、自分たちが勉強している内容が実際にどのように生かされているかを想像するのは難しいと思うんです。だから、実際に現場を見せて、現場の人と話をしてもらって、より理解を深めてもらうようにしています。
研究室の学生には、インドや国内の研究機関に数週間の研修に行ってもらうようにしています。様々なところに出向くことで、異なるバックグランドを持った人と出会い、研究の知識だけでなく自分の現状なども学ぶことができるんです。そんな体験をして、松江高専に戻ってきたときに、より研究への意欲が増してくれていたら嬉しいですね。
―高専生や、高専への入学を考えている中学生に、メッセージをお願いします。
授業はもちろん大事ですが、それ以外のことにも積極的に取り組んでほしいと思っています。授業以外で外の世界を見ることによって自分の視野を広げることもできるし、自分が研究している内容により興味を持つことができると思うんですよね。
高専は、高校よりも研究施設や設備が充実しているので、研究者を目指す第一歩として最適な場所だと思います。だから、高専で勉強する人には、高専のメリットを最大限に生かしてほしいと思いますね。そして、高専生が研究に興味を持ってもらえるようなきっかけづくりをすることが僕の役目だと思っているので、授業以外の部分でもサポートしていきたいですね。
山口 剛士氏
Tsuyoshi Yamaguchi
- 松江工業高等専門学校 環境・建設工学科 准教授
2008年 松江工業高等専門学校 土木工学科 卒業
2010年 長岡技術科学大学 環境システム工学課程 卒業
2012年 長岡技術科学大学 環境システム工学専攻 修了
2015年 長岡技術科学大学 エネルギー・環境工学専攻 修了
2015年 松江工業高等専門学校 環境・建設工学科 助教、2018年 同 講師
2019年より現職
松江工業高等専門学校の記事
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