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ICLab.に集う「博士と天才」、地域産業の発展を目指して【前編】

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『よ~くわかる最新電子回路の基本としくみ』などの著書をいくつも出され、電子回路を学ぶためのプラットフォームづくりに力を注ぐ有明高専創造工学科准教授の石川洋平先生。先生のもとには数々の優秀な教員や学生が集まり、「ICLab.(Information & Circuit Laboratory=情報電子回路研究室)」として活動されています。今回のインタビューでは、石川先生を中心にICLab.メンバーである有明高専 清水暁生准教授、野口卓朗助教、大分高専 井上優良助教にお話を伺いました。

組織的な研究チームで、産学連携と人材育成を

―ICLab.について教えてください。

有名なバスケットボール選手の像の前でポーズをとる石川先生。
有明高専 石川洋平准教授(LAマジック・ジョンソン銅像の前・TexasA&M Visiting Scholar時代)

石川:「情報・電子回路教育に新しい価値づくりを」という目標のもと、2016年に誕生した研究室です。もともとは、私と同じ有明高専の創造工学科におられる清水暁生先生に「一緒に何か研究しませんか?」と声を掛けていただいたのが始まりです。

今では清水先生のほか、有明高専創造工学科助教の野口卓朗先生、大分高専情報工学科助教の井上優良先生が融合し、異業種・異分野の方々との交流によって沢山のコラボレーションを目指し、産学連携を含めた研究活動をチームで行っています。

―野口先生と井上先生は、石川研究室ご出身と伺いました。みなさんどのような経緯で高専教員になり、ICLab.に参画されたのでしょうか。

学生時代、表彰状を手にして写真におさまる野口先生。
有明高専 野口卓朗助教(2012高専専攻科時代)

野口:そうですね。高専生時代、石川先生に担任をしていただいたことがきっかけで「こんな先生になりたい!」と強く思うようになり、高専教員を目指しました。私自身、大牟田市の出身で地元愛が強く、せっかくなら地元の有明高専に勤めたいと希望していたところ、ご縁があって戻ってくることができ、ICLab.メンバーとして活動させていただいています。

頭にタオルを巻いて、山頂で笑顔の井上先生。
大分高専 井上優良助教(九州大学大学院M1時代:久住山)

井上:私も高専生時代に友人に勉強を教えるのが楽しかったことがきっかけで、ずっと高専教員を目指していました。高専生はポテンシャルが高いので、少し教えただけでコツをつかみ、メキメキと伸びていく姿を見て達成感を感じていたんです。

石川先生は、私が専攻科生のときの指導教員で、大分高専着任と同時にICLab.にお声掛けいただきました。他高専から参画しているので、違う情報がキャッチでき、ICLab.の新しいベクトルを作っていけるのではないかと日々取り組んでいます。

真剣な眼差しでバイオリンを奏でる清水先生。
有明高専 清水暁生准教授(ヴァイオリニスト)

清水:私は石川先生が佐賀大学電子回路研究室の博士後期課程におられた時の後輩で、有明高専に赴任した経緯は、本当にたまたま公募に受かったからなんですが、石川先生に噂は聞いていたのですが、天才的に能力の高い学生さん達が沢山で毎日とてもワクワクして研究を続けることができています。

石川:みんな私がきっと魅力的だから集まってくれたんですよね(笑:冗談です♪)。野口先生は担任をしていた当時から熱い方で、配属前の3年生の時から私の研究室に通っていましたね。

井上先生はLSIデザインコンテストで入賞する優秀な方で、九州大学の大学院に進まれました。清水先生は電子回路に天才的な情熱と能力をお持ちで、学生時代から、少し話すとあっという間に計算したりシミュレーション結果を持ってきたりする方でした。

―石川ファミリーが出来上がっているんですね。こうしたファミリー、チームとして活動されている理由は何でしょうか。

画面越しだが、有明高専と大分高専の学生同士の交流の様子。
ICLab.有明高専と大分高専メンバーのオンライン顔合わせ

石川:例えば、企業との共同研究や産学官連携プロジェクトを“期間限定”で行うことがあまり好きではないんです。信頼関係や連携は数年では生まれないので、みんなで継続的に成果や資金を増やしていける仕組みを作りたいと思っており、これはベンチャー企業とそっくりな活動だと思っています。

超多忙といわれる高専教員でも、お互いそれぞれが役割分担をすることで、この仕組みが作れると思っています。地味だけど、楽しく取り組む。これが我々のモットーです。

私と野口先生は会社を起こした経験があり、それが糧になっているところがあります。そうした経験のおかげで、産学連携の場では社長が言いたいことや求めていることを理解できるのが強みですね。

例えば私が大枠の話を決めて、野口先生が詳細を決めて共同研究に落とし込む、そして、井上先生と清水先生が研究を指揮しながら、全員で全体を見ながら研究をしていくことができています。

私の会社はつぶれちゃいましたが、その経験・失敗を生かして、後継者育成も考えていかなければと思っています。元教え子たちが戻ってきてくれたように、次から次へと後継者を育て、上は責任を取るだけという仕組みにしていこうというコンセンサスもメンバー同士でとれていて、信頼関係が強固という点もうちの強みなんです。

でも、それだけでは、組織は回りません。事務や研究室運営の間接業務がとても重要です。ただ、こうしたことに時間を割くと、研究や資金調達に時間が割けなくなるので、私は城門さんという秘書・事務補佐に付いてもらっています。今はもう城門さんがいないと研究室が回りません(笑)。研究室のサポートはもちろん、学生たちのお姉さん役として見守ってくれているので、本当に助かっているんです。

ICLab.が企業から支持される理由とは

―研究資金の面では、科研費の申請や共同研究を積極的に行っておられますよね。

快晴のもと、集合写真を撮るメンバーたち。
ICLab.と佐賀大学との合同BBQ

石川:ありがたいことに、信頼していただいているスポンサーが多く、年間数百万の共同研究費・寄付を頂いているので、正直、科研費を取りにいかなくてもいいのではないかと思っています(笑)。

ただ、共同研究するにあたり、企業が期待していることや安心材料として、そして、何よりもアカデミックで活動する基盤経費として大事だと思っているので、私や清水先生はずっと科研費も取っていますね。起業経験があってビジネスマインドを持ち、多くの著書も出しているというのは、研究室のネームバリューとなり、資金獲得にも繋がっていると思います。

こうしたバリューがあるからこそ、電子回路の分野では、ICLab.メンバーの先生方に安心して企業が予算を付けていただき、ほぼ寄付のような形で自由に使わせていただいています。

私が2020年から有明高専地域共同テクノセンターの研究・産学連携推進部長をさせていただいている関係で、地域における産学連携拠点としての活動を促進するため、江崎校長・地域共同テクノセンター菅沼センター長の旗振りのもと、有明高専内に「マッチングラボ」という制度を2020年12月に作りました。

「マッチングラボ」は、地域企業の研究課題を複数教員・学生による研究グループと企業の研究者のよる共同チームで解決しようという取り組みで、卒業研究の一環として学生を絡めることで、より実践的な社会で生かすことのできる技術修得と産学連携・交流を目指しています。2年間で650万円という研究費ですが、今、想定の数を越えるお申し出を受けています。

2021年1月に「ASKイノベーションラボ(木村情報技術・ASKプロジェクト)」2021年5月に「センシングモジュール統合設計ラボ(佐賀エレクトロニックス)」など、ICLab.と一体として動いていただける仕組みが出来上がっています。

―「ASKプロジェクト」とは?

モニターを前に3名で作業をする風景。
ASKイノベーションラボ_研究風景

野口:私がまだ学生の頃、2014年に立ち上げた会社です。佐賀に木村情報技術株式会社という会社がありまして、その100%出資子会社として大牟田市で立ち上げ、副社長をしていたんですが、教員になるタイミングで後輩たちに引き継ぎ退職しました。今では有明高専OBが5名も活躍し、人工知能関連のシステム開発などに取り組んでいます。

私は学生の頃から、実際のビジネスの場を経験したいという希望がありました。木村情報技術には取締役に石川先生と昔起業された大学時代の同級生である橋爪康知さんがおられて、石川先生の口添えでカバン持ちから経験させていただいたんです。

その際、佐賀大学と有明高専で協力し、地元・大牟田に残って仕事がしたいという学生に向けて実践的な人材教育ができる場を作ったのが原型です。企業の研究開発や実践的な長期インターンシップができる機会を増やすべく、プロジェクトとして動き出したのが始まりでした。有明高専・佐賀大学・木村情報技術の頭文字を取って「ASK」なんです。

―現在ICLab.で取り組まれている共同研究や地域貢献などは、具体的にどういったものがありますか?

スライドをモニターに映して講演する姿。
ものづくり体験教室(2019年12月1日)

野口:マッチングラボを通したASKプロジェクトとの共同研究では、ゲームや電子回路に関する研究を行うとともに、AI(人工知能)分野の人材育成に取り組んでいます。また佐賀エレクトロニックスと一緒にセンシングモジュール統合設計という共同研究をさせていただいています。その他、高音質のアンプICに関する研究や、IC設計ツールの利便性向上など幅広くさせていただいています。

清水:地域貢献としては、代表的なものとして2006年から続けている「エレクトロニクス・ものづくり体験教室」や、小中学生向けの電子回路工作教室、プログラミング教室を学内の先生方と協力して年4回程度行っています。これからは、ZOOM等の遠隔ミーティングツールを使った電子回路・ものづくり講座?座談会?とかもやってみたいと思っています。

石川 洋平
Yohei Ishikawa

  • 有明工業高等専門学校 創造工学科(情報システムコース) 准教授

石川 洋平氏の写真

1997年 福岡県大川市生まれ
1997年 福岡県立八女工業高等学校 情報技術科 卒業
2001年 佐賀大学 理工学部 電気電子工学科 卒業
2003年 佐賀大学 工学系研究科 電気電子工学専攻 修了
2006年 佐賀大学 工学系研究科 システム生産科学専攻 修了 博士(工学)
2001年 佐賀大学発ベンチャー 統括プロデューサ
2003年 佐賀大学科学技術共同開発センター 産学官連携コーディネートアソシエイト
2006年 有明工業高等専門学校 電子情報工学科 助手、2007年 同 助教、2008年 同 講師、2010年 同 准教授
2006年 佐賀大学 産学•地域連携機構 客員研究員
2008年 Texas A&M大学 Visiting Scholar
2014年 佐賀大学 電気電子工学科 非常勤講師
2015年 佐賀大学 農学部 招へい准教授(兼任)
2003年から現在 NPO法人佐賀学生スーパーネット 理事
2009年から現在 ベンチャービジネスプランコンテスト 指導教員
2016年から現在 有明工業高等専門学校 創造工学科人間・福祉工学系 准教授

清水 暁生
Akio Shimizu

  • 有明工業高等専門学校 創造工学科(エネルギー) 准教授

清水 暁生氏の写真

1984年 福岡県福岡市生まれ
2006年 佐賀大学 理工学部 電気電子工学科 卒業
2011年 同大学大学院 博士前期後期課程 修了 博士(工学)
2011年 有明工業高等専門学校 電気工学科 助教、2014年 同 講師
2016年 有明工業高等専門学校 創造工学科 講師、2018年から現在 同 准教授

野口 卓朗
Takuro Noguchi

  • 有明工業高等専門学校 創造工学科 助教(分野横断)

野口 卓朗氏の写真

1989年 福岡県大牟田市生まれ
2010年 有明工業高等専門学校 電子情報工学科 卒業
2012年 有明工業高等専門学校 専攻科 生産情報システム工学専攻 卒業
2014年 佐賀大学大学院 工学系研究科 電気電子工学専攻
2017年 佐賀大学大学院 工学系研究科 システム創成科学専攻 博士(工学)
2014年 株式会社ASKプロジェクト 副社長
2017年 有明工業高等専門学校 寄附講座「人工知能・ビジネス講座」 特命助教
2013年から現在 NPO法人佐賀学生スーパーネット 理事
2017年から現在 ベンチャービジネスプランコンテスト 指導教員
2019年から現在 有明工業高等専門学校 創造工学科 助教(分野横断)

井上 優良
Yusuke Inoue

  • 大分工業高等専門学校 情報工学科 助教

井上 優良氏の写真

1991年 長崎県諫早市生まれ
2014年 有明工業高等専門学校 専攻科 生産情報システム工学専攻 修了
2016年 九州大学大学院 システム情報科学府 情報知能工学専攻 博士課程前期 修了
2019年 九州大学大学院 システム情報科学府 情報知能工学専攻 博士課程後期 修了 博士(工学)
2019年から現在 大分工業高等専門学校 情報工学科 助教

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