沼津高専を卒業後、編入先の筑波大学在学中に起業された宮田昌輝さん。起業のきっかけは、高専時代の寮生活だったそうです。現在はセブンセンスマーケティング株式会社の代表取締役をされている宮田さんに、高専時代の思い出や、起業のお話などを伺いました。
寮生活で「出世ルート」に乗り、一生の友と出会う
―沼津高専に進学されたきっかけを教えてください。
高専は塾の先生に教えていただきました。NHKロボコンも知っていたので、「高専はロボコンの学校だ」というイメージがありましたね。
実は私がいた中学校は中高一貫校だったのでエスカレーター式に進学は可能だったのですが、高専を第一志望にして受験しました。父も高専に進学したかったことがあったみたいなので、両親も応援してくれましたね。
―沼津高専に進学されてみて、いかがでしたか。
寮での生活が一番思い出に残っています。私は4人兄弟だったので「自分の部屋」への憧れが強く、寮生活はとても楽しみでした。
寮では棟長も経験させてもらいました。沼津高専の棟長は寮長や副寮長と一緒に、寮のルールや運営に関わっていくのですが、いわゆる「出世ルート」を歩ませていただきました(笑) それぐらい寮が好きだったんですよね。
あと、1年目で偶然隣の部屋になった友達とは、もう17年目の付き合いになります。彼も起業しており、私は彼の会社に一部お手伝いもさせていただいているんですよ。お客様をお互い紹介し合い、すごく良い関係性を築いているんです。そんな一生の友達と高専で出会えたことは大きいですね。
彼以外にも、今でも一緒に仕事をしたり、ビジネスパートナーとなったり、SNSで交流がある同級生が多くいます。年齢や地域関係なく、幅広い友人や経営者仲間が高専でできましたね。
頑張っていても、やる気があっても、バグは突然起きる
-高専での授業の思い出はありますか。
4年生の時に、1年間かけてチームでロボットをつくる「マイクロインテリジェントロボットシステム(MIRS)」の授業が思い出に残っていますね。迷路を攻略するロボットをチームに分かれてつくったのですが、先輩から引き継いだ回路が適切に動かなくて。当時の僕らの技術力だと、その原因が一生分からないんですよ(笑)
また、チームに与えられた予算で新たに買った板の材質が、思っていたのと違ったことがあって……。予算の大半を使って購入したのですが、固くて切りやすそうだと思った板が、届いてみたらブヨンブヨンだったんです(笑)
それでもどうにかつくり上げてコンテストを迎えたのですが、私たちのチームのロボットは動きませんでした(笑) 電池が原因だと思うのですが、正しく動いていれば、いい結果を残せたのではないかと思っています。
この経験から「システムは動かないことがある」と学ばせてもらいました。技術畑にいないと理解しづらいことではありますが、実体験として学んだので、システム側に問い詰めることはほぼありません。バグを直したい気持ちは全員同じなので、頑張っていても、やる気があっても、バグは突然起きることを知りました(笑)
-卒業研究はどのようなことをされたのですか。
大庭先生の研究室に入り、振子を題材とした「多面的問題解決型の工学実験教材の開発」を行いました。中学生や高校生向けに、工学的な技術を楽しく学ぶための教材をつくる研究なのですが、「Mathematica(マセマティカ)」という数学のツールを使って物理シミュレーションをつくりました。
自分でハードも組んで、実験して、プログラミングも組んでと一通りやりましたが、ハードが良くてもソフトがダメだと動かないし、逆もまた然りということを学びましたね。
また、大庭先生からは「ちゃんとやりきること」を教わりました。私は4年生の頃から研究室に配属させてもらったのですが、ちゃんとやればルールを超えて支援してくれることや、踏ん張ることが一番成果につながることを学びました。
抜け道で上手くいくことはたくさんありますが、やっぱり実力をコツコツ付けて勝負することが大切ですね。
大学在学中に起業。たくさんの高専卒業生が会社を支えている
―沼津高専から筑波大学に編入後、在学しながら起業されたそうですね。
はい、同級生と起業しました。遡れば高専時代、私は寮生活が全てだったんです。寮生活で偉くなることが正しいことだと思っていましたし、寮の役員になること以外評価がないと思っていた学生でした(笑)
高専4年生の夏、高専に進まなかった中学の同級生たちが大学で「協賛金を100万円集めてイベントをした」という話が耳に入り、触発されて地域のイベントに参加してみました。そこでいろいろな出会いがあり、「学生であってもお金を欲しいと言わなければ何でもできる」ということを学んだんです。
だからこそ、次はお金を稼ぐことをしたいと思い、大学に入ったらバイトはせず、「100時間で100円稼ぐ」という目標を立てました。そんなことを言っていたら、後の共同創業者と出会い、筑波大生向けの不動産ポータルサイトをつくることになったんです。
筑波大学はとんでもなく広くて、外周は12㎞もあります。駅からも近くないですし、部屋を探すときに本当に苦労するんです。不動産の担当者は大学のことをよく知らないですし、入学前の学生はどのあたりで家を探せばいいか分からない。だからこそ、学部から家探しができる筑波大学特化の不動産サイト「つくいえ」をつくりました。これが起業の始まりです。
当時は1人10万円あれば生きていけるだろうということで、「5人で50万円」という目標のもと活動していましたが、紆余曲折あり、結果的にこの事業は売ることになりました。
その後、リクルートジョブズ(現:株式会社リクルート)に入社した際に副業用の会社を立ち上げ、リクルートジョブズを辞めた後にECのコンサル会社を立ち上げ、その後現在代表を務めているセブンセンスマーケティングを立ち上げたので、今までに計4社起業していますね。
―現在はどのようなお仕事をされているのですか。
現在はセブンセンスマーケティングで、PC業務のみえる化サービス「みえるクラウド® ログ」の販売と運用を行っております。コロナで働き方改革が進みましたが、企業側はあまりテレワークをさせたくないという現状があり、その不安をこのサービスで解消しています。
具体的には、完全自動で業務が「みえる」だけでなく、ログとして記録されるので、作業効率を可視化し、従業員の意欲向上や適切な人員配置による生産性の向上が見込めます。また、時間外の稼働や休日出勤の可視化もできますし、パソコンの操作履歴も確認できるので、セキュリティ対策も同時に行うことができるんです。つまりは社員のサボり防止にも、働きすぎ防止にも使える便利なサービスとなっています。
みえるクラウドの開発チームには私以外にも4名の開発メンバーがいて、グループ企業まで含めると高専OBが7名(うち沼津高専6名)もいるのですが、なんと高専時代の私のクラスメイトが2名いるんです。
また、昨年には専攻科卒の新卒もグループに入りました。インターンシップも含め、たくさんの高専生が毎年当社や当社グループに関わりを持ってくださっており、大変嬉しく思います。
サービスを立ち上げるためには、開発費用や人件費などすごくお金が必要でした。最初は赤字続きでしたが、クラスメイトもいるので逃げずに向き合い続けるしかなくて、彼らの存在に勇気付けられてきましたし、ある意味プレッシャーをかけられてきましたね(笑)
「高専生しか採用をしない」という方針はありませんが、開発責任者、windowsアプリの責任者、サーバーの責任者が3人とも高専卒業生でして、それぐらい高専生には活躍していただいています。
起業もひとつの選択肢として知っておいた方がいい
―起業するにあたって不安はありませんでしたか。
一言に「起業」といっても幅が広く、1社目はまさにイメージしやすいスタートアップの形をとりました。2社目は副業のための会社、3社目は中小企業をつくりました。それぞれの中に向き不向きがありますが、私の中では「やりがいがあり、ちゃんと稼げて、安定感もあって、経営もしやすい」という軸にAND条件(※)を増やしながら、経営を進めています。
※すべての条件を満たした場合に「成立した」と判断されるもの。一方、何か1つの条件を満たしていたら「成立した」と判断されるものをOR条件と言う。「~、かつ~」がAND条件、「~、もしくは~」がOR条件と言える。
また、起業をよく「引っ越し」に例えています。初めての一人暮らしはめちゃくちゃ怖いし不安ですが、2回目以降はどうってことありませんよね。もう4社起業しているので、起業が怖いという感覚はなく、引っ越しと同じイメージで会社を立ち上げています。
私自身、自分の思いと異なる道に進みすぎると、苦しくなってしまうんです。一方で、「逃げずにひとつずつやっていく」ところの感覚はすごく大事にできていて、メンバーやお客様を大切にしながら経営を続けることには適性があると思っています。
今「みえるクラウド ログ」の導入が120社を超えているのですが、これからもっと拡大していきたいですし、一方で新しいサービスをどんどんつくっていく会社でありたいと思っています。会社の永続性が高く、社員に安心して働いてもらえることが良い会社だと思っているので、そんな会社にしていきたいという思いが強くありますね。
―宮田さんは沼津高専で非常勤講師もされているのですね。
起業家育成の一環で、アントレプレナーシップ教育を担当させていただいています。「全員起業した方がいい」とは思っていませんが、「起業という道もひとつの選択肢として知っておくのは良いこと」とは思っています。
せっかくの学生の時期にたくさんのチャレンジをしておくと、起業の道もクリアになるし、起業じゃない道においても活躍できる能力がつくと思っています。最近は、起業に対して興味がある学生が増えてきたことは、時代の変化だと感じますね。
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
私は今32歳になり、高専を卒業してから12年が経ちました。高専にいた頃には「高専に入らなければよかった」と思ったこともありますし、よく同級生とも高専の不満を言い合っていたことを思い出します。
ただ、卒業から10年以上が経った今、同級生と話しても「高専はよかった。不満もあったけど、それも含めてすごく学びだった」とみんな言っています。在学中は自覚がなくても、すごく良い時期を過ごしているんですよね。
だからこそこの時期、自分が向き合いたいと思えるものを見つけてチャレンジしていくと、より良い人生に切り替わっていくと思います。私も微力ながら何か応援したいですね。
私自身は高専が好きすぎて、沼津高専の非常勤講師や沼津高専同窓会の常任理事などをさせていただいております。高専生がもっと高専を好きになって、もっともっと学べる環境になると嬉しいです!
宮田 昌輝氏
Masaki Miyata
- セブンセンスマーケティング株式会社 代表取締役
2012年3月 沼津工業高等専門学校 電子制御工学科 卒業
2012年8月 株式会社BEARTAIL(現:株式会社TOKIUM)
2014年3月 筑波大学 理工学群 工学システム学類 卒業
2016年9月 株式会社リクルートジョブズ(現:株式会社リクルート)
2020年3月より現職
2022年4月 沼津工業高等専門学校 非常勤講師
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