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材料を応用した情報処理から介護・医療のアシスト装置まで……「研究に熱中できるキャンパス」の大切な特徴 ―九工大大学院 生命体工学研究科の高専卒学生に聞く(後編)―

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材料を応用した情報処理から介護・医療のアシスト装置まで……「研究に熱中できるキャンパス」の大切な特徴 ―九工大大学院 生命体工学研究科の高専卒学生に聞く(後編)―のサムネイル画像

前編で、高専時代の研究内容や失敗談などをお話しいただいた九州工業大学大学院 生命体工学研究科の3名に、今回は大学院での研究内容や九州工業大学(以下、九工大)の魅力などをお聞きしました。高専での経験がどのように生かされているのか、「今」に焦点を当て、3名の現在の活躍ぶりを伺います。

※この記事は、九州工業大学 井上創造先生によるインタビュー企画三部作の第三部です。
 第一部 九工大で研究者として働いている高専卒生
 第二部 九工大で学生として学んでいる高専卒生―九工大大学院 生命体工学研究科の高専卒学生に聞く―(前編)
 第三部 九工大で学生として学んでいる高専卒生―九工大大学院 生命体工学研究科の高専卒学生に聞く―(後編)(この記事)

北九州の多彩な学研都市で、研究に邁進する

―現在の研究内容を教えてください。

中岡さん:一言でいうと、材料の機能性を情報処理に応用する研究をしています。今のコンピュータは、計算する場所と保存する場所(メモリ)が分れていて、2つの間で情報のやり取りを行う構造になっています。そのため、計算量の多い処理を行うと消費電力が高くなることが課題なんです。

最近では身近な存在となっているChatGPTも莫大な電力を消費します(※)。このような消費電力の問題を解決するため、今のコンピュータの構造に代わる新しい構造をつくるのが、現在の研究内容です。

※米誌「ニューヨーカー」の記事によると、ChatGPTに届く様々な指示(プロンプト)を処理するために50万キロワット時(kWh)超の電気量が消費されており、これはアメリカの平均的な家庭1万7000世帯以上の電力消費量に匹敵するとのこと。ChatGPTに限らず、生成AIの電力消費量は今後増大する可能性が高いと考えられている。

取材をお引き受けいただいた中岡さん、藤田さん、長野さんが話しているインタビュー中の様子
▲取材をお引き受けいただいた中岡さん(中央)、藤田さん(左)、長野さん(右)

長野さん:血管内治療に使われるカテーテル型触角センサの開発です。細い血管の中に入れることで、血管内の異常を検知するものをつくっています。従来のセンサは、血管内が少し膨れ上がっているだけで「異常」と検知してしまっていました。その問題を解決するため、医師の検査方法の1つである、手で触って身体の状態を確かめる「触診」のように、血管内を手で触るように検査ができるセンサをつくっています。

藤田さん:高専時代と同様、腰痛に関わる研究をしています。実際に介護現場に赴き、アシスト装置を介護士の方に使っていただいて、どれくらい腰部の負担が減ったのかの評価や、どのようなアシストが必要なのかといった分析を重ね、装置の開発・改良などを行っていますね。

具体的には、共同研究先の企業が製造販売しているリュックサックのような形の腰部負担軽減用アシストスーツの効果検証や改良を企業と一緒に進めているところです。この装置を使うと、体を起こすときに装置のベルトに引っ張られて、腰の負担が軽減されるという効果が出ていて、疲労軽減が期待されています。

腰部負担軽減用アシストスーツについて説明をされる藤田さんの様子
▲腰部負担軽減用アシストスーツについて説明をされる藤田さん

―九工大の大学院や研究室の魅力をどのような点に感じていますか。

中岡さん:九工大の生命体工学研究科は大学院しかなく、学部生がいないので、まさしく「研究する場所」だと感じています。周りには自然も多く、静かで、集中できる環境です。

また、私の研究室には留学生が多く、英語を話す機会が多い点や、研究資金が潤沢で、余裕を持って実験や研究ができる点も魅力です。研究内容としても、半導体に関わるという点で、世界全体で進めていかなければならない分野なので、最先端に触れられるところにも魅力を感じています。

研究室に入る新しい留学生を歓迎した時の中岡さん。空港で留学生とピースしている
▲研究室に入る新しい留学生を歓迎した時の中岡さん

藤田さん:周辺には北九州市立大学・大学院、早稲田大学大学院、福岡大学大学院もあることから、街全体で見ても留学生は多く、交流の機会があります。国籍によって考え方や生活スタイルが全く違い、異文化を知ることができて面白いです。留学生の多くは、国から認められ、奨学金をもらって通っている人たちなので抜群に賢く、各国の優秀な人たちに囲まれて過ごせることも魅力の1つだなと思います。

あと、私の研究室では実証実験で実際に介護施設に行ったり、パーキンソン病をはじめ病気を患っている方を対象に実験ができたりします。このような環境で研究が行える点は、私の研究室の魅力の1つです。

藤田さんが所属する研究室の送別会での記念撮影。たくさんの人がピースサインで写っている
▲藤田さんが所属する研究室の送別会にて

長野さん:日本人学生も、九工大の機械知能工学科、マテリアル工学科や情報・通信工学科など、さまざまな科を卒業した人が生命体工学研究科に進学してきます。違う分野を学んでいたことで違った視点を持つ人たちと意見交換ができるのも、この科の魅力だと思います。

―他にも九工大の大学院の好きな点や、アピールしたいポイントがあれば教えてください。

藤田さん:学生たちが「テラス」と呼んでいる、生命体工学研究科の建物の最上階7階の共用スペースがあり、そこからの景色がお気に入りです。

長野さん:私の地元の鹿児島と比べると、やはり北九州は人が多く、活気を感じます。正直、北九州はあまり治安が良くないイメージがあったのですが、学研都市は治安が良く、生活する上で困ることもありません。

また、博多・天神などの福岡市や下関にも遊びに行けるので、学生にとっては楽しく過ごせる場所だと思います。折尾駅という大学近くの駅も最近リニューアルされて、今後も街が発展して活気で溢れそうな予感がしています。

中岡さん:あと、周辺のラーメン屋さんがすごく美味しいですね。最近地元に帰った時に、美味しいと記憶していたラーメンを食べに行ったら、「あれ?」と思ってしまいました。それはやっぱり北九州のラーメンが抜群に美味しいからだと思います。よく行くのは「石田一龍 若松高須店」と、まぜそばが人気の「二代目 麺やKEIJIRO」というお店です。

藤田さん:どちらのお店も人気で、学生もよく行っていますよね。私も、やっぱり北九州はラーメンがすごく美味しいなと思います。

高専での礎を引き継いで、あらゆる面で成長

―高専時代と比べて、どのような点で成長したと感じますか?

藤田さん:研究について留学生と英語で話すことが多いので、かなり英語力が上がったと思います。

あとは、自分の研究が社会にどうつながっていくのかを意識できるようになりました。私が高専で研究していた内容が基礎の部分だったという理由はあるにせよ、高専で得られたことが具体的にどのような場面でどう活用できるのかが、当時はあまりイメージできていなかったんです。しかし、大学院に来てからは、研究目標とあわせて、どのように社会実装されるのかを明確にイメージできるようになりました。

第7回学研ヒルズ学際駅伝大会にてD&I(Diversity and Inclusion)賞を受賞した時の藤田さん。使用した機械のそばで賞状を持っている
▲第7回学研ヒルズ学際駅伝大会にてD&I(Diversity and Inclusion)賞を受賞した時の藤田さん

長野さん:私は、計画性が身についたと思います。高専では学会に出ることが1つの目標で、そのために計画を立てていたので、日や月単位の目標が少し見えづらいことがありました。しかし、大学院に来てからは学会が目標なのではなく、研究成果を出すことが目標なのだと意識できるようになり、計画的に具体性を持って毎日研究に取り組めるようになりましたね。

また、自分にない知識を他の人から吸収して研究に取り入れられるようになった点も、大学院で成長できた部分だと思います。研究や就活で必要なスキルや情報を獲得するために行動しているという点で、主体性も身につきました。

学会発表時の長野さん。スライドを用いて発表している様子
▲学会発表時の長野さん

中岡さん:私は、大学院の方が自分の「伸び率」が上がったなと思います。例えば、高専ではあまり成果が出なかったプログラミングの勉強が、大学院生になってから2年間でコードを書けるようになり、今や他の言語の勉強も始めています。

この伸び率の上昇は、九工大の大学院という環境が理由だと思っています。モチベーションの高い大学院生が多いので、その影響を受けて「自分もやらなければ」という気持ちになるんです。

長野さん:周囲のモチベーションの高さに助けられた部分は私もあります。人間は良くも悪くも環境に流されてしまうものです。周囲の人が就活に向けていろんな準備をしていたり、研究活動に毎日時間を費やしたりしている姿を見て、自分のモチベーションにもつながっていました。

長野さんが所属する研究室の送別会にて。居酒屋の前で記念撮影
▲長野さんが所属する研究室の送別会にて

―大学院に来てから、高専出身で良かったなと感じる瞬間はありますか?

中岡さん:圧倒的に理系の知識の多さだと思います。高専で学んだ理系の知識は、研究を進める上での基礎知識に当たるので、今でも非常に役立っています。論理的な考え方も、高専での経験からできるようになりました。

あと、高専では研究室に配属される点も大きいです。大学院に入学する前から研究に触れているので、例えば英語論文に対する抵抗のなさや、研究前の調査能力の高さ、人前での発表に対する慣れ、作成するプレゼン資料の質の高さなど、入学時点でいろんなスキルをすでに持っていたなと思います。

藤田さん:私も、高専5年生から専攻科の3年間も研究活動をしていた点は、大きな強みになっています。大学の学部から進学してきた人たちと、高専で3年間研究して進学してきた人とでは、考え方が違うなと思う瞬間があります。

例えば、研究を自分で進められる自主性・主導性が身についているかどうかという点です。高専では一般的に、5年生までは先生からテーマを提供されて、専攻科で少しずつ自主性を身につけていくのですが、大学院では最初から自主性や主導性が求められている気がします。私は専攻科まで研究をしてきて、ある程度の自主性が備わっている状態で大学院に進学できたので、すごく良かったなと思います。

取材をお引き受けいただいた中岡さん、藤田さん、長野さんが話しているインタビュー中の様子
 

長野さん:私も2人と同じです。やっぱり研究を高専でもやってきた経験は、大学院での研究に生かされています。大学の学部から進学してきた人たちと比べて、大きなアドバンテージだと思っています。

悩むなら進学した方が良い!  大学院で自分に合った選択を探す

―進路をどのように考えているのか教えてください。

中岡さん:培った専門知識や英語力を使って、海外で挑戦してみたいという思いがあります。また、起業してみたいという夢もあります。まだ具体的なプランはないのですが、九工大の中でも起業支援の動きがあるので、その流れに乗り、自分も経験してみたいなと漠然と考えています。今、博士後期課程1年になったばかりで、あと3年間あるので、その中で海外留学なのか、起業なのか、自分に合う選択を考えたいと思います。

藤田さん:私は、自分の中でまだ見通しが立っていないというのが正直なところです。できれば今の研究内容につながるような介護や医療系の分野の企業に就職し、製品開発に携われたらと思うのですが、誰に聞いても「この業界は儲からないよ」と言われるんです。もちろん儲かることが全てだとは思いません。ただ、自分の中でどのような選択肢があるのか、もう少し視野を広げて考えたいと思っています。

長野さん:2024年3月末に就活が終わり、電子部品メーカーへの就職を決めました。最初は自動車業界や、医療機器分野、家電メーカーなども考えていたのですが、就活を進めていく中で、日本の良い品質のものを世界に届けるために何ができるのだろうと考えてみたんです。そうして、製品の核であり、あらゆる業界に生かせる電子機器や電子部品という分野が自分に合っていると気づき、就職先として決めました。

―大学院進学を迷っている高専生や専攻科生に向けて、メッセージをお願いします。

中岡さん、藤田さん、長野さんのインタビュー時の記念撮影
 

中岡さん:「迷っているのなら進学しては?」というのが私の気持ちです。おそらく、迷っているということは、大学院で挑戦したい気持ちや、もっと研究がしたいという想いがあると思うんです。大学院に進んだ後の2年間で考えを固めて、就職もしくは研究の道なのか、良い選択ができるのではと思います。

高専を出て就職してから研究職に戻るのはハードルが高いので、それなら大学院に行き、2年間かけて自身の将来をじっくりと考えてみると良いのではないでしょうか。

長野さん:私も選択を先延ばしにして大学院に進学してきた身ではあります。ただ、自分が納得する進路を決められるまで、しっかり悩んで結果を出すべきだと思います。進学によって進路の幅を広げられると思うので、大学院という選択肢も考えてみてほしいですね。

藤田さん:迷っている理由が家庭の事情や経済面などの理由ではないのなら、絶対に大学院に進んだ方が良いと思います。迷う時点で、おそらく研究活動が好きだとは思うんです。なので、自分のやりたいこととマッチする先生や院を探して、大学院進学を前向きに考えてみてはどうかと思います。

大学院を選ぶときは、学会に参加する、もしくは自分のやりたいことに近い研究の論文を調べて、どこの大学のどのような先生が書かれているのかを調べる、というのが1番良い方法だと思います。あとは、自分の研究室の先生に尋ねてみるのも手ですね。

中岡さん:オープンキャンパスに行って実際の雰囲気を掴むのも大事だと思います。オープンキャンパスでは研究室を見学させてもらえることが多いので、その研究室の空気や雰囲気を掴んで、自分に合った進学先を決められたら良いですね。

長野さん:私自身がしていたのは、在籍されている研究室の方や、自分と同じ高専から進学された先輩にお話を伺うことです。実際に大学院生活を過ごしている方に話を聞くのが、実感が湧いて良いと思います。研究内容や研究手法、研究室の雰囲気、環境などが自分のスタイルとマッチする大学院はあるはずなので、ぜひ探してみて、有意義な大学院生活を送ってほしいです。

 

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○九工大インタビュー企画(全三部作)
 第一部 「人前で緊張」「校長先生を怒らせる」——かつての未熟な高専生が世界を狙う研究者になるまで
 第二部 願書を出し忘れた、感電した……高専時代の失敗や進学理由 ―九工大大学院 生命体工学研究科の高専卒学生に聞く(前編)―
 第三部 材料を応用した情報処理から介護・医療のアシスト装置まで……「研究に熱中できるキャンパス」の大切な特徴 ―九工大大学院 生命体工学研究科の高専卒学生に聞く(後編)(この記事)

中岡 佑輔
Yusuke Nakaoka

  • 九州工業大学大学院 生命体工学研究科 博士後期課程 生命体工学専攻 1年

中岡 佑輔氏の写真

2020年3月 呉工業高等専門学校 電気情報工学科 卒業
2022年3月 呉工業高等専門学校 専攻科 プロジェクトデザイン工学専攻 修了
2024年3月 九州工業大学大学院 生命体工学研究科 博士前期課程 人間知能システム工学専攻 修了
2024年4月より九州工業大学大学院 生命体工学研究科 博士後期課程 生命体工学専攻

藤田 亘
Wataru Fujita

  • 九州工業大学大学院 生命体工学研究科 博士後期課程 生命体工学専攻 1年

藤田 亘氏の写真

2020年3月 苫小牧工業高等専門学校 機械工学科(現・創造工学科 機械系) 卒業
2022年3月 苫小牧工業高等専門学校 専攻科 電子生産システム工学専攻(現・創造工学専攻) 修了
2024年3月 九州工業大学大学院 生命体工学研究科 博士前期課程 人間知能システム工学専攻 修了
2024年4月より九州工業大学大学院 生命体工学研究科 博士後期課程 生命体工学専攻

長野 聡一朗
Soichiro Nagano

  • 九州工業大学大学院 生命体工学研究科 博士前期課程 生体機能応用工学専攻 2年

長野 聡一朗氏の写真

2021年3月 鹿児島工業高等専門学校 電子制御工学科 卒業
2023年3月 鹿児島工業高等専門学校 専攻科 機械・電子システム工学専攻 修了
2023年4月より九州工業大学大学院 生命体工学研究科 博士前期課程 生体機能応用工学専攻

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