ロボコンと並び歴史のあるコンテストとして毎年開催されている全国高等専門学校プログラミングコンテスト、通称「高専プロコン」。その第34回大会が10月14日(土)、15日(日)に福井県鯖江市にあるサンドーム福井で開催されました。今回は審査委員長を務めた大場みち子先生(京都橘大学 工学部 情報工学科 教授)に、大会の振り返りとしてお話を伺いました。インタビューの最後では、来年の大会に向けたアドバイスもいただいています!
第34回大会を迎えたプロコン、今年の様子は?
―今年度の大会の印象はいかがでしたか?
学生たちのプレゼンテーション力に劇的な向上を感じたことが印象深いですね。また、デモンストレーションでも楽しんで発表している学生が多かったように感じます。
プレゼンテーション力の向上に関して、コロナ禍においては対面の活動への制限がありました。しかし、最近では、コミュニケーションのインタラクションの増加や、先輩から後輩へのテクノロジートランスファー(技術移転)の機会も増え、以前のような活動ができるようになってきています。このような環境がプレゼンテーション力の向上に繋がったのかなと考えています。
―評価において、プレゼンテーションとはどのような立ち位置を占めるのでしょうか。
プレゼンテーションは、作品を紹介するという点で重要となります。どのような背景で開発が行われ、どこに着眼点をおいて、開発スケジュールをどのように組んでいたかなどが説明されなければ、プログラミングの概要を詳しく理解することができません。
プレゼンテーションが上手いとどのようなプログラムなのかが伝わってくるため、デモンストレーションに対する期待値も上がりますね。
―各チームのプレゼンテーションを聞いて、どのように評価されましたか。
今年の大会は、プレゼンテーションの構成がよく出来ております。個々の説明も簡潔でわかりやすいものが多かったです。また、声量や話のテンポなども劇的に向上していました。
全体的な結果を見ると、完成度の高い作品を仕上げているチームは総じてプレゼンテーションのレベルも高かったですね。チームのメンバー全員が作品を自分ごととして説明することができていました。
一方で、プレゼンテーションで大失敗してしまったチームもありました。掴みを良くしようとしたのかもしれませんが、結果的にメインのプログラム説明まで辿り着けなかったので、聞いている方ももったいないなぁと感じました。プログラム開発からプレゼンテーションの練習までのスケジュールのマネジメント力の差がでてしまったのでしょう。
―デモンストレーションでの発表の様子はどのような印象を受けましたか。
チームによってさまざまな印象を受けました。私たち審査員は、前日のプレゼンテーションで発表された内容は当然できているものとしてデモンストレーションを見ています。前日に指摘されていた内容を次の日までに修正しているチームもあれば、プレゼンテーションとデモンストレーションとの差が大きく開いているチームもありました。
高専プロコンを通して、ギリギリまでブラッシュアップする気持ちの大切さを改めて感じましたね。作品の完成度やこだわりに対してストイックに取り組めるかどうかは、チームの結果にダイレクトに影響を与えているようです。
開発作業とは山登りのようなものだと捉えています。チームで行うプロジェクトですので、メンバーの中に遅れが出ている子がいたらサポートしてあげたり、分担を変えたりと、探せばマネジメントの方法はいくらでもあるはずです。あとは、チーム共通で高いモチベーションとやりきる力を持続できるかどうかが、最終的に大きな差となるのではないでしょうか。
大場先生が気になったチームについて
―特に目を惹いた作品などはありましたか?
香川高専詫間キャンパスの「わんもあ-砂と鏡で創るもう一つの世界-」(自由部門 最優秀賞)は、プレゼンテーションとデモンストレーションどちらを評価しても賞に値する作品でしたね。リアルタイム性もあって作品自体のレベルも高く、何よりも「侘び寂び」というテーマへの着眼点が素晴らしいと思いました。
また、実際に子供達に遊んでもらうことで実証実験を行い、PDCAサイクルを何回も回していました。アイデア段階から作品を大切に育て、現実とバーチャルの世界をつなげようとする、サイバーフィジカルに対するチームのこだわりを感じることができましたね。
もう1つは、神山まるごと高専の「μ sight-ひとりでも合奏がしたい!AR合奏練習アプリ-」です。今年の4月に開校した高専なのでメンバー全員が1年生でしたが、アウトプットまで見事に仕上げていました。特に、ストーリー仕立てのプレゼンテーションとニーズに即した作品を忠実に再現し、完成させている点には感心しました。
今年の4月からという活動期間が短い中、授業でつくったプログラムなどを活用して作品に取り込んでいく工夫をしていたそうです。できないことを嘆いてもしょうがないですから、限られたリソースをどう使うか考える、豊かな発想を持つことは大事です。
―大場先生にとって良い作品とは何でしょうか?
私が作品を評価する際注目しているのが、作品の着眼点、こだわりや熱意、創意工夫の3つです。上位入賞しているチームは、それぞれに独創性が感じられる作品でした。また、大会全体を見ても、表彰されたチームは、対象分野の調査やヒアリングを行い、より良い作品をつくろうという姿勢が感じることができ、まさに熱意や創意工夫が伝わってきましたね。
大体のチームが大きく2つに分けることができると思います。1つは、予選から格段にレベルアップするチームです。もう1つは、予選でのプロジェクト概要が絵に描いた餅になってしまうチームです。この差を生み出すのは、スケジュールのマネジメント力が1番に挙げられます。
足し算だと目標とする地点まで到達するのに時間がかかりますが、掛け算だとより早く到達できるじゃないですか。そういった点で神山まるごと高専のチームは授業内容をうまく活用していたと思います。プログラミング、デザイン、アントレプレナーシップの連携性を高めることで作業効率を大幅に上げていました。
―今年度の大会では外部サービスを使った作品も多かったようですね。
はい、特に生成型AIを取り入れた作品が顕著に増加していました。外部サービスを使うことで、自チーム内でつくらなければいけない部分を省略化できるため、開発効率も上がりますよね。また、組み合わせによる面白さも生まれて、チームごとの独創性を感じることができます。
生成型AIの使途は主に2つあります。1つが「アイデアを出すために生成AIを利用する」という使い方。もう1つが「生成AIを使って加工し、作品に盛り込む使い方」ですね。どちらにせよ、どう料理するかによって完成度が全く変わるので、同じ外部サービスを利用しても得られる結果は異なります。
―競技部門で多かった「AIと人力(手動)を組み合わせたプログラム」については、どう評価されていますか?
人間介在型というのは情報システムでは当たり前という考えです。機械というのは想定外のことに対応することはできないので、網羅性を組み込まないと自動化できないですよね。また、人間介在型のプログラミングの方が状況判断力が高まります。
今回のコンテストでは審査員の人たちも思うところが多かったようです。人間介在型が当然という潮流の中で、各チームの戦略と手法の使い方にバリエーションが多く、選手たちの考えの多様性には感心しましたね。
一方で、企業賞を獲得していた徳山高専の「そこにAIはあるんか?」は、上位チームの中では最も人間が介在しないプログラムでした。企業の方は開発者たちのプログラミングに対する熱い思いを感じられたようですね。
ますます盛り上がりを見せるプロコン 来年の大会に向けて
―閉会式では来年の課題は「ICTを活用した環境保全」と発表されましたね。学生のみなさんに期待することはありますか?
私の評価軸である、独創性の高いアイデアについてはさらに期待が高まっています。いい作品はやはり光るものがありますよ。どこに独創性を盛り込むのか、ブレーンストーミングなどでたくさん意見を出して、考えることが大事だと思います。
もうひとつ来年期待することとしては、期限内にいかに完成度の高い作品を仕上げられるかです。独創性が高くても、期限内に完成しなくてはデモ時に評価することができません。今年を振り返っても、そこまで到達できるチームは限られていました。
私は、実証実験まで至ったチームは高く評価しています。それだけで技術力もマネジメント力もあるということですから。やはり、ユーザーテストを行い、フィードバックをもとに完成度を上げていく、PDCAサイクルを回すことが大事だと思うんです。
その上で、対象者に合わせたマニュアル作成までがアウトプットになると思います。新しいサービスの出現に伴い、ステークホルダーの幅も広がります。それぞれのステークホルダーにとって、どのような情報が必要なのか、マニュアルにどんなことを書けばいいのかという設計力までが求められます。このような場面でスペルアウト能力が試されると思っています。
―プロコンに挑戦しようとする学生たちに向けて、メッセージをお願いします。
次のコンテストまで1年を切りました。完成度の高い作品を目指すとなるともう動きはじめないといけません。神山まるごと高専のように限られた期間内でもレベルの高い作品をつくるチームもありますので、来年はどのような作品を見ることができるのか、期待がますます高まります。
これからのDX時代では、課題を発見すること、その課題をどのように解決するかを考えること、解決案をどのように形にして、その結果をどう評価するかが非常に大切です。高専プロコンに参加される方をはじめ、高専生の皆さんにはこれらのことができるように日々努力を重ねてほしいと思います。
大場 みち子氏
Michiko Oba
- 京都橘大学 工学部 情報工学科 教授
第34回高専プロコン 審査委員長
1976年3月 茨城県立土浦第一高校 卒業
1982年3月 日本女子大学 卒業
1982年4月~2020年3月 株式会社日立製作所
2001年9月 大阪大学大学院 工学研究科 情報システム専攻 博士課程後期 修了。博士(工学)
2010年4月 公立はこだて未来大学 情報アーキテクチャ学科 教授
2023年4月より現職
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