旭川高専を卒業後、室蘭工業大学に進まれ、現在はNOK株式会社でお仕事をされている冨田慎太郎さん。冨田さんが高専時代から大切にしていたのは「バランス」だったのだそう。そんな冨田さんに、高専時代の思い出や、研究のお話、後輩への思いを伺いました。
卒業研究でも両立、野球でも両立ができた
―旭川高専に進学されたきっかけを教えてください。
小さい頃から「どこにでもいる普通の男の子」で、目の前の楽しいことをどんどんやっていくタイプだったのを覚えています。努力するのは得意ではなかったのですが(笑)、興味を持ったことは幅広く極めていましたね。
高専の存在を知ったのは、中学生のときに通っていた進学塾にあった「高専用の講義」でした。5年制であることや、学科が分かれていることなどを聞いて、興味が湧いたんです。理系科目が好きだったこともあり、旭川高専への進学を決めました。
―旭川高専に進学されてみて、いかがでしたか。
実習やパソコンの授業が楽しかったです。溶接の授業で、板と板をくっつけて箱をつくる実習があったのですが、手先が器用ではなかったので、溶接した箱に水を入れたら漏れてしまったこともありました(笑) でも、「高度な技を習得できている」というところに高揚感を抱いていましたね。
また、CADの授業では、「製麺機」の製図をしました。もともと料理が得意だったこともあり、2つの円盤を回転させて伸ばす機構を製図したのですが、先生から「他にないアイデアだ」と褒められたときは嬉しかったですね。趣味が組み合わせられる授業はなかったので、強く印象に残っています。
-卒業研究は、何をされたのですか。
3年生から担任だった千葉良一先生の研究室に配属したのですが、千葉先生は材料の研究をされていたので、紙を「引張試験機」で引っ張って、紙のちぎれやすさを調べる研究をしました。共同研究先からいただいた紙を使って、縦から引っ張るとどうなるか、横から引っ張るとどうなるかを確認していたんです。
紙は繊維でできているので、縦に引っ張るとなかなかちぎれないのですが、横から引っ張るとちぎれやすいという結果が出ました。今の職場でも引張試験機は使うので、早めに機器を扱う経験ができて良かったです。
千葉先生は、すごく学生のことを考えてくださる先生で、僕の「進学はしたいけれど、自分のやりたいことを探す時間もつくりたい」という意図をくみ取って、研究テーマをくださいました。
それまでは「自分で考える時間がある方が、新しい発見ができるのでは」「でも勉強もしなきゃ」という理想と現実に挟まれていましたが、自分の考えを先生に話すことで、「バランスを取りながら高専生活を送りたい」という理想がかなったんです。
-高専時代に同好会を立ち上げられたそうですね。
4年生のときに「草野球同好会」を同級生と2人で立ち上げました。ずっと野球は好きで、観戦も実際にするのも好きだったのですが、野球部に入ってしまうと観戦の時間が減ってしまうのが嫌だったので、3年生まではテニス部に入り、空いた時間に野球観戦をしていました。しかし、「やっぱり野球が好き」と思い、立ち上げたんです。
実際立ち上げてみると、「野球は好きだけど、勉強もあるから野球部には入れない」という人たちが集まってくれて、20人ほどの同好会になりました。空いている場所や時間の確保など、最初は大変でしたが、バッティングセンターではできなかった対戦ができるようになったので充実感がありましたね。
工夫したところは、お金のやりくりです。学生同士の集まりなので、お金を集めるのはトラブルのもとになりかねなかったので、できるだけ自分でお小遣いを貯めて、道具を持ち寄りました。みんなの意見を聞きながら、同好会をまとめていく経験を高専時代にできて本当に良かったです。
室蘭工業大学で、道外に出る自信が生まれた
-室蘭工業大学に進学されたきっかけを教えてください。
もともと中学生のときから「大学に進学したい」とは思っていて、両親も応援してくれていました。ただ、生活環境を変えることに当時は抵抗があり、「進学するなら北海道内で」と考えていたので、室蘭工業大学を選びました。
実は、卒業間際の千葉研究室の学会発表にて、室蘭工業大学の境昌宏先生がいらっしゃったことがありました。質問もしてくださったので、顔は覚えていたのですが、まさか1か月後に、境先生が担任の先生になる方だとわかったときは本当に驚きました(笑) 当時はお互いの状況がわかっておりませんでしたが、縁を感じた出来事でした。
大学は授業数も増えるのですが、高専での単位認定があったので、結果的に高専時代より自由な時間が増えました。様々な高専から編入した同級生と仲良くなって、そこからたくさんのつながりができましたね。一緒に野球観戦に行ったり、東京に遊びに行ったりして、北海道外でもたくさんのコミュニティができました。それが、「道外でも就職できる」という自信につながったんです。
もちろん勉強もしっかりしていました。飛行機やロケットなどを研究する学科だったので、ラジコンの様な飛行機を1から設計してつくったり、飛行機が飛ぶときの計算をしたりと、高専時代より学びが深くなったと思います。
-室蘭工業大学でどのような研究をされたのですか。
室蘭工業大学の地域で、珍しい銅の錆が見つかったので、それの研究をしました。具体的には、建築用銅管や銅製熱交換器に発生する、新しいタイプの銅錆の分析と再現です。
これがなかなか難解で、原因もよく分からないところからのスタートだったので、いろいろな角度から調査したのですが、結局錆の完全再現は出来ませんでした。ただ、いろいろな物質を混ぜて錆をつくると、毎回違うものができ上がるので、その実験は楽しかったです。
自分との約束事を決めて、高専を楽しんでほしい
―その後、NOK株式会社さんに就職されたんですね!
「大学院に進学するか、就職するか」を境先生に相談したときに、「冨田くんは就職の方が絶対向いているよ」とアドバイスいただいたんです。確かに僕は「研究に一点集中」というよりも、「多方向に興味を持ってバランスよく楽しむ」という性格があったので、就職を選びました。
NOK株式会社はエンジンの中に必ず入っているシール部品をつくる会社です。僕は品質管理部門で部品の不具合の調査や品質管理全般の仕事をしています。各部署とのコミュニケーションが多い部署で、工学知識を踏まえたうえでの質問が必要になったり、相手に気持ちよく動いてもらえるようお願いする能力が必要だったりするので、高専時代の授業や同好会の経験が役立っていますね。
福利厚生がしっかりしている会社でもあるので、草野球チームに入り、充実した毎日を送っています。今は茨城県に住んでいるのですが、同じ旭川高専出身の髙橋謙斗さん(株式会社ホンダテクノフォート/月刊高専No.300)が関東に来たときは、一緒に遊んだりしていますね。高専のつながりは卒業してからも続くことが、高専のいいところです。
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
実は僕、高専時代の成績は下から数えたほうが早く、あまり良くなかったんです(笑) でも、進学に向けた準備をしっかりしていれば、大学にも入れました。
僕のように、「勉強もプライベートもバランスよく楽しみたい」と考える学生さんもいらっしゃると思います。やはり、自分の中で「ここだけは絶対に守る」という最低ラインだけはしっかり決めることが大切です。そこをしっかり守った上で楽しく過ごしていたので、同じタイプならオススメのやり方だと思いますよ。
進学を決心した際は、留年しないよう、まずは授業をしっかり受け、大学の過去問をひたすら解きました。就職を決心した際は、身近な人に話を聞いて、面接に役立てました。そういったことを自分の最低ラインに置いていましたね。面接では、本音で話し、マイナスなことでも最終的にはプラスに伝えることを努力しました。
あと、同好会を立ち上げた経験は自信になったので、興味があることはどんなことでも良いので、まずは一歩だけ踏み出してみてください。そうして楽しいと思える経験をたくさん高専時代に積んでほしいです。もし一歩踏み出せないのであれば、人を巻きこむことをオススメします。味方が1人でもいれば、「この人のために頑張ろう!」と思えるはずです。上手く自分に火をつけるきっかけをつくってください!
冨田 慎太郎氏
Shintaro Tomita
- NOK株式会社 樹脂・ウレタン事業部
2014年3月 旭川工業高等専門学校 機械システム工学科 卒業
2016年3月 室蘭工業大学 機械航空創造系学科 航空宇宙システム工学コース 卒業
2016年4月より現職 ※総合職として入社
旭川工業高等専門学校の記事
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