日本人のご両親の元、アメリカで生まれ育った国際高専の小川隼人先生。幼少期は日本のことが大嫌いだったそうです。日本に対する印象が変わった出来事とは。そしてなぜ国際高専に着任されたのか。今の取り組みとともにお話を伺いました。
大学は学ぶ場所でもあり、つながりをつくる場所でもある
―小川先生は、外国でお生まれになったのですか。
はい。アメリカで生まれて、ニューヨーク州とニュージャージー州の間を転々としていました。小中学校はニュージャージーにいたので、年上、年下関係なくアメリカ人の友達に囲まれて過ごしましたね。また、別のコミュニティには日本人の友達や、中国、ベトナム、韓国などといったアジア系の友達もいたので、その中でも遊びました。
アメリカでは、自転車に乗っていろいろなところに出かけました。日本と違うところは、学校のクラブでたくさんのスポーツをやっていたことでしょうか。陸上、サッカー、ゴルフなどを、シーズンが変わるたびに楽しみましたね。
―当時の小川先生は、日本に来られたことがあったのでしょうか。
両親が長野と埼玉の出身なので、2年に1回は日本に来ていました。でもその時は日本が大嫌いで(笑) 満員電車が苦手でしたし、当時はあまり子どもの遊ぶ場所がなかったんです。高校生になるとネットカフェなどいろいろと出来たんですけど、子どもの頃は不満でしたね。
―アメリカではどのようなことを学んだのですか。
電気関係のテクノロジーを専門にしていました。主にIT系のネットワークに関係したテクノロジーです。専門の授業は、先生1人に対して、学生が多くて20人ぐらいのクラスでしたね。
大学では、耳が聞こえない方と同じ教室で授業を受けていたのが印象的です。教授の説明を同時に手話で教えてくださるスタッフさんもいて、バリアフリーにきちんと対応する工夫がされていました。
また、大学時代の友達が各地で働いているので、いろんな企業やスタートアップの友達ができました。そのつながりは今も続いていて、例えばAppleやGoogleの施設の中を少し見せてもらったり、実際に海外で働いている方が学生に経験談を直接伝えてくれたりと、大変ありがたいですね。大学は学ぶ場所でもあり、つながりをつくる場所でもあると思っています。
アメリカで国際高専の求人を見て応募
-日本に住まれたのは、いつからでしょうか。
2008年からです。リーマンショックがきっかけでしたね。銀行で働いていた友達から「景気が悪くなっている」という話を聞いたので、それなら1年間休みを取って、世界中に旅行に行こうと、まず思いました。
行き先に日本を選んだのは本当にランダムで(笑) でも、住んでから日本の安全や、物のクオリティの高さ、性能の良さに気付いたんです。もともと僕は性能にこだわる人間だったので、そこがすごく合っていました。
日本に来たのは、自分の中ではセカンドチャンスだったんです。「嫌いな気持ちでいないで、住んでみて好きになれればいいかな」とロングステイの気持ちでいたら、そこからもう12年です。印象はかなり変わりましたね。
でも、日本に来てから新しくアレルギーも発覚しまして。そばアレルギーと稲アレルギーなんですが、秋になると急にセンシティブになるので、検査をしたら判明しました。秋になると鼻づまりが大変ですし、年越しそばが食べられないですね(笑)
-金沢高専(現:国際高専)に着任されたきっかけを教えてください。
実はもともと、車の企業か、おもちゃをつくる企業に行きたかったんです。そこを拠点としながら旅行しようと考えていたのですが、大学の求人票で金沢高専の募集を見つけ、応募しました。
そのタイミングで初めて高専を調べたのですが、5年間学ぶ場所だということを知り、「いいな」と思いましたね。ソフトウェアの会社にいるときに、企業や大人向けにワークショップを開いた経験があったので、「そのときと同じように教えられるのでは?」と考えました。それで2008年に日本に来てから、国際高専で働いています。
「昔の日本と同じ」というマインド
-授業中に工夫されていることを教えてください。
基本的には全て英語で電気科目やプログラミングを教えているのですが、難しいボキャブラリーのときだけ日本語で解説していますね。「アメリカの企業だけではなく、海外どこでもやっていける学生を育てたい」という気持ちで日々授業をしています。
学生の英語力や専門知識のレベルを考えて、はっきりした発音や、話すスピードを変えることも、工夫していることの1つです。資料に関しても、リソースがしっかりしているものや、日本語と英語がパラレルに書いてあるものを探して学生に見せていますね。
―現在はどのような取り組みをされているのですか。
学生に対して、AIや画像認識などの最新テクノロジーと概念の紹介をしています。取り組みの1つとしては、白山キャンパスでの地域連携プロジェクトを通して、猿の認識ができるAIシステムを開発することが挙げられますね。
地域の方々から、「猿が畑を荒らして困っている」というお声をいただき、AIシステムで「猿」と「人間」と「車や植物など」を見分けるシステムをつくりました。AIシステムに「これが猿だ」と学習させ、畑にWEBカメラを設置し、猿が観測地点に来ると、LINEに情報が送られてくる仕組みです。
もちろん人や車を誤認識して「猿」と通知がくる場合もあるので、その場合は誤認識した原因をまた学習させ、精度を高めています。高専生には向いている研究だと思いますよ。
―海外と連携するような取り組みはありますか。
「ラーニングエクスプレス(Learning Express with Singapore Polytechnic Facilitator)」という取り組みがあって、国際高専とシンガポールの大学と現地の方々とで行っています。これは発展途上の村に2週間学生と一緒に赴き、シンガポールの大学生と一緒にアイデアを出し合いながら、「現地の生活を良くする何かをつくる」というものです。
村の方々に話を聞き、悩み事を探し、現地の素材や設備を使い、かつ現地の方々がメンテナンスできるものじゃないといけないので、かなり学生は頑張っています。インドネシアでは「無添加物のファームの観光案内」と「水汲みシステム」、タイでは「発酵した茶葉を小分けにして売る方法」や「新しいラベル」などを考案し、現地の方々に喜ばれました。
しかし、2週間は大部屋での生活になります。ご飯の味や使う油の量にも違いがありますし、さらには水回りの設備も整っているわけではないので、やはりカルチャーショックを受けるようです。でも、「昔の日本と同じなんだよ」と伝えたら安心するようで、徐々に慣れていきますね。2週間後は、シンガポールの学生とも現地の方々とも仲良くなりすぎて、泣きながら帰国するほどです。
ラーニングエクスプレスのメイン対象は4年生なのですが、3年生はニュージーランド研修、2年生は海外留学プログラムがあるので、国際高専は海外経験ができるプログラムが充実していますよ。
「能力」と「脳力」は、シェアするのが大事
―小中学生や、現役の高専生にメッセージをお願いします。
スティーブ・ジョブズさんや、イーロン・マスクさん、ジャック・マーさん、孫正義さんなど、そういった方々の本を読んで、考え方やこだわり、開発の方法などに共感するのであれば、国際高専はすごく合うと思います。同じような体験ができるプログラムが充実していますからね。
高専生には、もう少しスポーツにも興味を持ってくれたらと思います(笑) 私もジムに行って、身体のメンテナンスをこまめにしていますし、ロバート先生も同じぐらい鍛えていると思いますよ。「能力」と「脳力」は、長く生きてみんなとシェアするのが大事です。若いうちにちゃんと身体をメンテナンスしていれば長生きできますし、良い姿勢でいればガタがきにくいと思います。
あとはオープンな心でフレンドリーに接していれば、そこから新しい仕事やつながりもできるので、心配しなくていいよと伝えたいですね。
小川 隼人氏
Hayato Ogawa
- 国際高等専門学校 国際理工学科 准教授
2002年 Vestal Senior High school 卒業
2007年 Rochester Institute of Technology Electrical Engineering Technology, Bachelor of Science Degree 卒業
2005年~2006年 McIntosh Labs
2006年~2008年 EMA Design Automation
2008年 金沢高等専門学校(現:国際高専専門学校)助教
2012年 同 講師
2014年 University of Wisconsin-Madison, Masters in Engineering Technical Japanese 修了
2017年より現職
国際高等専門学校の記事
アクセス数ランキング
- 大切なのは初心を貫く柔軟な心。高専で育んだ『個性』は、いつか必ず社会で花開く!
- 株式会社竹中土木 東京本店 工事部 土壌環境グループ 課長
大西 絢子 氏
- 日本初の洋上風力発電所建設を担当! 「地図に残る仕事」を目標に今後も再エネ発電所建設を行う
- 株式会社グリーンパワーインベストメント 石狩湾新港洋上風力発電所
藤田 亮 氏
- 自然のように、あるがまま素直に生きる。答えが見えない自然を相手に、水の未来を考え続ける
- 豊田工業高等専門学校 環境都市工学科 教授
松本 嘉孝 氏
- いかに「地理」や「社会の見方」を伝えるか。「地」を知ることで、ものづくりに生かせることが必ずある!
- 沼津工業高等専門学校 教養科 教授
佐藤 崇徳 氏
- 養殖ウニを海なし県で育てる! 海産物の陸上養殖普及に向けて、先生と学生がタッグを組む
- 一関工業高等専門学校 未来創造工学科 化学・バイオ系 教授
渡邊 崇 氏
一関工業高等専門学校 専攻科 システム創造工学専攻1年
上野 裕太郎 氏
- 憧れた研究者の道。大学でできないことが高専でできる?
- 東京工業高等専門学校 物質工学科 教授
庄司 良 氏
- 「高専生はかっこいい!尊敬する!」学生に厳しかった安里先生の、考えが変わったきっかけとは
- 新居浜工業高等専門学校 機械工学科 教授
安里 光裕 氏
- 高専OG初の校長! 15年掛かって戻ることができた、第一線の道でやり遂げたいこと
- 鹿児島工業高等専門学校 校長
上田 悦子 氏