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ワイヤレス給電で未来を変える! 教育では「学生をしっかり見ている」ことを見せていきたい

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ノートパソコンのACアダプタや携帯充電器などワイヤレス化することで私たちのライフスタイルが変わっていくとお話しされた八戸高専の大里辰希先生。共振形コンバータの研究開発から、今後のワイヤレス給電のシステム、その可能性についてお話を伺いました。

自分の成長を止めず、何事にもチャレンジ!

―高校時代は台湾に留学経験も。どんな学生時代を経験されましたか。

仲間たちと部屋で写真に写る大里先生
▲台湾留学時代の大里先生

中学2年生から3年間、台湾出身である母の故郷で学ぼうと、台湾の工業高校へ留学しました。現地では日本の協力によって出来た新幹線や地下鉄を見て、あらためて日本の技術力の高さを感じました。

その後、工業系に興味、関心もあったので、千葉工業大学の電気電子情報工学科へ進学しました。大学の研究活動は、特に実験が面白く、のめり込んで取り組みましたね。研究室のメンバーと頻繁にディスカッションし、問題点や改善方法などを話し合っていました。

スーツを着て研究室メンバーと円卓を囲む大里先生
▲千葉工業大学の研究室メンバーと

そして、そのような活動が本当に楽しく、その楽しさを多くの人と共有したいという気持ちが芽生え始めます。将来仕事に就くなら、研究と教育の両方の仕事をしたいと考え、アカデミックの道に進む決意をしましたね。

ですが、実は一度、就職を希望して、重機レンタルリース会社に内定をいただいていました。一方で、「社会で活躍するためには、必要なスキルが自分にまだ足りないんじゃないか」という不安もあり、悩んだ末に大学院への進学に変更します。大学4年間と大学院2年間は、同じ環境の中に身を置いているので居心地もよく、要領もよくなっていきました。

お寺の前で台湾からの留学生と並んで写真に写る大里先生
▲千葉工業大学では、台湾からの留学生とも交流

しかし、「自分の成長が止まってしまうのではないか」とも感じていました。そこで、「厳しい環境に飛び込むことで、自分の成長に大きくプラスしたい」と、博士後期課程は千葉大学大学院の道を選択。いろんなチャレンジをしてみたい、そういう気持ちが強かったのかもしれません。

そして、企業の内定を蹴ってまでアカデミックの道に進んだのだから、「研究に道を極めたい」と考えました。また、研究室では後輩たちへの指導に当たりながら、「自分の技術を伝え、教えることも楽しい」と、教育の仕事にも興味も抱くようになります。

大学院のみなさんと家で鍋を囲む大里先生
▲千葉大学大学院での学生生活の1コマ

―八戸高専で教員になられた、きっかけを教えてください。

博士後期課程の修了を控え、教員の公募を調べる中で、最初に電力変換分野での研究にマッチし、面接、採用をいただいたからです。即決でした。「最初の縁を大切にしたい」との思いからですが、ちょっとタイミングも出来すぎだったと思います(笑)

八戸は初めての土地で、雪国のイメージでしたが、自然も多く、夏は涼しくて住みやすいですね。ただ、冬は大変でした。寒さは千葉とは比べものになりません。学校は山の上で道路の凍結もありましたが、なんとか最初の冬を無事に過ごせました。「厳しい環境に身を置いてみるのもいい」と、自分自身の成長を心がけています。

雪で覆われた八戸の街
▲八戸の冬

身近な生活を変えていく「無線給電」の可能性

―現在の研究テーマについて、教えてください。

無線給電システムや高周波電源回路に用いられている「共振形コンバータに関する解析と設計」の研究です。特に無線給電システムは近年、目覚ましいスピードで研究開発が進んでいまして、家庭の家電のほとんどがワイヤレスに動作することも可能になります。

研究中の学生の方と大里先生
▲共振形コンバータに関する研究の様子

給電システムが無線化されることで、いろいろなことができるようになりますね。例えば、電気自動車の普及が進むと思います。バッテリーによって移動距離が制限されることが唯一の難点ですが、もしワイヤレス給電が用いられれば、道路の路面から電気エネルギーを供給することで、バッテリーが切れることなく走行できる社会も可能です。

ウエアラブル端末やイヤホン、パソコンのキーボードなどがワイヤレスになるなど、「非接触」が再びキーワードになっていますよね。家庭でもコンセントの場所を気にせず、自由なレイアウトで電力を供給するスマートハウスも実現できると思います。将来、家庭の家電のほとんどがワイヤレスに動作することも可能になるでしょう。

―この研究に取り組まれたきっかけは、何だったのでしょうか。

この分野に取り組んだのは、千葉工業大学での研究がきっかけです。スマートフォンやノートパソコンの充電に用いるACアダプタ向けの電源回路の設計ですが、この電源回路をより小型・軽量化することで、電子機器の持ち運びや機能性の向上などにつながります。

英文で書かれたポスターの前でスーツを着て写真に写る大里先生
▲千葉工業大学大学院時代のポスター発表

技術的には周波数のパラメーターがキーワードでした。高周波にすると回路内のインダクタやコンデンサという素子を小さくすることができ、回路そのものも小さくできます。

一方で、高周波にするとスイッチング回数が増えてしまいます。イメージとしてはバケツで水をくんで目的地へ運ぶ回数が周波数でして、その回数が増えると水がこぼれるリスクが増えますよね。そこで、「ソフトスイッチング」という技術を用いることで、回数を増やしても水がこぼれないようにすることができます。つまり、高周波環境下においても高効率な電源回路が設計できるようになるわけです。

―研究を行う上で、大事にしていることを教えてください。

大学院時代に富士山登山を経験したことがあります。登山は事前に計画を立て、頂上に到達するまでのプロセスを考えるのですが、それは研究でも同じです。登山の段取り、装備、準備、達成のためのモチベーション、いろんなことが研究につながると考えています。

富士登山で、山頂で記念撮影をする大里先生
▲富士山登山での1コマ

例えば、旅行でもガイドブック上だけでなく、実際に現地に行き、匂いや風、温度などを五感で感じる。バーチャルにない世界、リアルの良さが味わえますね。やったこともないことにチャレンジする、何事にもチャレンジしたい。そういう気持ちが強い性格だったと思います。

「学生を見ること」と「精神的サポート」の重要性

―教員として、高専で力を入れている活動は何でしょうか。

八戸高専に着任後は、初年度から寮務委員、ロボコン愛好会、野球部の顧問を担当しています。野球経験はありませんが、顧問の先生が異動されたので「お願いします」、ということで1年間やっていますね(笑) 球場で学生たちの試合を応援していますよ。

まだ教員になって1年程度ですが、「教員はきちんと学生を見ている」ということを行動で示すことが重要だと感じました。また、15歳から20歳の学生が同じ環境で生活していますので、精神的なサポートも大切だと思います。日頃からの何気ない挨拶やリアクションを見ながら、「今日はちょっと元気ないかな」、「何か悩んでいるのかな」と、なるべく寄り添うことが大事かなと感じましたね。

学生のみなさまと発電所の入口で写真に写る大里先生
▲学生のみなさんと発電所見学

博士課程のときに、下級生の指導やティーチングアシスタントをしながら気づいたことなのですが、1人ひとりのやる気を引き出すポイントは人それぞれで違うのです。私はやる気を出すポイントを見極めたうえで学生指導を行うことが重要であり、それが学生の自主性の向上につながると考えています。

―最後に、高専生や高専を目指す方たちへメッセージをお願いします。

高専の魅力は、やはり実際に研究をしている先生たちとすぐ身近で触れ合え、経験を聞くことができる場所だということです。教科書や参考書では学べない経験を早い段階で身につけることができる部分は、すごく魅力的ですね。

卒研生と建物の入口でポーズをとる大里先生
▲卒研生と一緒に

あと、自分のアピールポイントを伸ばしてください。「このことだったら、だれにも負けない!」というものを1個つくっておくのが大事だと思います。そうすることで、卒業後の自信につながります。

そして、もし可能であれば、大学進学をお勧めします。私自身も在学中に将来に対する不安な経験をして、ここまで来ました。スキルを身につけてから社会へ出たほうが安心できるのではないでしょうか。いろんな可能性にチャレンジしてください!

大里 辰希
Tatsuki Osato

  • 八戸工業高等専門学校 産業システム工学科 電気情報工学コース 助教

大里 辰希氏の写真

2011年 千葉県立館山総合高等学校 卒業
2015年 千葉工業大学 工学部 電気電子情報工学科 卒業
2017年 千葉工業大学大学院 工学研究科 電気電子情報工学専攻 博士前期課程 修了
2021年 千葉大学大学院 融合理工学府 数学情報科学専攻 情報科学コース 博士後期課程 修了
2021年より現職

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