都立航空高専をご卒業後、電気通信大学にて通信の研究を続けられた、産技高専の髙﨑和之先生。現在は工学の可能性を学生に伝えていらっしゃいます。高専時代が「人生において1番価値のある時間だった」という髙﨑先生に、学生時代の思い出や研究について伺いました。
卒研につながった「人工衛星をつくるプロジェクト」
-髙﨑先生が都立航空高専に進学されたきっかけを教えてください。
小学校の頃から機械いじりが好きで、電子工作キットやラジオをつくって遊んでいました。そして、中学2年生の時に「専門知識を学びたい」と思って、航空高専の体験入学に参加し、そこで先輩の話を聞いたことで、高専に魅力を感じたんです。
高専では「電気通信部」に所属し、島田先生や若林先生にお世話になりましたね。部活で「アマチュア無線」や「陸上特殊無線技士」の国家資格も取り、人生において1番価値のある時間でした。
というのも、実は若林先生に声を掛けられて、3年次から「人工衛星をつくるプロジェクト」に参加したんです。その流れで若林先生の研究室に入り、卒研につながったんです。
-「人工衛星をつくるプロジェクト」とはどのようなものですか。
私たちがつくったのは「Cansat」という小型衛星です。といっても、実際に打ち上げられたのは後輩たちの代になります。私は立ち上げとして、気球に乗って300mほど上昇し、パラシュートを付けたCansatを目的地に落とすことを目標にしました。
「Cansat」には重さと大きさの制限があったので、その中に収めるのは大変でした。スケジュールも、気球を上げてくれる方と合わせないといけなかったので、そのあたりも苦労しましたね。
また、「Cansat」の動きが追跡できるよう、GPSを使ったんですよ。当時のGPSは性能が良くなくて、位置が分かるまでに15分ほど待たないといけないのです。真冬に校庭の真ん中で15分立ち尽くすのはきつかったですね。上手くいったと思ったら、ケーブルの繋ぎ忘れがあったりして、また15分待ったり(笑) 軌跡を辿って車で移動した時も、画面を見ながらですので車酔いしたり(笑)
夜な夜ないろんな実験をしましたね。完成したものは「人工衛星」と言えるほどの代物ではなかったのですが、つくって飛ばして、評価までできました。失敗ばかりでしたが、とても楽しかった卒研でしたよ。
高専出身だったから、その場で問題解決できた
-その後、電気通信大学に進学されているのですね!
大学院では「人体通信」と「非接触給電」の研究を行いました。携帯電話が普及し始めて、着メロやネットゲームなど、データ通信がすごく増えたんですよ。人が多いところでは通信が遅くなるという現象から着目したのが「人体通信」です。
この研究はKDDIさんと共同で行いました。人間の体をコードの代わりにして、メガネ型の表示装置に情報を出そうとしていましたね。人間の体を使う以上、安全の制約は厳しかったので、電波の代わりを探していたのですが、結局電波でも代用できるので、そこが一番大変でした。
ただ、いろいろ試しているうちに、速度が当時の世界最速にはなったんです。しかし、電波の技術も発達して、Bluetoothも普及してきたので、「人体通信」は普及に至りませんでした。
-「非接触給電」は、どのようなご研究なのですか。
電力を送電する技術はすでにあったんです。ただ、私たちはそこにデータを入れたかったんですよ。データは、電極の板同士を向かい合わせにすれば送れるんですけど、送電コイル中に電極を入れると、その電力が全部熱になり、データが送れなくなるのが課題でした。
打ち合わせに、あり合わせの材料でつくったサンプルを持っていったことがありました。そこで問題点を整理しながら「これが原因なら、ここを切っちゃえばいいんじゃないですか」とハサミを入れたところ、問題が解決してしまって(笑) これは、高専出身だったからできたことですね。
流れ星を使って、離れていてもできる通信をかなえたい
-産技高専での取り組みを教えてください。
流れ星を使った「流星バースト通信」の研究を行っています。流れ星が流れるとき、鏡のように電波を一時的に反射する性質があるんです。それを使えば、2,000㎞ほど離れていても通信ができるので、その実験をしています。流れ星が流れるのは不定期で予測ができないので、送る方はずっと電波を出していて、通信が成立した瞬間に電波を送り返すことで双方向通信を実現させています。
離れていないとできない実験ですので、北海道大学や防衛大学に実験装置を置かせていただいているのですが、メンテナンスや移動が大変ですね(笑) 災害が起こったときも通信ができるので、離れた場所の通信装置が正常かどうかや、道路や崖崩れの情報を送ることができれば、より便利になるのではないかと思っています。
-そのほかも共同研究をされているそうですね。
北海道大学の先生にお声がけいただいて、「雪の重さを測る機器」の研究も行っています。従来の装置は大型で高額だったので、2,000円ほどで売っている家庭用の体重計を改造し、温度センサーなどを組み込んでつくっている最中です。これなら海外にも簡単に持っていけるし、現地で捨てて帰ることもできます。
積雪の中に水がどれだけあるかを知りたいので、「地面にぽんと置いて簡単に測れるだろう」と思ったのですが、雪同士の結合などもあり、なかなか想定通りにいかず。大きさをどうするか、小型化するにはどうすればいいかを、他の教員も巻き込んで研究している最中ですね。
工学は知識の「積み重ね」と「組み合わせ」が大切
-学生と接するうえで、大切にしていることを教えてください。
工学は知識の「積み重ね」と「組み合わせ」が大切と考えています。教員の立場で成果を上げるなら、答えを教えて、テストでいい点を取ってもらって、単位を落とす学生を減らすのが1番簡単なやり方ではあるんです。しかしそれをすると、学生が世の中に出て、課題を解決するときに使える知識にはならないと思っています。
ですので、「どうしてこれがこの働きをするのか」ということを理解させる授業をしています。知識を1つずつ「積み重ねて」いき、実際に問題を解決するときは、知識を「組み合わせて」使っていく。知識を引き出すために、頭の片隅に「こういう考え方があった」がある方が重要だと思います。
多くの研究室では、卒研で成果を求めると思うのですが、私は研究成果をあまり重視していないんです。全部成功する方法ばかり教えると、それは他の人でもできるので、差別化できないですよね。せっかく研究室に来て勉強するのだから、「自分で考えてつくって、失敗してもいいから1回やってみる」を経験してから外に出てほしいのが、私の研究室の方針です。
-最後に高専を目指す小中学生や、高専生にメッセージをお願いします。
小中学生に関してはスマホのゲームではなくて、学校のイベントなどに参加して積極的に楽しんでほしいですし、やりたいことをちゃんと考えてから高専を選んだ方がいいと思います。私は高専を選んで好きなことができたので、大変だけど楽しい5年間でしたが、そうじゃなければ多分つらいだけの5年間になってしまうので。
今の高専生は、家での工作の経験があまりないんですよね。プラモデルもパーツはほぼ完成して削るだけだったり、スマホでなんでも解決するので、カセットテープにレベルを調整しながら録音することや、ケーブルを自作する方法を知らなかったりする。だから、家でできないような工作や、スマホでできないことを教えてあげるのが面白いのかなと思っています。
もちろん学業の面はしっかりしてほしいですし、オン・オフを分けて、放課後は放課後で充実させることがいいんじゃないかなと思いますね。自分は何をやりたいのかをよく考えて過ごすと、充実した5年間になると思いますよ。
髙﨑 和之氏
Kazuyuki Takasaki
- 東京都立産業技術高等専門学校 ものづくり工学科 情報通信工学コース 准教授
2004年 東京都立航空工業高等専門学校 電子工学科 卒業
2004年~2011年 ジオスポーツ株式会社
2006年 電気通信大学 電気通信学部 電子工学科 卒業
2009年 電気通信大学大学院 電気通信学専攻 博士前期課程 修了
2014年 電気通信大学大学院 電気通信学専攻 博士後期課程 修了
2011年 東京都立産業技術高等専門学 ものづくり工学科情報通信工学コース 助教
2015年より現職
東京都立産業技術高等専門学校の記事
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