「パワーエレクトロニクスの研究がしたい」と、米子高専を卒業後に島根大学へと進学された川上太知先生。現在は公立大高専で助教を務めていらっしゃり、研究だけではなく教育にも力を入れられています。そんな川上先生の教育に対する思いについて、お話を伺いました。
中学のときに見たポスターが、高専を知ったきっかけ
-米子高専に進学した理由を教えてください。
中学生の頃、学校に鳥取県の高校が載っているポスターが貼られていました。公立や私立の高校が書かれている中、端の方に「国立」の欄があって、そこに書かれていたのが米子高専だったんです。初めて高専という存在を知りましたね。
そして、高専について調べていくうちに、「面白そうな学校」だと感じたんです。それに、僕の受験時が、ちょうど米子高専の全面改修が終わったタイミングだったので校舎が綺麗で(笑)
高校のオープンキャンパスにも行ったのですが、いろいろな条件が重なり自分が成長できる環境だと感じたことから、米子高専を受験しました。実は、第一志望は機械工学科だったのですが、入学することになったのは電気情報工学科でした。
入学してから高専の先生に聞いた話によると、僕の成績だと「機械よりも電気の方が良かった」そうです。当時はどの学科に行っても自分の成長につながると思っていたので、合格が決まったときは嬉しかったですね。
1年生の頃は、一般科目や機械の分野も学べた
―高専での生活はどうでしたか。
高専に入ったばかりの頃は、電気や情報の分野ばかり学ぶと思っていました。だから、1年生のときは一般科目の授業も多くて驚きましたね。あと、機械の分野も実習で触れることがあり、工場で旋盤を回したり、溶接を体験させてもらったりしました。電気情報工学科というと、プログラミングや電気回路を組んでばかりの日々を過ごすと思っていたので、想像以上に幅広い分野を学ぶことができて良かったですね。
それと、中学までと授業スタイルが違うことにも驚きました。中学までは先生が黒板に書いた内容をノートに写すのが一般的でしたが、高専だとパワーポイントのスライドを使って授業する先生が多かったんですよ。その方が視覚的にわかりやすかったので、今の自分の授業スタイルに影響を与えてくれましたね。
パワーエレクトロニクスの研究に憧れて、島根大学へ
―島根大学に進まれた理由を教えてください。
高専4年生の後期に仮配属された研究室で、パワーエレクトロニクスに近い研究をしていたんです。そこでパワーエレクトロニクスは電気の全般で使われていることを知り、もっと学びたいと思うようになりました。当時は米子高専にパワーエレクトロニクスを専門にしている先生がいらっしゃらなくて、しっかりと学べる環境がなかったので、大学で専門的に学ぼうと決めましたね。
そこでいろいろな大学の研究室を調べたところ、島根大学(現:名古屋大学)の山本真義先生が、パワーエレクトロニクスの研究をされていることを知りました。「絶対に山本先生の研究室に入りたい」と思い、それから猛勉強しましたね(笑) ただ、山本先生の研究室は人気が高く、大学生の頃は所属することが出来ませんでした。しかし、修士に上がるタイミングで山本先生の研究室に入ることができ、パワーエレクトロニクスを学ぶことができました。
―大学では、どのような研究をされていたんですか。
電源の制御に関する研究をしていました。常に一定の電流や電圧を送るためにはどうすれば良いかという研究で、制御工学という分野になりますね。例えば、電気自動車が走っているとき、急にアクセルを踏んだり、急な坂道を上ったりするためには、さらに多くの電気エネルギーが必要となります。本来は一定の電気を送り続けていますが、急に大量の電気が必要になるわけです。
しかし、電気の供給量にばらつきが出ると、綺麗な電気を送れなくなります。常に綺麗な電気を送るためには制御が必要なので、パワーエレクトロニクスが使われるのです。
僕の研究では、新しい回路を制御するためのコントローラーをつくるために「モデリング」という作業をしなければならないのですが、複雑な回路になればなるほどモデリングも複雑になって、大変な思いをしましたね(笑) この経験から「モデリングを簡単にすること」も、現在の研究テーマの1つになっています。
「型を守る」「型を破る」「型を離れる」
―川上先生の教育方針を教えてください。
僕は「守破離」を教育方針として掲げています。その一環として、研究室のゼミの中で学生に毎週スライドをつくらせているんです。最初は僕がつくったスライドの「型を守り」、慣れてきたら「型を破り」、だんだんアレンジを加えて自分らしさをプラスしてもらっています。そして学会発表のタイミングで、「型を離れ」自分らしいスライドで発表してもらうことを目標にしているんです。
最初は苦労していた学生たちも、だんだん「型」が自分のものになってきて、卒業発表でつくったスライドを見ると、そのクオリティの高さに毎回驚いています。指摘されたところのブラッシュアップを学生が怠らないからこそだと思いますね。
必ずスライド上限「16枚」を守り、授業を行う
―高専生時代の影響もあって、川上先生もスライドで授業されています。
そうですね。実は僕、スライドをつくるときに上限を決めていて、16枚にしています。16枚を超えると90分の授業では収まらないことに気づいたからです。要点をまとめて、分かりやすいスライドになるよう心がけていますね。
だからといって説明を省いているわけではありません。僕自身が優秀な高専生ではなかったので、授業が分からない学生の気持ちがよく分かるんですよ。だから、自分が高専生のときに分からなかった部分は、特に丁寧に説明するようにしています。
学生以外にも電気の魅力や知識を伝えていきたい
―現在の取り組みについて教えてください。
研究室も6年目となり、どんどん大きく成長できていると実感していますね。最近感じているのは、「教育」の比重が大きくなったことですかね。授業で使っているパワーポイントをホームページに掲載したところ、それを見てくださった企業の方から「外部講師をしてほしい」というご依頼をいただきました。
自動車の機械周りをつくっている企業なのですが、機械系の知識は社員の方が既に持たれているので、僕の専門である電気分野の授業をしてほしいとのことでした。電気自動車がこれから普及していく時代ですので、電気分野の知識も必要だと思われたようですね。毎週3時間の授業をさせてもらい、1年間かけて電気のこともわかる人材に育てることが目標です。
高専だと、電気分野に興味を持っている学生に対して授業を行いますが、今回はそうではありません。電気分野にほとんど触れたことがない方々に対して、電気の魅力や知識を伝えなければならないので、現在は試行錯誤を繰り返しながら、スライドを準備していますね。
大学編入を成功させるには、情報収集が鍵
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
高専生は、主体的に行動することが大切だと思います。研究室に配属されて、僕たち教員から指導を受けることもありますが、自分自身の研究になるので、受動的ではなく能動的に動いて、いろいろなことにチャレンジしてほしいですね。僕も研究室の学生には、さまざまなことにチャレンジして、経験を積んでもらっています。
そして、大学編入を考えている学生は、情報を自分で取ってくる必要があります。高専に「大学編入専門の先生」はめったにいません。僕はずっと情報を集めていたので、よく高専生の相談に乗っています。今後、どういうエンジニアになりたいかを考えて、自分にぴったりの大学を選んでくださいね。
川上 太知氏
Taichi Kawakami
- 大阪公立大学工業高等専門学校 総合工学システム学科 エレクトロニクスコース 助教
2011年 米子工業高等専門学校 電気情報工学科 卒業
2013年 島根大学 総合理工学部 電子制御システム工学科 卒業
2015年 島根大学大学院 総合理工学研究科 博士前期課程 総合理工学専攻 機械・電気電子工学コース 卒業
2018年 島根大学大学院 総合理工学研究科 博士後期課程 総合理工学専攻 機械電子情報工学コース 単位取得退学
2022年 大阪府立大学大学院 工学研究科 博士後期課程 電気・情報系専攻 電気情報システム工学分野 卒業
2017年 大阪府立大学工業高等専門学校 総合工学システム学科 電子情報コース 助教
2022年より現職
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