インタビュー

お寺の「おそなえ」を「おすそわけ」――高専での学びを、いかに社会に還元していくか

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認定NPO法人「おてらおやつクラブ」は、お寺の「おそなえ」を「おさがり」として、さまざまな事情で困りごとを抱えるひとり親家庭へ「おすそわけ」している団体です。全国1,818の寺院、589の中間支援団体と連携しながら、約23,000人の子どもたちを支援しており(2022年5月調べ)、2018年にはグッドデザイン大賞を受賞しました。今回は、認定NPO法人おてらおやつクラブ代表理事の松島靖朗さんと安西崇さん(奈良高専情報工学科卒・奈良先端大)、システムの運用に携わっている理事の桂浄薫さんと古賀貴士さん(奈良高専情報工学科卒・奈良先端大)に、活動のきっかけや活動内容、高専生への期待などを伺いました。

おてらおやつクラブから学生たちに「助けて」って言いました

お寺の前で。
▲(左から)安西崇さんと松島靖朗さん

―お二人が出会うきっかけや、その時の印象を教えてください。

松島さん:3年くらい前に、お寺で“夜間実習室”っていう企画をやっていたんです。月1回、夜の8時から10時くらいまで若い子たちが集まって本を読んだり、宿題をしたり、時には人生相談をしたり、思い思いのことをする居場所づくりの企画でした。そこに来ていた子の紹介で、安西君が初めてここ(安養寺)に来てくれたんです。

安西さん:専攻科1年の終わりに友達に誘われて行きました。この頃の僕は、興味ある場所や行事には自分から積極的に足を運んでいた時期で、いろんな大人たちとお話をさせてもらう機会があったんですね。でも、同時に世の中にはいろんな大人がいるってこともわかってきて。

安養寺の外観。
▲松島さんが住職を務めていらっしゃる安養寺の外観

安西さん:そんな中、松島さんはお会いした瞬間から、この人は自分たちを応援してくれる人だっていうのがわかったんです。「あ、この人はついていける人だ」みたいな(笑)

松島さん:それ以降も、ふらっと会いに来るみたいな、そんな感じだったよね。

安西さん:2回目からは、「たまたま通りがかったんで」とか適当に理由をつけては、足繁く松島さんに会いに行くようになっていましたね。関係をつくりたくて。

お寺の中で話すお二人。

松島さん:それで、2年前かな。お寺が行事などで忙しくなるお盆のアルバイトに安西君が奈良先端大の子たちを連れて来てくれたんです。アルバイトのあと、おてらおやつクラブが置かれている状況について話をして、「君らNAIST(奈良先端大)やったら、システムのこと出来ひんの? ちょっと助けてくれよ」って話したんです。

―当時のおてらおやつクラブの課題は、どのようなものだったのでしょうか。

松島さん:2019年の国民生活基礎調査(厚生労働省)によると、日本の子どもの約7人に1人が相対的貧困状態です。今もまだまだ続いていますけど、コロナ禍もあって、全国の家庭から「助けてほしい」「おやつを送ってほしい」という声が、事務局にたくさん届くようになったんです。基本的にはそうした声に対して事務局から直接「おすそわけ」を送るという対応をしていたんですけど、あまりにも数が多くて限界が来ていました。

でも個人情報やプライバシーの問題があって、事務局以外の場所から発送することは難しい。じゃあどうすればいいかと思ったときに、「匿名配送システム」があればこの問題をクリアできるのではないか?と思いつきました。いろいろな企業に相談する中で、ヤマト運輸さまの仕組みを使えばそれが実現できるということを知りました。

おそなえのおやつ
▲おそなえのおやつなど

松島さん:ただ、実際に匿名配送システムをおてらおやつクラブに導入するところでいろんな課題もあったし、実装するにはプログラムを書ける人が必要だったんですね。それで、おてらおやつクラブから学生たちに「助けて」って言いました。

安西さん:僕ら5人で来たんですけど、お堂に上がって話を聞いていたら、いろんなアイデアが出てきたんですよ。“こうしたら”とか“ああしたら”とか盛り上がって(笑) そして、僕らは奈良先端大で起業部として活動していたので、この機会をきっかけに起業して、仕事として受注することにしました。そこから半年間、おてらおやつクラブと“議論して開発して”を繰り返しながらシステムを作り上げ、納品したんです。

松島さん:このシステムのおかげで、おてらおやつクラブ事務局から各ご家庭に荷物が届くだけでなく、全国どこのお寺からでも匿名でお送りできる機能が追加されたんですね。今も「助けて」の声は増え続けていますので、そうした皆様の声に対応できる基盤ができたのは、すごく助かっています。

学校で学んだことが、社会でどれくらい通用するか試してみたかった

桂浄薫さんと古賀貴士さん
▲(左から)桂浄薫さんと古賀貴士さん

―桂さん(善福寺)と一緒に、システム運用をするようになったきっかけを教えてください。

古賀さん:安西君と一緒に行った燈明のアルバイトをきっかけに、おてらおやつクラブのアルバイトをするようになったんです。最初は安養寺ホームページの運営などをしていましたが、システムやプログラムもやってみないかって誘われて。

桂さん:コロナの前は私も頻繁に安養寺に行っていたんです。そこで古賀君がアルバイトしていて、その時に会ったのが最初ですね。

古賀さん:僕としても、これまで学校で学んできたことが、実際の社会でどれくらい通用するのか試してみたかったので、「ぜひ、やらせてください」って言いました。おてらおやつクラブのシステム全般を担当されているのが桂さんでしたので、桂さんとコミュニケーションしていく回数も増えて、それで善福寺で作業するようになりました。

―学校の外に一歩踏み出して活動するのは勇気のいることだと思いますが、いかがでしたか。

古賀さん:システムの開発は大変でしたけど、「自分たちが学んできたことが通用する」「社会に貢献できるんだ」ってわかっていく過程は楽しかったですし、同時に嬉しかったです。もちろん、プログラミングは学校で学んだレベルで、一般的にみたら未経験の素人レベル。アイデアを実際にシステムに昇華させるっていうのは初めての体験で、気持ち的には結構怖いところもありましたね。でもセキュリティ面も含めて、一から勉強してカバーしました。

桂さん:もし、彼らがやってくれてなかったら、このシステムのスタートはもっと遅くなっていたと思います。彼らは本当によく作業してくれたし、作りながら変わっていく仕様にも柔軟に対応してくれたと感謝しています。

―システム運用の活動内容と活動を通じて、感じたこと・成長したことは何ですか。

古賀さん:今、善福寺でやっている活動は、匿名配送システムのアップデートです。システムが出来上がって、実際にユーザーが使うと、いろんな要望が挙がってくるんですよ。ただ単に自分が納得するようなシステムをつくるだけじゃなくて、顧客の要望をしっかり聞いて、それを反映させないといけない。そこを学べたのは大きいです。学生時代のインターンでは、エンドユーザーの声まで見えなかったので。

おすそわけを梱包する様子
▲「おすそわけ」を梱包する様子

桂さん:実際、彼らの活動にとても助けられています。このヤマト運輸さまのAPIを利用した集荷依頼システムと匿名配送システムは、おてらおやつクラブの最重要システムといっても過言ではありません。これがないと、おすそわけを送ることもできないですからね。

古賀さん:あと、活動を通じて成長したと思う点のもう1つは、コミュニケーション能力です。おてらおやつクラブでの活動を通じて、情報やプログラミングの専門用語がわからない人に対して、よりわかりやすくシステムの内容を説明する能力はかなり向上したと思います。

お話ししている様子

古賀さん:もともと、子どもの貧困問題とかって全然知らなかったんです。でも、こうやって関わっていくうちに、こんなに困っている人たちがいて、その人たちを助けようとしている熱意を持った人たちがいることを知りました。自分の活動が困っている人の助けになっているっていうのが、目に見える形でわかっていくのは貴重な経験でしたね。

「行けたら行くわ」でなく、「行けるなら行った方がいい」

―最後に、高専生にエールをお願いします。

桂さん:今、日本ではDXという言葉が広まっていますけど、実際なかなか進んでおらず、日本はIT後進国です。そういう現実の中で、スキルを持っていて、経験を積んだ高専生はやはり会社や社会にとって即戦力になると思います。ぜひ、高専で身に着けたものを広く社会に役立てて欲しいです。それで社会がもっと良くなるなら、貧困問題やさまざまな社会課題の解決もスピードアップしていくと思います。

古賀さん:この活動を通じて、高専にいる時にやっておけばよかったなって思ったことが1つあります。それは「フットワークを軽くすること」です。僕は、本科と専攻科あわせて高専に7年間いたんですけど、高専が好きになると、居心地がよくなって、高専から出ない生活になっちゃうんですよね(笑)

おてらおやつクラブと関わったのは偶然なんですけど、いろんなところに足を運んでいれば、チャンスは絶対に転がっているんです。だから、何か誘われたときは、「行けたら行くわ」っていうんじゃなくて、「行けるなら行った方がいい」と思いますね。

お寺の前でツーショット

今は“問い”より“答え”の方が多い時代

松島さん:よく言うんですけど、技術をもっているってことは“答え”を持っているってことなんです。ただ、今は、“答え”の方が多くなってしまって“問い”がない時代だと思います。だからなのか、その“答え”が何に対する“答え”なのかってことを理解していない人が多いです。“問い”がそもそもどこにあるのか想像することは、すごく大事なんですよ。

「技術を持った自分に何ができるか」をさらに考えてみてほしいんです。学生時代はそれができる環境だと思います。“問い”をしっかり持って、いろいろなことにチャレンジしてみてほしいですね。

安西さん:自分で行動できるようになってきたら、「思ったより自分はできる」って自信を持ってほしいです。起業って言葉を聞くと、どうしても有名な実業家や起業家をイメージして、何か壮大なことをやっているように思いがちですよね。でも、現実には法務局に届けを出せば誰でも社長になれるし、自分で商品やサービスを売る権利が得られるわけです。世の中には、自分たちの能力で解決できる社会の課題がたくさんあるってことを知ってもらいたいですね。

松島さん:そもそも、高専にいること自体が、大きなチャレンジをした結果だと思うんですよね。その一歩を進めることができたんだから、その歩みをどんどん進めてほしいです。できるだけ若いうちに、自分で選んで、道を切り開いていく経験をたくさん積むことが大事だと思います。

もちろん、結果として失敗におわることもたくさんあるでしょう。それも一つの学びなわけです。失敗は失敗じゃなくて、何をしたらいけないのかを学んだということですから。いろんな事を吸収できるというのは若い人の特権だと思うので、チャレンジしていくことを大切にしてほしいですね。

提灯のツーショット

認定NPO法人おてらおやつクラブ 

〒636-0311 奈良県磯城群田原本町八尾40

https://otera-oyatsu.club/

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