留学を経験し、海外の大学院を選ばれた金沢工業大学の岡田豪先生。カナダでされていた蛍光体の研究を、現在も引き続き行われています。教える立場に興味があったという岡田先生に、海外でのエピソードや研究内容についてお伺いしました。
部活を通して「自分で考える力」が身についた
-岡田先生は、舞鶴高専出身なんですね。
小学生の頃からテレビで放送されていたロボコンを見ていたので、「高専はすごいところ」という認識があったんですよね。僕は理科が好きだったこともあって、若いうちから専門的な分野が学べる高専に進むことを決めました。
でも、舞鶴高専でロボコンをしていたわけではないんですよ(笑) 「ロボコンがやりたい」という気持ちはありましたが、それ以上に小学生の頃から続けていたサッカー部に入りたかったんです。サッカー部の監督はサッカー経験者ではなく、自分たちに裁量権を与えてくれていました。練習メニューや試合の戦略、メンバー決めなども自分たちでできたので、自分で考える力が身についたと思いますね。
―高専で印象に残っている先生はいますか。
3年生から5年生まで(後に専攻科での2年間も)担任だった中川重康先生ですね。研究室も中川先生を選んだので、1番お世話になったと思います。「自分の頭で考えること」や「自主性」を大切にされている先生だと感じていました。教えるときは少しずつヒントを与えてくれながら、答えに辿り着くまでの楽しみを教えていただきましたね。
中川先生の研究室を選んだ理由は、研究内容に興味があったからです。太陽電池の研究をされていて、僕は太陽電池で使う「インバータ」という装置の研究を行っていました。インバータでは太陽電池が発電するエネルギーを電気として効率的に取り出すことをしています。いかに効率よくするか、試行錯誤していたことを覚えています。
従来の方法を深めるよりかは、新しい方法を考えて回路を立てたり、装置を組み立てたりしましたね。インバータの研究は、実証評価をするまで研究を進めることができました。学校のテストなどには答えがありますが、研究は答えがまだ出ていない状態であったり、答えは1つであるとは限りません。その分難しい事に挑戦しましたが、その事にやりがいを感じる事ができ、今につながるとても良い経験になったと思います。
「今しかない」と休学して、留学することを決意
―専攻科に進まれた理由を教えてください。
当時は舞鶴高専に専攻科ができたばかりで、大学に編入するか、専攻科に行くか迷っていたんですよね。大学に編入して新しい環境に移ると、順応するための期間が必要になります。その期間で進められる研究もあるのではないかと思い、同じような環境で研究を続けられる専攻科に進むことを決めました。
専攻科に進んでから、最初は順調に進んでいましたが、1年目の夏頃に「留学したい」と思うようになったんですよ。大学院に進んでから留学することも考えましたが、留学期間中は研究から離れる事になりますし、戻った後に取り戻すための時間や、就職するなら就活との両立などを考えたときに「留学するなら今しかない」と思い、専攻科の1年生と2年生の間に休学してカナダに留学しました。
―留学されてみて、いかがでしたか。
1つの場所にとどまるのではなく、いろいろな場所を見たかったので、1年間カナダを転々としました。語学学校にも通いながら言語学習もしていたのですが、たくさんの人との出会いがあったのは大きな収穫でしたね。
高専では5年間、同じ環境で過ごしていました。クラスも5年間一緒だったので、顔を合わせるのも同じメンバーだったんですよね。だから、留学先でさまざまな国や考え方の人と出会えて、人生観は変わりました。自分で判断して動かなければならない事ばかりで、主体性が身につきましたね。また、自分ひとりでも上手くやっていくことができるという自信にもつながって、視野を広げることができたと思います。
留学先のカナダにて修士・博士課程を修了
―岡田先生は海外の大学院に進まれたんですね。
留学したことで、海外の大学院に行ってみたいと思ったんですよ。いくつかの大学を見たところ、カナダのサスカチュワン大学のカサップ先生が興味のある材料の研究で「カナダリサーチチェア」という研究拠点を持っていることを知り、ハイレベルな研究をしているようだったので、カサップ先生のもとで研究することを決めましたね。物腰が柔らかくて、ジョークも好きな面白い先生でした。自分の事を買ってくれて、本当にいろんな経験をさせてくれました。
―大学院では、どのような研究をされたんですか。
修士では、レントゲン撮影の装置に使われる材料に関する研究をしていました。X線を電気信号に変換するために半導体が使われますが、半導体の主流であるシリコンだとX線は効率良く電気信号に変わらないんです。
そこで蛍光体を使ってX線を可視光などの「光」に変えることで、シリコン製の半導体が使えるようにならないかと考えました。蛍光体とは、一般的に紫外線などが当たったときに光るもので、アクセサリーやネイルにも使われているんですよ。
修士課程の後に日本で就職するつもりだったのですが、修了前のタイミングでカサップ先生が新しいプロジェクトの予算を取ってきたんです。その研究も蛍光体でX線を検出するものでしたが、全く新しいアプローチで、最先端の施設で研究する事になるのでとても魅力的に映りました。そこで当初の予定を変えて博士過程に進学する事に。
このプロジェクトに博士課程から携わるようになって、「蛍光顕微鏡」という、放射線の分布を細かく見ることができる装置を使って研究を行いました。実は、蛍光体の材料の中で「光」を司っているのは、ごく一部なんです。世の中に無限にある材料の中から良い特性を持つものを見つけるのは難しかったですが、宝探しをしているみたいで楽しかったですね。
未来の研究者を育てるチャンスを掴み、助教の道へ
―奈良先端大で働かれるようになった理由を教えてください。
将来的に「未来のエンジニアを育てる立場に立ちたい」と思っていて、そのためには企業で働いた経験があった方が良いと考えていました。でも、博士を修了するときに奈良先端大の助教の話が舞い込んできて、「このチャンスはもう二度とないかもしれない」と思って応募したところ、ご縁をいただきました。
僕が専門としている分野は、まずは直感的なイメージを掴むことが大切だと思っています。直感的な捉え方ができないと、次に深い理解に進めることが難しいと思っているからです。だから、学生と接するときにはなるべく身近なものに例えて説明をするように心がけています。ひとつひとつ丁寧に教えることで、学生の理解も深まると思うんですよね。
そして、学生には「面白い」と思って研究に取り組んでほしいので、研究の楽しさも伝えるようにしています。僕の教え子が将来的に活躍する研究者になってくれたら、本当に嬉しいですね。そのためにも、学生に対して精一杯サポートしたいと考えています。
思い切って挑戦することが大切
―小中学生や高専生にメッセージをお願いします。
高専は、若い年齢から専門分野に触れられる貴重な場所です。僕は電気工学科だったので、1年生の頃から電気回路の授業がありました。電気回路の中で何が起きているのかって外から見えないので、なかなかイメージができない分野だと思うんですよ。理解するのにも時間がかかるので、電気回路に限らず、頭が柔軟な若いうちから専門分野を学ぶことができて良かったですね。
僕は海外で留学をした経験もあるのですが、今はインターネットを使ってオンラインで学べる良い時代になったと思います。高専生の中には「英語が苦手」だという人も多いそうですが、語学を習得するなら早いうちが良いです。今後仕事していく上で海外の人と話す機会が沢山増えると思うので、英語には触れておいた方が良いと思いますよ。
チャンスを掴むかどうかは、自分次第です。「上手くいかなかったらどうしよう」と不安になることもありますが、思い切って挑戦してみることが大切です。そして、自分自身の可能性を広げたいと思う人には、進学して外の世界を見てみることも良いんじゃないかと思いますね。限られた学生生活を充実させるためにも、恐れずにいろいろなことにチャレンジしてみてください。
岡田 豪氏
Go Okada
- 金沢工業大学 応用化学科 准教授
2004年 舞鶴工業高等専門学校 電気工学科 卒業
2007年 舞鶴工業高等専門学校 専攻科 電気・制御システム工学専攻 修了
2010年 カナダ・サスカチュワン大学 電気・情報工学科 修士課程 修了
2014年 カナダ・サスカチュワン大学 電気・情報工学科 博士課程 修了
2014年 カナダ・サスカチュワン大学 電気・情報工学科 博士研究員
2014年 カナダ・レイクヘッド大学 物理学科 博士研究員(兼任)
2015年 奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 助教
2018年 金沢工業大学 応用化学科 講師
2022年より現職
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