全国の高専を運営する組織・国立高等専門学校機構が推進している事業の1つである「半導体材料・デバイス研究ネットワーク」。機構のスケールメリットを活かした、複数高専の教職員が連携する研究プロジェクトへの経費支援が目的です。
代表をつとめる都城高専の赤木洋二准教授にお伺いしました。
全世界のエネルギーを担う?太陽光
―先生が太陽電池の研究分野に進んだきっかけを教えてください。
私は都城高専が母校なんです。そのときの先生が太陽電池を研究されていて。「すごくいいな」と思ったのがきっかけですね。
石油や石炭などのエネルギー資源は有限で、枯渇が懸念されています。そこで注目されているのが太陽光のエネルギーなんです。
太陽光は、地球に降り注ぐ1時間程度の日射量で全世界の消費エネルギーをまかなえるほどの膨大なエネルギーを持っています。電気を集めてそれを蓄積することができれば、年間を通して発電する必要がなくなるわけですよね。
また、太陽の寿命は50億年と言われています。地球の寿命よりも長いんです。このように膨大でほぼ無限と言えるエネルギーを持つ太陽光を使わない手はない。太陽電池はこれからの世界にとってすごく魅力的なものだと思いました。
現在は、真空蒸着法を用いたCu2SnS3系太陽電池用薄膜の作製とデバイス化の研究をしています。Cu2SnS3系太陽電池は、無毒で地殻に豊富な元素から構成されるのが特徴で、光の吸収率も高く、発電効率のいい太陽電池になると期待されています。
経験と実績をつみ、循環させたい
―赤木先生が代表をつとめている「半導体材料・デバイス研究ネットワーク」について教えてください。
本ネットワークは、高専機構全体の外部資金獲得の向上を図るため発足しました。高専は、大学と比べて外部資金が少ない現状があります。研究室の規模が小さく、大がかりな研究がしにくいためです。
全国の高専において同様のテーマで研究している教員を連携させるネットワークを形成し、研究活動の活性化を図ります。そうして弱点を補いながら、研究成果の拡大を目指す。結果的に外部資金の獲得につながっていくと思いますね。
―そもそも外部資金の獲得はどのような仕組みなのでしょうか?
国からの科学研究費(科研費)助成事業、政府研究開発プロジェクトいわゆる「国プロ」、その他さまざまな財団の公募などがあるんです。条件が合えば申請書を書き、審査が通ったら資金を獲得できるという流れです。だから、公募がないか常にアンテナを張る必要があるんですね。
審査のとき、論文や学会発表など実績がものをいいます。「このプロジェクトは成果が出せそうだ」と思われると、審査が通る。出した成果をもとに新たな申請をして、また研究成果を出して……という風に、ずっといい循環を続けていけたらいいなと思っています。
―外部資金獲得は、どうして必要なのでしょうか。
外部資金の中身は、直接経費と間接経費の2つに分類されます。いずれも、研究や高専機構の運営のために欠かせません。
外部資金獲得の方法はさまざまですが、高専の社会実装力を考えると、企業との共同研究が一番大事じゃないかと思うんです。
ところが、私の研究ネットワークは企業との繋がりが弱いのが現状だと感じています。高専らしさを出すためにも、共同研究を推進していく必要があると考えているところです。
そのため、この研究ネットワークでは「共同研究の話があったらまず相談して」と呼びかけることにしました。自分の研究分野外でも、ネットワークの先生に協力を仰げば引き受けられる可能性が広がるはずなので。
課題を1人で抱え込まず、ネットワークの先生と協力しながら企業との共同研究の経験を積むことから始める。それらを解決していくうちに、実績が出てきて良い循環に繋げられるんじゃないかと思うんです。
他分野連携でチャンスを掴む
―連携を図り、活性化させるにはどうすればいいと思いますか?
研究報告会や学会に顔を出し、いろんな先生とお話をするなど情報交換は大事だと思います。あとはやはり、色んなところにアンテナを張ることですかね。自分の想定してない分野に研究が使われることって結構あるんです。
例えば、農の分野。農産物の育成には電気デバイスを使用することも多いので、実質は工学分野も関わります。農工連携と言えるわけです。そこで、農作物を育成する際に過剰となる余った太陽光をエネルギーとして変換して供給できないかと。実現はしなかったのですが、ある先生に話を持ちかけたことがありましたね。
研究ネットワークがあれば、協力者を募ったり共同研究のお誘いができたり可能性が広がるはずです。そこでチャンスを掴みとるかどうかだと思うんですよ。
アイデアを出すにはさまざまな情報が必要です。いろんな先生がいらっしゃれば、多くの情報が自然と入ってくる。やっぱり先生方とお話するのが大切ですよね。学会も大事だけど、その後の懇親会も重要になってくるわけです(笑)。
―研究ネットワークの今後の目標はありますか?
間接経費が十分にあれば、人件費にもあてられる。例えばアルバイトを1人増やすことだってできますよね。そうすれば、教職員の負担が減って、研究や事務作業が効率よく進められるようになるはず。
研究で成果をあげて、すこしでも間接経費を多く上乗せすることができれば、高専機構の運営面でも力になれるんじゃないかと思うんです。
1994年 鹿児島大学 工学部 電気電子工学科 卒
赤木 洋二氏
Yoji Akaki
1999年 九州大学大学院 総合理工学研究科 材料開発工学専攻 修了、都城工業高等専門学校 電気工学科 助手、2005年 同 助教授、2007年 同 准教授
2005年 宮崎大学大学院 工学研究科 物質エネルギー工学専攻 博士課程 修了
2014年 北陸先端大学院大学 教育連携アドバイザー、九州パワーアカデミー 教育部会 委員
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