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【現地レポート】自助・共助・公助を技術でつなぐ。第4回高専防災減災コンテスト最終審査会に密着取材

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2026年1月24日(土)、つくば国際会議場(茨城県つくば市)にて【第4回高専防災減災コンテスト 最終審査会】が開催されました。その様子や審査結果、文部科学大臣賞(最優秀賞)受賞チームの取り組み内容などについて、最終審査会で司会を務めた長岡高専出身のサイエンスライター、堀川晃菜さんがレポートします。

◆関連記事へのリンク
第4回高専防災減災コンテスト 中間報告
審査員の岩波越氏(防災科研 研究主監)へのインタビュー記事

半年間のアイデア検証を実施した10チームが、つくばに集結

今年度で4回目となる高専防災減災コンテスト。2025年6月末までに全国の高専15校から34件の企画提案があり、書類審査を経て10件がアイデア検証に進出。同年7月から12月まで半年間かけて行われたアイデア検証の成果が、最終審査会で披露されました。

最終選考に進出した10チームの一覧はこちら:
https://www.bosai.go.jp/kosencon/contest_2025.html

最終審査は、アイデア検証報告資料、ポスターおよび最終審査会当日のプレゼンテーションをもとに、以下の5つの観点から審査が行われました。

  1. 地域の課題や特性を踏まえた検証プロセスの明確さ
  2. 聞き取りや現場観察を踏まえた分析
  3. 地域への普及・社会実装の可能性
  4. ポスターの内容とデザイン
  5. 最終審査会でのプレゼンテーション

約1年間の取り組みをぎゅっと10分間に凝縮した最終プレゼン。実際の制作物はもちろん、大規模な実験装置が披露できない場合でも、検証過程の一部をデモンストレーションで披露するなど、工夫を凝らした発表が行われました。ヒアリングの成果として、地元企業や行政から寄せられた声を紹介し、一般市民にテストユーザーとして協力してもらった様子を動画で披露するチームも。具体的なビジネスプランを提示するチームもありました。

豊田高専「WAS断水被害調査システム」
▲豊田高専「WAS断水被害調査システム」
福井高専「災害時孤立地域の自主避難ビニールハウスの謎を解き明かす。そしてその先へ」
▲福井高専「災害時孤立地域の自主避難ビニールハウスの謎を解き明かす。そしてその先へ」
福井高専「ベストなベスト~身に着ける安心~」
▲福井高専「ベストなベスト~身に着ける安心~」

質疑応答では、審査員から社会実装を見据えた的確な指摘と発展的な助言があり「書類審査の段階から、このアイデアのファンでした」と応援のコメントも寄せられました。

審査員からの質問の様子
▲審査員からの質問の様子

さて、10チームの発表後は、いよいよ選考の時間。その間、会場ホールの周辺通路では、ポスターセッションが行われ、来場者と高専生が直接、交流する姿が見られました。こちらも通路が聴衆で埋め尽くされる盛況ぶりでした。

▲ポスターセッションの様子

一方で、審査は難航。司会を務めた私も、審査結果の到着をいまか、いまかと待っていました。そして、ついに発表の時…! 結果はこちら。

受賞校チーム名
文部科学大臣賞沖縄高専災害発生時の公衆通信網遮断時でも使用できるスマートフォン~アドフォン~
高専機構賞豊田高専WAS断水被害調査システム
防災科研賞福井高専災害時孤立地域の自主避難ビニールハウスの謎を解き明かす。そしてその先へ
国際科学振興財団賞福井高専ベストなベスト~身に着ける安心~
NHK会長賞和歌山高専風船を用いた耐震化『BAL-SS』(バルス)
応用地質賞鹿児島高専卵の殻を用いたシラスの改良~廃棄物削減を目指して~
関電工賞沖縄高専AI音波消火器を活用したドローンSOFIA(ソフィア)
三菱電機エンジニアリング賞函館高専「ココロボ×電波でつながる函館プロジェクト」
~函館高専×FMいるかから始まる防災ネットワーク~

最優秀賞に相当する文部科学大臣賞に輝いたのは、沖縄高専「アドフォン」でした。それでは、その成果と評価のポイントについて紹介します。

災害時こそ、人と人をつなぐ「アドフォン」

地震や台風などで基地局が被災し、4G/5Gの公衆通信網が途絶えた際、被災状況の把握の遅れによる二次災害が問題となっています。2011年の東日本大震災では震災の2日後まで通信できない地域が広範囲に及んでいました。そこで、災害時でも情報の収集・提供が行える“災害に強い通信ネットワークの構築”を目指したのが、沖縄高専のメンバーです。

文部科学大臣賞を受賞した沖縄高専「アドフォン」
▲文部科学大臣賞を受賞した沖縄高専「アドフォン」

具体的には、アドホック通信によって被災者同士での安否確認や情報交換を行える「アドフォン」を開発。アドホック通信とは、Wi-FiやBluetoothなどの無線技術を使うことで、ルーターやアクセスポイント(親機)を介さずに、スマートフォン(以下スマホ)やPCなどの端末同士が直接通信する方式のこと。「アドフォン」で災害対策本部に情報を集約させることで、迅速な被災者支援につなげようというアイデアです。

実は、沖縄高専からは昨年度「災害時孤⽴地域の情報架け橋 アドホック防災ヘルメットの開発」チームが参加し、防災科研賞を受賞。一部のメンバーは続投し、今年度2回目のチャレンジで見事、文部科学大臣賞を掴みました。「先輩たちが積み上げてきたものを証明できて良かった」と安堵の表情を浮かべるのは、メンバーの山田創介さん(情報通信システム工学科2年生)です。これまでの経験を今回どのように生かしたのでしょうか。

「昨年度の防災ヘルメット『コメット』もアドホック通信を用いるのですが、通信機材やAIカメラがむき出しになっていたため、耐久性についての指摘を受けていました。また、本体価格が8万円と高額であること、ヘルメット型ゆえに汎用性や機動性に乏しく、平常時に出番がないといった難点もありました。そこで、これらの課題を克服し、軽量かつ安価で、いつでも使えるものにするため、スマホなどのタブレット端末と連動する『アドフォン』を考えました」

昨年度に開発した防災ヘルメット「コメット」と、今回開発した「アドフォン」
▲昨年度に開発した防災ヘルメット「コメット」(左)と、今回開発した「アドフォン」

通信操作やカメラ機能をスマホで代替することで、アドフォンはモバイルバッテリーの半分ほどの大きさを実現。軽量で常備できるようになりました。また、「コメット」はモバイルバッテリーから電源を得ていましたが、「アドフォン」はスマホからの電力供給でも稼働できるようになりました。

デバイス開発と並行して行われたのが、アドフォン用のアプリ開発です。メッセージ機能やオフラインでも使用可能な地図に加え、被災情報の収集も可能に。スマホのカメラで撮影し、建物の崩壊度や避難者数を画像分析するAIモデルを開発しました。また、アプリは名護市の小中学生に実際に試してもらい、子どもでも直感的にスムーズに使いこなせることを確認しました。

アドフォン用アプリの画面イメージ
▲アドフォン用アプリの画面イメージ
建物の崩壊度や避難者数を画像分析する、被災状況解析のAIモデル
▲建物の崩壊度(左)や避難者数を画像分析する、被災状況解析のAIモデル

ここまで聞くと、アドフォンの実用性やニーズの高さは自明の理のように思えますが、同時に、なぜ今までこうしたものが普及していなかったのかと疑問も浮かびます。これについて山田さんは「アドホック通信は複数のデバイスをバケツリレー方式につなぎ通信網を築きます。それが強みでもあり、弱みにもなってしまうのです。つまり、誰か一人が持っているだけでは機能せず、一定数のデバイスがないと十分な通信網が築けません」と話します。

デバイスを普及させるうえで避けて通れないのが、コスト面。「アドフォン」は約1万円とコメットから大きく単価を下げることに成功しましたが、ここにも試行錯誤がありました。当初は、ハードウェアの本体であるマイコンもなるべく安価なものを使用していました。ところが、通信試験で不具合が発生。そこで、コストは上がるものの、汎用性の高いRaspberry Pi(通称:ラズパイ)に変更することで通信試験をクリアしました。しかし「ラズパイは消費電力も大きいため、価格含めさらに改善したい」と話します。

質疑応答では、審査委員長の川島宏一氏(筑波大学 システム情報系 社会工学域 教授)からの質問もありました
▲質疑応答では、審査委員長の川島宏一氏(筑波大学 システム情報系 社会工学域 教授)からの質問もありました

この不具合の原因特定にも、苦労がありました。ハードウェアとソフトウェアに分かれて同時進行で開発を進めたため、不具合が起きた際、それぞれ一から見直して再開発することになったのです。しかし、その過程から得るものもありました。メンバー内で唯一、機械システム工学科に所属する2年生の喜納正直さんは「最初はLPWA通信が何かも分かりませんでしたが、情報系の人たちがどのように開発を進めるのか実際に知ることができました」と振り返ります。

LPWA(Low Power Wide Area)通信とは、低消費電力かつ数km〜数十kmの長距離・広域通信が可能な無線通信技術(LPWAN)の総称。さらにアドホック通信で数十キロ以上に延長できるため、多くの孤立地域で通信可能になります。一方Wi-Fiは、通信距離が短く、建物などの遮蔽に弱い上、消費電力も大きいことから、被災地では不向きなのです。

Wi-FiとLPWAによるアドホック通信の違い
▲Wi-FiとLPWAによるアドホック通信の違い(沖縄高専「アドフォン」説明資料より)

沖縄高専の所在地、名護市辺野古を想定したシミュレーションでは、通信網の構築に必要なアドフォンは18台と試算されています。今後、同市の協力を得て、防災訓練での実証実験が計画されています。

日本だからこそ、世界のフロントランナーに

川島審査委員長は、「沖縄高専の『アドフォン』は、市民をつなぐ力を持っています。技術を通して人間の協力を引き出す点が非常に価値あるものだと感じました」と講評。

さらに「今年の特徴として、AIの活用が目立ちました。DXからAIトランスフォーメーションへと時代は進んでいます。しかし、AIではできず、人間にしかできない2つの力を防災減災コンテストは培っていると私は思います。それは、第1に何が大切な問題なのかを探索、特定し、見極める力です。第2に、その問題について関係者と密にコミュニケーションをとって共感を巻き起こし協力を得る力です」と述べました。

川島審査委員長による講評の様子
▲川島審査委員長による講評の様子

防災には自助・共助・公助の要素がありますが「アドフォン」はまさに人と人をつなぎ、この三要素を橋渡しするアイテムになるでしょう。前出の喜納さんは「受賞して終わりではなく、むしろここからという気持ち。機械系としても、もっと貢献できることを増やしたい」と意気込みを語ります。

同じくメンバーの清水裕多さん(情報通信システム工学科2年生)は「私も台風被害で通信できない状況を経験したことがあります。今回の活動を通じて、改めて自分が住んでいる地域の特性、特に災害時に浮彫りになる地域課題について理解を深めることができました。社会実装に向け、先輩から引き継いだアイデアをさらに昇華させながら、今度は自分たちでも新たなアイデアを出していきたい」と抱負を語りました。

同チームの杉本凛さん(同科2年生)も「このコンテストに参加したことで、他高専の取り組みを通じて、さまざまな災害があることを知りました。鹿児島のシラス台地の地滑り、福井をはじめ北日本の雪害など、地域ごとの課題、そして災害に対する考え方を知って、視野が広がりました」と話します。

そして「防災・減災に携わる高専生の多さを実感し、心強く思えた」と話すのは前出の山田さん。別の高専コンテストで知り合った函館高専の5年生と再会し、さらに仲が深まったそうです。こうした高専生の横のつながり、ネットワークこそ、将来この国にとって大きな財産になるだろうと予感させる今回のイベントでした。 

最終審査会に参加した高専生のみなさん
▲最終審査会に参加した高専生のみなさん

川島審査委員長は「防災・減災というテーマは、日本だからこそ世界のフロントランナーになり得る分野です。災害が多いという現実は厳しいですが、それは同時に、世界に先駆けて実践と検証を重ねられるフィールドがあるということでもあります。将来性も高く、社会的にもビジネス的にも大きな価値を持つ分野です。PBL型教育で最も大切なのは、コンテスト後のリフレクションです。今の学びや反省点を振り返り、一段進化させ、次へつなげること。ぜひ実装へとつなげていってください」と、高専生にエールを送りました。

集合写真
 

○イベント情報
【第4回高専防災減災コンテスト 最終審査会】
日時:2026年1月24日(土)11:30~17:00
場所:つくば国際会議場 中ホール 300(茨城県つくば市)
主催:独立行政法人国立高等専門学校機構、国立研究開発法人防災科学技術研究所、公益財団法人国際科学振興財団
後援:文部科学省、一般社団法人全国高等専門学校連合会、日本放送協会(NHK)
協賛:応用地質株式会社、株式会社関電工、三菱電機エンジニアリング株式会社
HP:https://www.bosai.go.jp/kosencon/contest_2025.html

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