高専教員校長

自ら教え続け、研究し続ける“現役”の校長——立場が変わっても貫く「人づくり」の教育

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2025年4月、室蘭工業大学を退職し、函館高専の校長に就任した清水一道先生。校長となった現在も、学生との距離を大切にしながら、教育と研究の両面から高専教育に向き合い続けています。今回は、校長ならではの視点や高専での取り組み、学生への思いなど、さまざまなお話を伺いました。

高専生の選択の幅を広げる——校長就任に込めた想い

―2025年4月に函館高専の校長に着任されました。お話を聞いたとき、率直にどのように感じましたか。

実は以前から、「もし機会があれば、高専の校長という立場で教育に関わってみたい」という思いがありました。

私は大分高専を卒業し、大学に進学して博士号を取得し、企業も経験しています。高専卒業後の進路には、就職だけでなく大学進学や研究の道など、さまざまな選択肢がある。そのことをもっと広く知ってもらいたいと思ってきました。

高専生が、自分に合った道を選びながら、結果としてより良い人生を送れるような環境をつくれたら。そう考えていたところに今回のお話をいただき、「前向きに挑戦しよう」と思いました。

▲取材中の清水先生

―校長として着任するにあたって、最初に意識したことは何でしたか。

一番に考えたのは、「どうすれば、ものづくりの面白さを次の世代に伝えられるか」ということです。エンジニア人材が減少する中で、理工系に興味を持つ子どもたちをどう増やしていくかは、とても重要なテーマです。

そのひとつとして、私は今もものづくりの出前授業を続けています。室蘭工業大学にいた頃から行ってきた活動で、函館に来てからも継続しています。校長が台車を押して出前授業の準備をしていると、教員や学生から驚かれることもありますが(笑)、立場に関係なく、科学や工学の面白さを伝えることは大切だと思っています。

▲清水先生による出前講座(ものづくり教室)の様子

例えば以前、鹿児島の与論島や沖縄の宮古島など、工学に触れる機会が限られた地域で出前授業を行いました。スズを使ってキーホルダーをつくるような簡単な実習でも、子どもたちの目が一気に輝く姿を見るたびに、「体験がきっかけになって、進路の選択肢が広がることは確かにある」と感じます。

カーボンニュートラルなど、将来に向けて厳しい課題が語られる時代だからこそ、どんな道があるのかを知っているかどうかで、その後の人生は大きく変わります。理工系を選ぶことも含めて、子どもたちが自分の可能性を選択できるよう、背中を押したいです。

▲「小中学生と保護者のための進路講演会」で講演中の清水先生

―校長という立場になって、面白さや難しさを感じるのはどんな場面でしょうか。

学生や教職員に必ず伝えていることが3つあります。1つ目は「基礎を徹底的に身につけること」。2つ目は「自分の得意分野を伸ばすこと」。3つ目は「周囲と連携すること」です。

特に3つ目の「連携」はとても重要であり、同時に一番難しい部分でもあります。人が集まれば、それぞれに考え方や思いがあります。それらをひとつの方向にまとめていくのは簡単ではありません。校長という立場になって難しさを日々実感していますが、その面白さも感じています。

「地域と海外をつなぐ高専」を目指し、エンジニア育成を

―函館高専では、グローバルエンジニアの育成を掲げています。

全国の高専全体として、グローバルエンジニア育成は大きな方針として掲げられています。その中で、函館高専では校訓である「汝が夢を持て 大志を抱け 力強かれ」を軸に、地域とともに歩む高専でありながら、学生一人ひとりが将来、国際社会で挑戦できる力を身につけられる環境づくりを進めています。

高度情報化やグローバル化が急速に進む中で、エンジニアに求められる能力は確実に多様化しています。専門知識だけでなく、異なる文化や価値観の中で課題を見つけ、解決策を考え、行動に移す力が必要です。そこで本校では、「地域と海外をつなぐ高専」を掲げ、海外の教育機関とも連携しながら、自ら考えて行動できるグローバルエンジニアの育成を目指しています。

―その一方で、教育現場に身を置く中で課題を感じる場面もありますか。

特に英語教育については、課題と可能性の両方を感じています。高専生は大学受験がないため、単語や文法といった基礎が十分でないケースも少なくありません。その点、前期にはさまざまな先生方の授業を見て回りましたが、英語教育に力を入れている教員が多く、ネイティブの先生が2人在籍しているのも心強い点です。

ただ、英語が話せるだけでは、工学の世界では通用しないのも事実です。ものづくりの現場では、専門用語を使って議論し、設計意図や課題解決のプロセスを共有する必要があります。これを日本語でできなければ、英語でも難しい。だからこそ、まずは工学の基礎や課題解決力をしっかり身につけることが重要だと考えています。

―具体的にはどのような取り組みを実施しているのでしょうか。

代表的なのが、海外高専との交流です。タイ高専との「グローバルキャンプ」では、対面やオンラインを組み合わせながら学生同士の交流を行ってきました。

また、昨年の夏にはモンゴルの高専生が来校し、函館高専の学生と一緒に学びを深めました。モンゴルの高専生たちは水産業に強い関心を持っていたため、函館高専の近くにある北海道大学 水産学部で養殖に関する勉強会を行いました。

海外インターンシップも進めており、タイやシンガポール、フランス、ベルギーなどに行く高学年の学生もいます。報告会で学生の話を聞くと、確かな成長を感じます。ただ、現状では参加できる学生が一部に限られています。今後は、より多くの学生が関われるよう、カリキュラムとして組み込む仕組みづくりが必要です。

―STEAM教育やDX人材育成については、どのようにお考えでしょうか。

エンジニアには、伝える力が欠かせません。その手段は言葉だけではありません。図を描く、立体的に表現する、音や動きで示すといった表現力も重要です。

例えば授業の中で「ゾウの絵を描いて」と言うと、多くの子どもたちは横から見た姿を描きます。正面から見たゾウを描ける人はとても少ないんです。ものづくりでは、どの視点から見て、どのように伝えるかが非常に重要です。

▲実際に象の絵を描いてお話しいただきました

エンジニアは設計図を描くときや、相手に説明するときに、アート的な感覚が役に立つ場面は多くあります。私も実際に言葉が通じない環境で、絵を用いて説明する機会が多々ありました。STEAM教育は、そうした多角的な思考を育てるための大切な要素だと考えています。

また、数学の基礎も欠かせません。よく例に出すのが次の3つです。1つ目は靴箱に靴をきちんと収められること、2つ目はカレーをつくれること、3つ目は自宅から学校までの地図を描けること。サイズや量、距離感を頭の中で整理できるようになると、数学やものづくりの理解は一気に深まります。

DX人材育成についても力を入れており、2025年から函館・八戸・秋田の3高専で連携し、洋上風力発電をテーマにしたプロジェクトが始まりました。その中にはDX教育も組み込まれており、今後、こうした分野で学んだ学生たちが社会で大きく花開いていくことを期待しています。

―学科改組についても構想されているそうですね。

はい。今後は、材料、エネルギー、情報サイエンス、宇宙関連といった分野を軸に、学科改組を進めていくことを視野に入れています。北海道では半導体関連企業の進出も進んでおり、社会のニーズを踏まえると、半導体やエネルギー分野の人材育成は避けて通れません。ものづくりの力をさらに高めるためにも、分野横断的に学べる体制を整え、3年後を目安に新たなコース編成を実現したいと考えています。

人づくりはものづくり。学生にも研究にも向き合い続ける

―学生との関わり方で、意識していることはありますか。

できるだけ話しかけやすい存在でいることを意識しています。そのために、意図的に学食に足を運んだり、校内を歩き回ったりして、外に出るようにしています。

今では、学生のほうから声をかけてくれることも多いです。先日も、私の服装を「それ、いいですね」と言ってくれたり(笑)、こちらからも「今日は何を食べるの?」と声をかけたり、そんな何気ないやり取りを大切にしています。

函館高専の学生は、明るくて、挨拶がとてもいい。これは外部の方からもよく言われます。私自身、魚屋の息子として育ち、親から「挨拶だけはきちんとしろ」と厳しく言われてきました。挨拶は人との関係の入口ですし、すべてはそこから始まると思っています。

▲大阪・関西万博で函館高専がブースを出したときの1枚

もっとも、これは私が来る前から、先生方が丁寧に指導してこられた結果でしょう。その文化が今も自然に根付いていることは、函館高専の大きな魅力だと感じています。

―先生自身、長く鋳造のご研究をされていますが、研究は今後も続けていくお考えですか。

校長になると一般的には研究から離れる立場になりますが、私はできる限り続けていきたいと思っています。現在も、室蘭工業大学にいる教え子と一緒に研究を進めており、高専内に研究室をいただくことができました。

学生に「アルバイトとして研究を手伝ってみないか」と声をかけることもあります。外でアルバイトをするより、研究に触れる経験のほうが、将来きっと役に立つはずですから。企業との共同研究も進めていますが、時間が限られているので、研究は休日に行うことも多いですね。

論文を書くことは、自分の知識を整理し、新しい情報を発信する大切な機会です。日本の技術を世界に伝える意味でも重要ですし、論文で評価されることにも意味があります。少し古い考えかもしれませんが、校長自身が背中を見せることで、若い教員を鼓舞したいという思いもあります。

▲函館高専の校長に就任された際に、約70冊の書籍を同校の図書館(TSKEライブラリー)に寄贈された清水先生。中には清水先生の著書もあります

―校長として、大切にしたいと思っている信念や軸を教えてください。

私の中にあるキーワードは、「人づくりが、ものづくり」です。ものづくりは、一人ではできません。人と関わり、相手の話を聞き、気遣いながら進めていく。勉強ができるだけではなく、そういった周囲との関係性を築く力を持った学生を育てる教員でありたいと思っています。

―高専での5年間を、学生にはどのように使ってほしいですか。

高専は大学受験の勉強に追われることがなく、比較的自由に使える時間が多い環境です。その時間を、ぜひ何かに熱中する経験に使ってほしいと思います。

個人的には、部活動に打ち込むことを勧めたいです。今年度は女子バスケットボール部が全国大会で優勝を果たしました。ラグビー部も全国大会に出場し、神戸まで応援に行きました。陸上競技では棒高跳びで道南地区の記録を更新した学生がいます。ロボコンに真剣に取り組む学生たちの姿も、いつも頼もしく見ています。

▲ジャパンモビリティショー札幌2026で、函館高専のロボット研究会が出展。高専ロボコン2025全国大会に出場したロボットであるGreat Hako Date(グレートハコダーテ)の展示・実演と、清水先生によるモノづくり体験コーナーを実施しました

函館高専は、これまでも全国大会に出場する部活動が多い学校だと聞いています。何かひとつでも本気で打ち込んだ経験があれば、将来壁にぶつかったときにも、必ず乗り越える力になると信じています。

▲雪が積もる函館高専。各種コンテストでの受賞を称した垂れ幕もあります

―最後に、高専生へメッセージをお願いします。

「できるか、できないか」ではなく、「やるか、やらないか」。そして、最後まで諦めないことが大事です。挑戦し続ける人にこそチャンスが巡ってきます。ぜひ途中で立ち止まらず、やりたいことを諦めずに続けてほしいですね。

また、2026年は函館がデザコンの会場になります。昨年開催された福井でのデザコンを見に行ったのですが、高専生たちが生き生きしていて、やはり高専はすごいと感じました。今回は、函館高専の教員・職員が一体となって開催に取り組みます。土木系の先生を中心に、機械、電気といった分野の先生も加わり、全校体制で準備を進めています。

開催は11月7日~8日で、雪が降る前とはいえ寒さも厳しくなる頃ですが、函館は食べ物も美味しいです。ぜひ全国の先生方、高専生の皆さんに集まっていただき、コンペティションで活躍してほしいと思っています。

清水 一道
Kazumichi Shimizu

  • 函館工業高等専門学校 校長

清水 一道氏の写真

1983年 大分工業高等専門学校 機械工学科 卒業
1986年 北海道大学 工学部 機械工学科 卒業
2001年 北海道大学 博士(工学)
1986年 新日本製鐵株式会社 勤務
1988年 大分工業高等専門学校 機械工学科 助手
1992年 大分工業高等専門学校 制御情報工学科 講師
1998年 大分工業高等専門学校 制御情報工学科 助教授
2003年 大分工業高等専門学校 機械工学科 助教授
2004年 室蘭工業大学 材料物性工学科 助教授
2008年 室蘭工業大学 ものづくり基盤センター・材料物性工学科 准教授
2009年 同大学院 工学研究科 もの創造系領域 材料工学ユニット教授・ものづくり基盤センター 兼務
2011年 もの創造系領域 材料工学ユニット 教授・ものづくり基盤センター長 兼務
2013年 理事補(副学長補佐、連携担当)
2014年 もの創造系領域 機械航空創造系学科 教授
2022年 室蘭工業大学副学長・教授 ものづくり基盤センター長 兼務
2025年4月より現職

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