大島商船高専でプラズマに関する研究を進めている中村翼先生。前回の取材から約3年経った現在は、主に3つのテーマで研究を展開しているそうです。実際にどんな研究を進めているのか、詳しいお話を伺うとともに、高専生への熱いメッセージもいただきました。
「プラズマ」をキーワードに3つの研究を展開
―前回からあらためて、中村先生の現在のご研究について教えてください。
研究テーマは主に3つあり、共通するキーワードは「プラズマ」です。プラズマは水の浄化や空気清浄機、がんの治療など現代社会のさまざまなシーンで使われていますが、私の場合は、大気圧プラズマを海洋環境保護に応用できないか、また、半導体製造過程に応用するための「多価イオン」を生成できないかという観点から研究を進めています。
しかし実は、「プラズマ」については、大島商船に着任した当初から取り組んでいるテーマではありません。当初は、修士課程の研究テーマでもあった電界歪型スイッチの挙動やパルスパワーに関係するものでした。博士課程に進学する際、お世話になっていた先生に相談してから研究することになり、「せっかく大島商船にいるのだから、その特色が出せる研究テーマにしよう」と考えてスタートしました。
―3つのご研究について、具体的に教えてください。
まず1つ目は、浜辺に打ち上げられた「マイクロプラスチック」を、プラズマを活用して効率的に分別する仕組みについて研究しています。
海岸に打ち上げられる漂着物は、木片や木くず、プラスチックごみなど、さまざまなものが混ざり合っています。大きなものは人の手でも分別できますが、細かいものになると、いまはほとんど手作業でより分けていて、現場の方々に大きな負担がかかっているのが現状です。

そこで、漂流物にプラズマを当てることで、プラスチックだけをくっつけられないかと考えました。プラズマで起こる静電気吸着現象を利用したもので、この方法なら容易に分別できるようになります。また直流の静電吸着(いわゆる静電気)を使わずに、交流で発生させたプラズマを使う理由は、発生させたプラズマの性質も利用できるからです。
現在は、ヘリウムやアルゴンなどの希ガスに高エネルギーを加えて電離させてプラズマを生成しているのですが、ガスや高電圧を扱うことになるので、高いレベルでの安全管理が求められます。そこで、より安全性の高い手段はないかどうか、3年後の実用化を目標に研究を進めているところです。
―2つ目の研究についても教えてください。
2つ目は、半導体製造工程で用いる「多価イオン」に関する研究です。半導体では、電気を通したり通さなかったりといった繊細な特性を作り込むために「イオン注入」が行われますが、その際、2つ以上の電荷を持つ多価イオンを使うと特性に大きな違いが生まれます。現在は、特に金属の多価イオンをどう安定して作るか、その方法を探っているところです。
金属はふだん固体なので、そのままではイオンになりません。スパッタリングで叩き出したり、高温で蒸発させたりといったプロセスが必要で、「十分な量を出しにくい」「装置への負担が大きい」といった課題があります。
さらに、多価イオンを加速して打ち込むには高電圧が必要で、安全性の確保も重要なテーマです。同じ電圧でも多価イオンを用いれば効率よく加速できるため、将来的には電圧を下げつつ性能を保てる可能性があり、「狙った種類・電荷数の多価イオンをどう安定的に作るか」が、現在の大きな研究課題になっています。
そして、この「高電圧」と切っても切り離せないのが、3つ目のテーマである「安全教育」です。
VR教材で「見えない危険」を見える形に
―3つ目の「安全教育」では、どんなことに取り組まれているのでしょうか。
母校である長岡技科大の先生からお誘いいただき、令和6年度から7年度にかけて、本校ECRイオン源をモデルとした「高電圧装置の感電防止VRアプリケーション教材」を開発しました。
これは長岡技術科学大学、豊橋技術科学大学、および国立高等専門学校機構が、令和4年度文部科学省「国立大学改革・研究基盤強化推進補助金(国立大学経営改革促進事業)」に採択され、「メタバースの活用と技科大リソースマネジメントによる研究教育システムの価値向上と財政基盤の拡大」に取り組んだものの一環で実施したものです。
私も高電圧を取り扱う際の安全教育をどのようにすれば、より具体的にイメージできるのか考えていました。この教材を作成した一番の目的は、実験装置の使用後に生じる感電事故のリスクを軽減させることです。
実験装置の静電容量とアース棒の抵抗によって変化する接地時間(時定数)や、チャージされた電圧によって変化する安全距離を再現。間違った操作をしたときに感電する効果を疑似的に視覚と振動によって与えるなど、疑似的に危険な体験を得ることで安全への意識を高め、事故を減らせないかと考えています。
教材は、VRゴーグルを装着して仮想空間で体験できるタイプと、Webブラウザを用いるタイプの2種類あります。日常で起こりえない危険な状況というのは、想像するのは難しいと思うのですが、VRの技術を使えば危険な箇所を可視化でき、危険を「見る」ことができるんです。学生たちにも「わかりやすい」と好評でした。
この体験があれば、実験で起こりうる危険を事前に予測したり、想像したりできるようになるので、学生主体で実験を進める場合でも安心して取り組むことができます。

―様々なご研究をされる中で、先生が思う研究の魅力とは何でしょうか。
プラズマを当ててみると、必ず何かが起こるんです。その「何か」が起こった時の面白さこそ、プラズマの魅力だと思います。ベースになっているのは、博士課程でご指導いただいた先生からのひと言です。「とりあえずプラズマを当ててみてから考えようか」と言われたことが強く印象に残っていて、私もそれ以来、プラズマの魅力に引き込まれていきました。
何かが起こると「面白い」と「なぜ」が生まれる。過去に得た知識と結び付くこともあり、研究の楽しさにもつながると実感しています。そして、どのように工夫して研究を進めれば自分の求める結果(成果)が得られるのかを考え、それが理論的に、明快に説明できた時には大きなやりがいを感じます。とりあえず行動することが大事ですね。
「なぜ」が見つかれば日常が楽しくなる
―学生を教育・指導される上で大切にされていることを教えてください。
常に意識しているのは「対話」です。当然ですが、どんな相手であっても、最初からお互いの考えや思いを知っているわけではありません。限られた時間の中ではありますが、一人ひとりと向き合いながら対話していくことが、理解しあうには一番の近道です。多少時間がかかってもいいので、ていねいに対話を重ねることかな、と。
現在は4年生のクラスの担任で、元気な学生たちに囲まれています。4年生と言えば、進学か就職か、進路を決めるための大切な時期。進路相談など、日々いろんな悩みや思いを聞いています。そんな時に、例えば「どうしようか迷っている」と相談を受けた場合は、「あえて知らない道や苦手な道を選んでもいいのでは」とアドバイスしています。未知の世界に触れたほうが、新しい発見に出会えるかもしれませんから。

また、クラスでも研究室でも、「失敗していい」と何度も伝えています。「正解がわからないとだめだ」と思って動けないタイプの学生もいると思うのですが、それでも全然OKなんです。行動を起こせば「なぜ」という疑問が湧き、課題を見つけることができます。その道を追求していけば発見があり、自身の成長にもつながります。
だからこそ、どんどん動いて、発言して、失敗していい。実際に行動してこそ得られるものが必ずあるので、まずは恐れず一歩を踏み出すことが重要だと考えています。

―現役高専生・これから高専を目指す中学生へのメッセージをお願いします。
高専生の印象は、発想力が豊かであること、そして自発的に行動ができることだと感じています。しかし、ここ数年、このような印象が弱まっているように思えます。これは我々教員側にも原因があるのではないかと考えており、少しずつではありますが、試行錯誤しながら教育の仕方を変えています。
そのためにも、まずスタートは「なぜ」に気が付くことだと思います。そのことについて考え、これまでに学習してきた内容と照らし合わせながら、その答えが納得できる形に落とし込むことができたら、普段の学校生活が非常に面白くなってくると思います。この経験が、高専生の強みでもある自発的な行動につながってくると思いますし、発想力を育むのではないかと考えています。
そして、失敗を恐れず(とは言うものの、闇雲に動くのではなく)、少しでも不安を感じることがあれば、ご家族や周囲の方、教員と対話をして、まずは考え、物事を想像し、そして小さくてもいいので行動してみてください。そこで失敗しても、失敗から学び、同じ失敗を繰り返さないことが自身のキャリア形成にきっと役立つはずです。
近年は、生成AIやチャットツール、VRなどいろんな技術が学びや経験をサポートしてくれると思うので、それらもぜひうまく活用してみてください。ただ便利なツールに任せるのではなく、いかに自分の成長に結び付けるか。みなさんの未来はみなさん自身に掛かっています。
中村 翼氏
Tsubasa Nakamura
- 大島商船高等専門学校 電子機械工学科 教授

2000年3月 大島商船高等専門学校 電子機械工学科 卒業
2004年3月 長岡技術科学大学大学院 工学研究科 電気・電子システム工学専攻 修了、修士(工学)
2004年4月 大島商船高等専門学校 電子機械工学科 助手
2007年4月 同 助教
2009年12月 長岡技術科学大学大学院 工学研究科 エネルギー・環境工学専攻 博士課程修了、博士(工学)
2011年4月 大島商船高等専門学校 電子機械工学科 講師
2015年4月 同 准教授
2025年4月より現職
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