高専教員教員

数学の魅力を伝える喜びを胸に。「教える楽しさ」を原点に高専で教育と研究に取り組む

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都城高専で数学科目を教える久保田翔大先生。相転移現象や最適制御といった高度な理論を追究しながら、目の前の学生の変化を丁寧に見つめ、授業づくりにも工夫を惜しみません。研究者として、教育者として、どのような思いで学生と向き合っているのか、お話をお伺いしました。

人に教えることから始まった進路

小学生のころから人に教えることが好きだったと伺いました。

はい。思い返すと、小学生の頃から授業中に周りの友だちに勉強を教えることが自然と好きで、説明すると相手が理解してくれるという体験が何度もありました。「自分が関わったことで誰かができるようになる」というのは、子どもながらに大きな喜びで、その感覚は今でも鮮明に覚えています。

さらに、通っていたそろばん塾では、そろばんブームもあって生徒が増えて先生の手が足りなくなり、中学生の私に「丸つけを手伝ってくれないか」と声がかかりました。そこで小さな子どもたちに教える経験を積んだことも、教えることへの興味を後押ししました。

そろばんの場合、特に小さい子には言葉で説明しても伝わりにくい場面があります。そこで私は、指の動かし方を実際に見せるなど、身体的な感覚に訴える教え方を工夫しました。こうした経験を通して、「どう伝えれば相手が理解しやすいか」を自然と考えるようになり、人に教えることへの強いやりがいを感じるようになりました。振り返れば、この頃の積み重ねがそのまま現在の教育観につながっていると思います。

京都教育大学へ進学された背景について教えてください。

高校生の頃は京都大学の理学部を第一志望にしていました。日本最高峰の環境で自分の得意な数学を深く学びたいという気持ちが強かったからです。一方で、当時受けていた数学の授業が非常にわかりやすく、「自分もこんな授業をしてみたい」と強く思ったことがきっかけで、「進学したら教員免許を取得しよう」ということも考えていました。

結果として第二志望だった京都教育大学に進学しましたが、教員養成の環境が整っており、数学を学ぶことと同時に「学びをどう伝えるか」という視点を育てることができました。今振り返ると自分にとってとても良い選択だったと感じています。

▲大学時代の久保田先生。当時の研究室生との一枚

大学での経験の中でも特に大きかったのは教育実習です。教育実習で実際に授業を担当すると、準備の大変さや授業の難しさに直面し、「今の自分ではまだ不十分だ」と痛感しました。同時に、生徒の将来に関わる責任の重さを強く感じ、より力をつけないと教壇には立てないと考えるようになり、大学院進学を考える決定的なきっかけになりました。

▲大学時代に行った小学校での教育実習にて

大学ではどんなご研究をされていたのでしょうか。

ゼミでは解析学の本を中心に読み進めていました。証明も非常に回りくどく、初めはまったく理解できませんでした。それでも粘り強く読み続け、自分なりに噛み砕いて別の証明方法を組み立て、指導教員や先輩に見てもらうと「この方がわかりやすい」と言ってもらえることがありました。数学は解き方が一つではないと頭では理解していましたが、それを実体験できたことはとても大きな発見でしたね。先生には同時に、大学院進学を見据えて、個人枠として別の解析学の本も読んでいただき、議論を重ねました。

ゼミを進めるうちに、問題が解けたときの達成感や、本に載っている解法とは違う道筋を自分で見つけられたときの気持ちよさに触れ、数学そのもののおもしろさをこれまで以上に強く感じるようになりました。こうした経験を重ねるなかで、「大学教員であれば、授業という教育の面と、数学を突き詰める研究の面をどちらも続けられるのではないか」と考えるようになり、博士課程まで進学して研究者の道を目指す決心が固まりました。

▲大学時代の久保田先生。卒業論文と指導教員と一緒に

博士課程では千葉大学に進学されていますね。

京都教育大学には修士課程までしか在学できないため、博士後期課程への進学先を探す必要がありました。そんな中で、ある研究会で千葉大学の先生の講演を聞き、その数学力の高さと、難しい内容を学部生にもわかるように語る姿に強い衝撃を受けました。「この先生のもとであれば、数学的な視野をさらに広げられる」と感じ、千葉大学大学院へ進学を決めました。

研究と教育が交わる場所、高専

現在取り組まれている研究について教えてください。

「相転移」と呼ばれる現象は、もともと物理の世界で語られるものですが、私が注目しているのは、それを数学の言葉でどこまで正確に記述できるのかという点です。氷が溶けて水になるような「状態の変化」を方程式で表すためには、物理学者が構築した式が本当に正しいのか、あるいは数学的に解が存在するのかという確認が必要になります。私は、「その式が成り立つための条件」を細かく検証し、数学的に矛盾がないか、一体どこまで現象を表せるかを探っています。

さらにもう一つ、大きなテーマとして最適制御問題があります。これは「限られたコストのなかで、再現精度を最大限に高めるための制御を見つける」ための数学です。精度を上げればコストが増え、コストを下げれば精度が落ちる。現実世界では、どちらか一方だけを追求することはできません。そのバランスを数学的に最適化するための手法を考えるのが、私の研究の中心です。

こうした研究テーマに取り組むようになったきっかけはどこにあったのでしょうか。

博士課程に進学して千葉大学の研究室に入ったとき、指導教員が相転移と最適制御の両面に非常に詳しい先生でした。もともと私は、数式の細かい部分を一つ一つ確認しながら積み上げていく作業が好きで、根気のいる理論構築のほうが自分に向いていると感じていました。先生からも「君は理論面を伸ばしたほうがいい」と言われ、研究の方向性が次第に固まっていきました。

また博士課程の後半では、それまで複雑だった最適制御の手順をより簡略化し、効率的に解を見つける方法を自分なりに思いつく機会がありました。既存の研究では長い手順を踏む必要があったのですが、別の視点から書き換えてみることで「もっと簡単にできるのでは」と着想した瞬間は、まさに研究者としての醍醐味を感じました。

▲博士修了時の久保田先生。当時の研究室生と指導教員と一緒に

その後、どのようにして高専での職に就かれたのでしょうか。

博士課程を修了した後は、神奈川大学の特任助教として働きました。けれども任期付きの職であり、将来の見通しが立ちにくかったんです。当時、結婚を考えていたこともあり、「安定した環境で研究と教育を続けたい」といくつかの公募情報を探す中で、都城高専にご縁をいただきました。

実は高専の存在を初めて知ったのは大学時代で、指導教員が元高専教員だったことがきっかけでした。「大学だけでなく、高専でも教員の道がある」と聞き、そのとき初めて意識したのです。赴任してみると、高専は高校と大学の中間的な存在で、教育と研究の両方に力を注げる場所でした。教育実習で得た経験も生かせる環境に出会えたと感じています。

授業では、どのような工夫をされていますか。

着任した1年目は、大学時代のスタイルのまま講義中心で進めていたのですが、高専の学生から「説明が長すぎる」「もっと演習がしたい」という声が多く寄せられました。そこで授業を「講義30分・演習60分」に切り替え、学生が自分の手を動かしながら理解を深めるスタイルを確立しました。演習時間には、学生の間を回りながら質問やつまずきに気づき、少しずつ助言を与える「机間指導」を重視しています。

また、学生は絶えず成長し続けています。一度「この学生はこういうタイプだ」と理解できたと思っても、そこで止まってしまうと、その後の変化に気づけません。授業前後のちょっとした時間や演習中の様子を通して、常に学生をよく見て、今どんな段階にいるのかを知ろうとし続けることを大切にしています。こうした継続的な関わりが、適切なタイミングでの助言や支援につながっていると感じます。

▲都城高専にて、学生からの質問対応中の様子

教科書や問題集の説明が不足しているという声も多く、教員用の解答が存在しない現状を補うため、詳細な回答例を自作して配布しています。章末問題だけでなく、学生から要望があれば発展問題の回答も作り、学びたいという意欲に応えられるよう工夫しています。「数学が苦手だったけれど、少しずつわかるようになった」という声ももらえるようになり、非常に励みになっています。

先生の生活面や今後の目標についても伺えますか。

最近、入籍・挙式を終えたばかりで、いまは「温かい家庭を築き続けること」が大きな目標です。仕事と家庭を両立するため、1年目に授業準備のひな型を作り込み、2年目以降は各年のクラスの理解度等に応じてアレンジを加えながら運用しています。結果として準備時間を減らしながら、家族との時間を確保できるようにしています。

▲ご夫婦での前撮り

趣味では、主催者として、学部時代の指導教員や先輩・後輩たちとオンラインゲーム会を開いています。コロナ禍で始めた活動で、ボードゲームなどを通して交流してきました。もともとは大学時代のゼミの先輩・後輩を中心に誘って始めたのですが、「自分も参加してみたい」という私の知り合いからの声も増え、徐々に別のつながりの人たちも合流するようになりました。最近は忙しくて開催頻度が落ちているのですが、ゲームを通じて立場や所属の違う人同士が楽しく交流できる場になっているので、もう少し頻度を上げたいと考えています。

また、個人的な目標として「日本漢字能力検定準1級」合格を掲げています。高校生のとき、母と弟と一緒に漢検を受けたのですが、母のほうが点数が良くて(笑)。いつか追い抜きたいという小さなリベンジ心があります。

▲高校生時代の久保田先生。当時から「漢字が得意」という印象を持たれていた様子

高専を目指す中学生や現役高専生にメッセージをお願いします。

高専に着任するまで、高専という学校について詳しく知っていたわけではなかったのですが、実際に教えてみると、同年代の高校生よりも高度な内容を学び、それを知識としてしっかり身につけている学生が多いことに驚かされました。4・5年生という成人に近い学年の学生が同じキャンパスで学んでいることもあってか、子どもらしさを残しながらも、大人びた雰囲気を併せ持っているのが高専生の大きな特徴だと感じています。

▲授業後に学生と一緒に

高専は「将来こうなりたい」「手に職をつけたい」という思いを持っている人にとって、これ以上ない環境です。5年間という長い時間をかけて専門的な知識や技術をじっくり深められるのは、高専ならではの大きな強みだと思います。これから高専を目指す中学生の皆さんには、この5年間で得られる学びの深さをぜひ味わってほしいです。

また、現役の高専生には、「高度な学びを積み重ねている」という自信を持って、自分の興味をどんどん広げていってほしいと思います。高専では一般科目の教員と専門科目の教員の両方が在籍しているため、さまざまな視点に触れられる環境があります。自分の学科に限らず、いろいろな先生や友人との交流の中で新しい発見が必ず生まれます。その恵まれた環境を最大限に活用し、自分の未来を主体的に形作っていってもらえたら嬉しいです。

久保田 翔大
Shodai Kubota

  • 都城工業高等専門学校 一般科目 理科・数学 助教

久保田 翔大氏の写真

2017年3月 京都教育大学 教育学部 数学領域専攻 卒業
2019年3月 京都教育大学大学院 教育学研究科 教科教育専攻 数学教育専修 修了
2022年3月 千葉大学大学院 融合理工学府 数学情報科学専攻 数学・情報数理学コース 博士後期課程 修了
2020年4月 千葉大学 教育学部 非常勤講師
2022年4月 神奈川大学 工学部 特任助教
2023年4月より現職

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