
国立高専機構と月刊高専が主催で2025年2月に開催した「第2回高専起業家サミット」で、神戸市立高専のチーム「Affinity Nexa」がオーディエンス賞を受賞しました。オーディエンス賞は、協賛企業・観覧者の投票によって選ばれたポスター発表に贈られる賞です。
ホテル・ブライダル業界に特化した人材紹介業務支援SaaS※「Professional Link(プロリン)」の導入を目指しているAffinity Nexaは、現役学生としては初となる“神戸高専発ベンチャー”として認定され、すでに起業されています。そのビジネスプランについて、代表取締役の鷹尾心優さん(神戸市立高専 電子工学科5年)と、取締役の山本泰資さん(神戸大学 工学部 情報知能工学科 3年、神戸市立高専 卒業生)にお話を伺いました。
※「Software as a Service」の略称。インターネット経由でユーザーがアクセスすることで利用できる、クラウドサービスとしてのソフトウェアのこと。インストール型ソフトウェアとは異なる。
ホテル・ブライダル業界だからこその課題
―Affinity Nexaが導入を目指している「Professional Link(プロリン)」について教えてください。
鷹尾さん:プロリンは、ホテル・ブライダル業界に特化した人材紹介業務支援SaaSです。
ホテル・ブライダル業界は他とは異なり、土日の利用者がかなり多いため、その分スタッフも土日は増やす必要があります。このピンポイントで増やすスタッフについては、職業紹介事業者※から紹介された方で補っている状況です。
※「職業紹介」は職業安定法第4条第1項において、「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすることをいう。」と定義されている。この記事の場合、求人者はホテル・ブライダル業界の企業、求職者は職業紹介事業者に求職を申し込んだ人を指す。
しかし、ホテル・ブライダル事業者と職業紹介事業者の間ではFAXや紙によるやり取りが行われている場合があり、業務効率化の観点で課題があるのです。DXによって効率化されていない理由としては、両者とも多忙なので効率化に向けた業務に時間をかけられないこと、慣れている方法を変えたくないことが挙げられます。

山本さん:DX化が進んでいないもう1つの理由としては「求められている人材の種類」が挙げられます。それはつまり、「夫婦にとって一世一代のイベント」を提供する以上、多種多様で高レベルな接客スキルを持つ人材(プロフェッショナル)が求められている、ということです。
そのため、求める人材の母集団は小さいですし、そこにフォーカスした人材紹介業務の支援をしても汎用性が低いので、参入しようと考える企業さんは少なくなります。ここもDX化が進まない要因として挙げられるのです。

鷹尾さん:そこにAffinity Nexaは注目し、ホテル・ブライダル事業者と職業紹介事業者の間で行われている業務の効率化を目指そうと考案したのがプロリンとなるわけです。
―業務効率化を目指した背景には、ホテル・ブライダル業界の人手不足の問題があったそうですね。
鷹尾さん:はい。2021年にブライダル会場でアルバイトを始めたとき、現場で人手不足が問題になっていることを知りました。
そして2024年、エントリーすることを決めていた高専プロコンのアイデア出しのため、周囲の方に困り事がないかをヒアリングした際、改めてブライダルの方から先ほどの問題を伺いました。もともと減少・規模縮小の傾向だった結婚式・披露宴の数がコロナを機に大きく減ったことで経営的に大打撃を受け、現場の数が減ったことで辞めるスタッフの方が一気に増えたとも聞いています。
そこで、人材紹介業務をDXで効率化することでホテル・ブライダル業界における人材不足の課題を解決したいと、具体的な事業プランとしてプロリンを考えるようになったんです。
―プロリンはどのように導入するのですか。
山本さん:連携している職業紹介事業者が抱えているスタッフとホテル・ブライダル事業者に、まずプロリンを使用していただきます。スタッフやホテル・ブライダル側から見ればプロリンというサービスに見えますが、その中には職業紹介事業者がいらっしゃるという建付けです。
―プロリン開発においても、職業紹介事業者と連携して進めているそうですね。
鷹尾さん:ブライダルのアルバイトで知り合いました職業紹介事業者の方にご協力いただき、プロリンの使用感のフィードバックなどをいただいています。
山本さん:職業紹介事業者の方にはさまざまな面でご協力いただきましたが、法律面でのお力添えは本当に大きかったです。職業紹介事業者が行っている「求人者と求職者との雇用関係の成立を仲介する事業——有料職業紹介事業」は、厚生労働大臣による認可を受けないとできません。このように、法律を熟知していないと難しい分野なのです。
結論としては、あくまでプロリンは業務効率化のツールであって、有料職業紹介事業そのものを行っているわけではないことを法律的にクリアにするため、さまざまな調整を行いました。

―高いスキルを持つ人材を担保するための仕組みは、どのように考えていますか。
山本さん:大前提として、現状の職業紹介事業者は求職を申し込んでいるスタッフに対してしっかりコミュニケーションコストをかけているので、スキル面での担保はできている状態です。ですので、人材そのもののスキル管理は職業紹介事業者にお任せしつつ、ホテル・ブライダル業界とつなぐ役目をプロリンが担う構造にすることで、人材の質を保っていきたいです。
また、実際に働いたスタッフの勤務態度などをホテル・ブライダル側が評価し、その積み重ねによって例えば時給が上がる/下がるなどといった仕組みをプロリン内で構築することで、スタッフ側の意識を高めようと考えています。
―今後の事業展開について教えてください。
山本さん:今年度中にはスマートフォンのアプリストアからプロリンをダウンロードできるようにしたいです。現状、テスト版はできているのですが、職業紹介事業者の方から修正事項をいただいている状態となっています。
そして将来的には、ホテル・ブライダル業界だけでなく、百貨店や建築業界などへ発展させていきたいです。いずれも特定の高いスキルが求められる業界であり、プロリンとの相性は良いのではないかと思っています。
プロリンと並ぶ、もう1つの事業
―Affinity Nexaはすでに“神戸高専発ベンチャー”として起業されています。起業のきっかけは何だったのでしょうか。
鷹尾さん:先ほど高専プロコン出場をきっかけにプロリンの開発を始めたとお話ししましたが、実はプロコン自体は予選で敗退したんです。そして、今後を考えた際、開発を進めてはいきたいけれども、インターンシップやアルバイト、そして先行きの不透明さなどでメンバーが脱落してしまうんじゃないかと思いました。
そこで、メンバーにしっかりと報酬が払える環境を整えることで継続的にメンバーに協力してもらいたいと考え、起業という手段を選んだのです。現在、主要メンバーは私たち含め8人います。

―Affinity Nexaではプロリンだけでなく、他の事業も行っているそうですね。
山本さん:はい、受託開発事業をしています。企業さまや教育機関さまからのご依頼を受け、Webアプリケーションを開発している事業です。要件定義から実装、納品、保守まで一貫して対応しています。
実はこの事業は、プロリンを開発する過程で生まれました。高専生メンバーはやはり技術力があるので仕事ができますし、責任感もありますので、このままプロリン開発だけを任せるのはもったいないと思い、受託開発事業をスタートさせたんです。高専生が開発を行うので柔軟な対応が可能ですし、高専生にとっても社会に技術を実装する良い機会となっています。
―高専生によって柔軟な対応が可能となる理由について教えてください。
山本さん:高専生は専門分野以外にもさまざまな技術を学びますので、技術的な教養を広く身につけている点が挙げられます。多くの技術的な選択肢から最適なものを選ぶことができる「要件定義力」によって、問題解決に向けた柔軟な対応が可能になります。
鷹尾さん:また、高専生には爆発力があるとも思っています。弊社の中での例ではありますが、Discordで勤怠管理ができる仕組みが欲しいという声が上がった際、メンバーの2人が2,3時間でつくってしまったことがありました。そのような「思いついたらすぐに手を動かす気質」が、柔軟な対応につながると考えています。
自身の強みを生かすための起業
―第2回高専起業家サミットではオーディエンス賞を受賞しています。ご自身のポスター発表をどのように捉えていますか。

鷹尾さん:とにかく視覚的にわかりやすいポスターを意識してつくりました。そのために情報を削った部分もありましたが、そこは手元の資料でカバー。たくさんの方にご覧いただき、オーディエンス賞を頂けたときは嬉しかったです。
また、私の担任である髙田先生は漫画家を目指している方ですので、ポスター発表で視覚的に魅せるためにはどうすればよいかと、何度もフィードバックをいただきました。

―これまでの経験を踏まえて、起業を考えている現役の高専生へアドバイスを送るとしたら、どのようなことを伝えたいですか。
鷹尾さん: 起業を目的とせず、手段だと捉えると良いと思います! 起業は分かりやすい実績にはなりますが、良いことばかりではありません。
ただ、起業においては経営者や技術責任者など、自分の得意なことに合わせた仕事ができます。自分の未来像を想像し、それを実現するためには本当に起業しないといけないのかを一度考えてみると良いと思います。
―鷹尾さんと山本さんは、それぞれどのようなところが自分の得意なことだと捉え、Affinity Nexaの中で生かしていますか。
山本さん:特定のことが得意というよりかは、技術や経理といった様々なことをある程度できることが強みだと思っています。私はもともとプロジェクトマネージャーとして立ち上げ時から関わり始めましたが、その後はさまざまなことを担うようになり、現在はほぼすべての部分に関わるようになっています。
鷹尾さん:私は、価値を見つける力と人を巻き込む力が強みです。
価値を見つける力については、ブライダル経験者だったから辿り着いたプロリン事業や、高専生ならではの柔軟な対応をもとにした受託開発事業は、私および私の周りのみなさんにしかできない強みに気付いたからこそ進めることができていると考えています。
人を巻き込む力については、今まで神戸市立高専では前例がなかった水中ロボットコンベンションに1年生でありながらチームを組んで出場していた点などが挙げられると思います。ブライダルのアルバイトに関しても、私ともう1人で働き始めた後、今のAffinity Nexaのメンバーを含めた周りのみなさんにどんどん紹介し、アルバイトに入ってもらっていました。
余談なんですけど、たまたまそのブライダル会場で髙田先生が結婚式を挙式されまして、ブライダルスタッフがほぼ高専生という奇妙な事態になったこともあります(笑)
山本さん:そのときもビデオ撮影や寄書きをどうするかで、鷹尾がめちゃくちゃ人を巻き込んでいましたね(笑)
鷹尾さん:めちゃくちゃって……(笑)
◇
○Affinity Nexa ホームページ
https://affinitynexa.com/
◇
<お知らせ>
【第3回 高専起業家サミット】(主催:国立高専機構、月刊高専)の開催が決定しました。
現在プレエントリーを受付中です(2025年9月11日(木)まで)。
募集要項などの詳細はHPをご覧ください。
https://startup.gekkan-kosen.com/
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