有明高専で英語を教えられている村端啓介先生。学生時代には意外にも「先生になりたくない」と思っていたそうです。そんな村端先生を変えた出会いとはいったい何なのか。また、留学先での思い出や、研究や教育の思いを伺いました。
教育実習生との出会いで、考えが変わった
―幼少期はどのような環境だったのでしょうか?
父も母も英語教員だったため、小さい頃から英語に触れる機会はありました。両親が学生時代に留学していたアメリカに行ったり、タイやシンガポール、マレーシアなどにも旅行で行ったりしていましたね。
これは後から弟に聞いた話なのですが、両親が英語を勉強させようとしたところ、私たち2人ともが嫌がったみたいで(笑) 当時はディズニーや、戦隊モノの『パワーレンジャー』を英語で見ていたぐらいです。
―村端先生が教員を目指されるようになったのは、いつごろからですか?
実は高校1年生ぐらいまで反抗期で、すごい学校が嫌いでして……。「先生にだけは絶対なりたくない」と思っていました。教育実習生に「なんでそんな態度なん?」と質問されたとき、「先生って全然学生のこと分かってないやん」と答えたぐらいです(笑)
そしたら、「じゃあお前が先生なったらええやん! 君やったら、逆に学生の気持ちが分かる、君にとってのいい先生になるんじゃないの?」と言われました。そこでハッとしましたね。
もともと人の相談に乗ったり、何かを教えたりするのは好きだったんです。英語の成績が良かったこともあり、高校2年生ぐらいから本格的に教員を意識するようになりました。
ディスカッションについていけず、悔しくて叫ぶ
-その後、摂南大学に進学されています。大学でのエピソードを教えてください。
大学でゼミの担当だった住吉誠先生に出会ってから、英語教育に対する考えが大きく変わりました。ある日、住吉先生がホワイトボードに「漢字の木」と「木のイラスト」を書いて、それらの違いは何かを質問してくださったことがあります。
「木のイラスト」は動物でも「木」だと認識できる一方、「漢字の木」は、文字で文字を表しているので、認識するためには言語を知っていないといけません。これは人にしかできないことです。
「言語能力は人特有の素晴らしい能力なので、英語という形で教えていくことはすごいことだし、だからこそ言語について考えることは大事なんだよ」と住吉先生に教わってから、言語としての英語や英語教育について深く考え始めました。
つまり、教員として「いかに分かりやすく伝達すること」に軸を置いていたところを、より中身に注目するようになったんです。「下を向いたら実は大きな穴が広がっていた」といった感じで、教育や第二言語習得という学問の深さに気付きました。「どこまでこの穴は深いんだろう」という、ワクワクや不安が混じったような感覚でしたね。
ただ、「学生の心に残る先生になりたい」という軸はずっとあって、人の記憶が残ったら、教える内容も残るだろうという思いはあったんです。そこに「言語の深さ」への興味がプラスされたことになります。
-村端先生は留学経験もあるのですね。
大学卒業時に、両親と弟がアメリカのワシントン州にいたので、私も留学を決意しました。米国・ゴンザガ大学の英語集中コースを経て、同大学の大学院に入って英語教授法(TESOL)について深く学びましたね。
日本式の教育が「本能寺の変は何年に起こったでしょう」だとすると、アメリカの教育は「本能寺の変はなぜ起こったのでしょう」というスタイルです。正解・不正解よりも、考えること、またはその過程に焦点を当てた教育でした。
当時の私はディスカッションについていけなくて、悔しくて車の中で叫びながら帰ったこともあります(笑) 日本語だったらきっと伝えられたのに、教育にも言語的にもアメリカンネイティブの相手にアドバンテージがある中、「なんて無力だ」という悔しい思いを何回もしましたね。
そこで、「教科書を数百ページ読む」という宿題があった際、全部は頭に入らないので、興味がある一部を読み込んで、そこだけは自分の意見をきちんと確保しておく努力をしました。相手に「面白いこと言うやん!」と言われたらガッツポーズでしたね(笑) 不発ももちろんありましたが、そのような対策を取ることで私がちゃんと教室に存在できている感覚はありました。
コミュニケーションの一環として、褒め行為がある
―これまでに、どのような研究をされてきましたか?
修士時代には「マルチコンピテンス(多言語能力)」について研究していました。英語学習者はネイティブの真似をしているだけではなく、第二言語として英語を勉強しているからこそ持っている「ユニークな認知能力=多言語能力」があると言われています。
例えば「褒め行為」ですと、1年以上の留学によって英語を長期的に使った経験が多い人の褒め言葉には、最後にプラスアルファで「質問」がある確率が高い結果が出ました。「その靴かっこいいね。どこで買ったの?」みたいな。コミュニケーションの一環として褒め行為が使用されていることが研究で分かり、感銘を受けました。
あと、近年の研究でいうと、「褒め行為」に対するもう1つの考察として、Instagramの「いいね」は、どういう意味で「いいね」されているのか研究したこともあります。「いいね」という「曖昧さ」がすごくいいじゃないですか(笑) でも言語表現的に見ると「いいね」も褒め言葉です。普段何気なくぽちっと押す「いいね」にも、実はいろんな隠れた意味が集約されていました。
例えば、「かっこいい」や「かわいい」など、その裏側は実に多彩でしたね。簡単に伝えられるツールとしても便利ですが、たまには「いいね」に頼らずに、きちんと具体的に自分の言葉で気持ちを伝えることも大事だと個人的に思った研究でした。
今後は異文化のコミュニケーションとして英語をどう使うか、教育にその社会言語学的視点をどう導入してくかの研究を、より深めていきたいと思います。
―村端先生が現在行っている英語教育について教えてください。
授業中はとにかく英語を使わせるアクティビティを増やして、言語アウトプットが増やせる取り組みを率先して取り入れています。
例えば、前後がペアになって、後ろに座っている学生だけイラストを見せる。それを後ろの学生が前の学生に英語のみで説明をして、前に座っている学生はそれを聞いて絵を再現する、というものです。
あとはゲーム『マインクラフト』とGoogle Chatを使用することで、マインクラフトをプレイしながら英語でチャットをさせています。学生にログも回収することを伝えると、一生懸命英単語を駆使しながらでも楽しんで授業を受けていますね。設定も全部英語なので、英語に触れる機会も増えますし、学生は盛り上がって楽しく勉強しながら、アウトプットもできます。
私は、同じ英語学習者とのやり取りを増やしたいと思っています。英語話者はネイティブの方ばかりではないので、単語だけでも相手に伝わる経験をたくさん積んで、「これでいいんだな」という経験を、まずは学生に積んでほしいんです。それが自信になって、次につながると思っています。
日本人にとって謙遜は美徳ですが、褒められたときは肯定で返すのが英語の文化です。褒められて「そんなことない」と言ってしまったら、相手の発言を否定してしまうことになりますよね。ただツールとして使うのではなく、文化的背景も考えながらコミュニケーションを取ってほしいです。日本語で言えないことは英語でも言えないので、考える力を底上げしていきたいと思っています。
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
高専生に対しては、とにかく「羨ましい」しかないんです。自分の専門分野プラスアルファで英語を勉強しているという強さに気付いてほしいなと思います。学生時代の私には英語しかなかったので、メインの技術プラスで英語もできる。それってすごく特殊でかっこいいじゃないですか。
「高専生は英語が出来ない」とよく言われますが、やれと言われたらできるんです(笑) 自分で意識的にスイッチをオンするところに慣れていないだけで、「考えなさい」と言って時間をしっかりかけると、すごくいい意見を英語でも出してくれます。
そして、ただ英語だけできてもやっぱり足りないです。「先生が言ったことだから全部正しい」ということはありません。受け取った情報をきちんと自分の中で評価して次に繋げてほしいですし、専門プラスで英語を勉強して、自分の市場価値を高めてほしいです。
専門コースの先生方はもちろん、私たちも一般科とはいえそれぞれ専門分野がありますし、深く勉強された先生が高専には揃っています。勉強するには本当にいい環境ですよね。ただの真似ではなくて、自信を持って自分の英語を使えるエンジニアになって、世界で活躍してほしいです!
村端 啓介氏
Keisuke Murahata
- 有明工業高等専門学校 一般教育科 講師
2009年3月 高知県立高知小津高等学校 普通科 卒業
2013年3月 摂南大学 外国語学部 外国語学科 卒業
2016年12月 米国・ゴンザガ大学大学院 英語教授法(MA TESOL) 修了
2017年4月 四天王寺大学 教育学部 教育学科 非常勤講師
2018年4月 四天王寺大学 人文社会学部 国際キャリア学科 非常勤講師
2018年4月 近畿大学 薬学部 教養・基礎教育部門 非常勤講師
2019年4月 有明工業高等専門学校 一般教育科 助教
2022年4月より現職
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