北九州高専の技術専門職員である宮元章(あきら)先生は、10年間の塾講師経験の中で教えることの楽しさに気付いたそうです。高専機構CSIRT(コンピュータセキュリティインシデント対応チーム)や北九州高専内のネットワーク管理など、幅広く活躍されている宮元先生に、これまでの経験や教育への思いをお伺いしました。
「データ収集と分析で合格率アップ!」の塾講師時代
―以前は、塾講師をされていたそうですね。
そうなんです。大学生だった頃から塾講師をしていて、卒業後も続けていました。塾講師を始めた頃は教えることに苦手意識があったのですが、生徒さんたちと関わっていく中で、その楽しさに気付いたんです。
私が勤めていた塾の系列は全国にあったので、大阪や京都、名古屋などを飛び回って教えていましたね。担当していたのは、中学入試と高校入試の理科です。難関校を目指している生徒さんに教えることが多かったので、合格率を上げることには苦労しましたね。
でも、生徒さんたちが無事に合格して、「受かりました!」と笑顔で報告してくれたときは、塾講師としてのやりがいを感じていました。
―合格率を上げるために、どのような工夫をされていましたか。
授業をするときの板書やノートは、毎年改善を繰り返しながら、より良い授業になるように努めていました。当時はまだデータベースがなかった時代でしたので、これまでの入試問題のデータを集められるだけ集め、合計で20年分くらいのデータ分析を1人でやっていましたね。
授業よりもデータ収集や分析にかなりの時間を割いていましたが、データを見ると、頻出問題や問題の傾向がわかるんです。それに基づいた授業を行うことで、生徒さんの合格率アップにつながったのではないかと思います。
自ら志願して、やりたいことを掴んでいった
―そんな塾講師を離れられた理由は、何だったのでしょうか。
教えることは楽しかったのですが、体力的に続けられないと感じたんです。特に夏休みは、朝から夜まで働いて、休みもほとんどない状態でした(笑) 塾講師を続けたいという気持ちはあったものの、自分の体を考えると、転職だったんですよね。
でも、私は当時27歳で、第二新卒で就職できる年齢ではありませんでした。そのとき思ったのが、キャリア関係なく挑戦できる公務員試験。覚悟を決めて、塾講師の仕事後に国家公務員(Ⅱ種)試験の勉強を始めました。そして、3回目の挑戦で試験を突破できたのですが、今振り返ると、「あれだけの仕事量をこなしながら、よくやり切ったな」と思いますね(笑)
―その後、大島商船高専で働くようになったのはなぜですか。
試験に合格した後、国土交通省や警察庁などを受けていたのですが、なかなか結果につながらなかったんです。そんなとき、とある大学から「採用試験を受けませんか」という案内の葉書が届きました。遠くの大学だったのですが、ピンと来て受験することにしたんです。でも、結局不合格でした(笑)
その後、知らない番号から電話をいただいて。それが大島商船高専だったんです。高専や商船のイメージは「5年間学べる学校」くらいの知識しかなかったのですが、教えることが好きだったので、挑戦したいと感じましたね。初めて中国地方に行って、帰りの新幹線の中で「合格」の知らせをいただき、働くことになりました。
-大島商船高専での仕事内容を教えてください。
技術職員として採用され、学生さんたちの実験を見ることをメインの仕事として働き始めました。国家公務員としての採用区分は電気電子情報系だったんですが、商船高専の実験はほとんどが機械系で、最初の数年間は戸惑いました。
ただ、面接で「何でもやります」といった手前(笑)、有言実行しようと被覆金属アーク溶接講習を受けに行き、できるようになったんです。ほかには研削砥石交換の講習にも行きましたね。機械系の実験もだんだんと面白く感じるようになって、やりがいはかなりありましたね。学生さんたちがしている実験を見るのも楽しかったです。
-高専で働いてみて、どうでしたか。
機械系の実験にやりがいを感じると同時に、「情報系の授業を持ちたい」という思いも、私の中でふつふつと湧いてきたんです。だから、自分が動いて、情報系の実験を入れてもらえるように何度も先生方に働きかけました。
それが功を奏したのか、5年ほどかけて、担当の半分以上が情報系の実験になりました。実験の内容としては、プログラミングがメインでしたね。現在、大島商船高専で技術職員をされている舛井先生も、実は私の教え子なんですよ。
現在は学内だけでなく、高専外でも活躍
-それから北九州高専で働かれるようになったんですね。
結婚を機に、異動を考えるようになりました。妻の職場が山口県の下関で、大島商船高専からは離れていたんですよ。妻は転勤ができなかったので、下関から近い北九州高専に異動の希望を出しました。
高専での仕事を辞めるつもりはありませんでしたね。仕事内容を気に入っていたことと、やりがいがあったことが大きな理由です。無事に希望が通って、北九州高専で技術職員として働くようになりました。
―北九州高専に移られて、どうでしたか。
「ものづくりにとても長けた高専だなあ」という印象を受けました。工業高専なので機械系がすごく強いと思ったのと、北九州自体が「ものづくりの街」なこともあり、工業系の内容を学ぶにはすごく良い環境が整っていると感じましたね。
でも、北九州高専では実験・実習を持たなくなったんです(笑) 私が担当しているのは、学内のネットワーク整備や運用・保守、サイバーセキュリティインシデント発生時の対応といった内容なので、学生さんと直接関わる機会が少なくなったのは寂しいですね。またタイミングがあれば、実験や実習を通して、学生さんたちと関わりたいと感じています。
―そんな中、学内の検温システムをつくられたそうですね。
コロナ禍になってから、検温データをデータベースに格納して、教職員が誰でも閲覧できるようなシステムをつくることになりました。プログラムとしては単純だったのですが、バグを解決するのが大変でして。システムはまるで聞き分けの悪い猫みたいなものなので、なかなか思い通りにはいかず(笑)
開発している中で、学生証を忘れた学生のためのシステムもつくってほしいと言われて、試行錯誤しながら何とか実装に成功しました。今はコロナも落ち着いているので、検温システムとしてではなく、出席管理システムとして活用しています。検温から出席管理のシステムに移行するのも、実はけっこう大変だったんですよ(笑)
今後は、授業が始まる前に出席管理ができていない学生さんに対して、メールで注意喚起をするシステムを実装する予定です。また、保護者さんにもそのメールを送信できるようにしたいと考えているので、まだまだやることはたくさんありますね。システムをつくるのは大変ではありますが、高専で役に立っていると思うと嬉しいです。
現在は、高専機構CSIRT、高専機構の情報基盤部門員、エグゼクティブビジネススクール講師、K-SEC教員等人材育成プロジェクトなど、自分がやりたいと思ったことに積極的に志願して、活動の場を広げています。北九州高専だけではなく、高専機構全体の「縁の下の力持ち」になれるよう、精力的に活躍していきたいです!
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
高専では授業内容はもちろん、実験や実習、ロボコンやプロコンも開催されています。その中で、自分のやりたいことを見つけることができれば、高専での生活がより楽しくなるのではないかと思いますね。
そのためには、いろいろなことに興味を持つことが大切です。何も考えずにただ高専で過ごして進路を決めるよりも、さまざまなことにアンテナを張って、自分が興味を持てることを見つけて、それに全力で取り組んでいく生き方を選んでほしいと思います。
もし、興味があるものが見つからないという学生さんがいたら、まずは何でもやってみるのが良いのではないかと思いますね。私自身も、最初は機械系の仕事内容と聞いたときは「思っていたのと違う」と感じましたが(笑)、実際にやってみるとすごく楽しかったので。だから、学生さんたちもやる前から毛嫌いするのではなく、何事もチャレンジするようにしてほしいです!
宮元 章氏
Akira Miyamoto
- 北九州工業高等専門学校 教育研究支援室・ITセンター 技術専門職員
本部事務局 情報企画課 専門職員(併任)
情報戦略推進本部 情報セキュリティ部門 高専機構CSIRT
情報戦略推進本部 情報基盤部門
2008年 大島商船高等専門学校 技術職員
2013年より現職
2023年 本部事務局 情報企画課 専門職員(併任)
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