大学卒業後、小山工業高等専門学校で20年以上教壇に立つ、飯島道弘先生。「今の仕事は天職だ」と話す飯島先生が、学生時代に知った研究のおもしろさ、そして、学生たちに伝える熱い思いを伺いました。
出会いに恵まれた学生時代
―飯島先生が理系分野に興味を持つようになったきっかけを教えてください。
北海道札幌市で生まれ、幼少期は自然豊かな千葉県銚子市で育ちました。釣りや昆虫採集などの生き物が特に好きで、夏休みの自由研究は毎年ワクワクしていましたね。アニメやマンガに登場する研究者や大学教授という職業にすぐ憧れるようになり、理系の道を志しました。
県内の高専には生物系の学科がなかったので、高校進学は普通科を選び、大学進学を考えました。このころには純粋な生き物よりも、生活や医療を支える素材に興味を持つようになっていましたね。大学は材料工学を学べる東京理科大学の基礎工学部を選択しました。
―大学生活についてお聞かせください。
1年目は北海道での寮生活でした。恋愛ドラマにあるような大学生活に期待していたのですが、男だらけの4人部屋で同室の3人とは話題や趣味も合わず……(笑) 最初は本当に1年間過ごせるかどうか不安もありました。
そんな不安も数日経てば忘れて、気づけば、勉強に部活、筋トレ、買い物、飲み会と充実した毎日を送るようになります。4年生で配属された研究室では、医療用高分子材料に関する研究テーマに興味を持ち、関連する分野の研究職に就くために大学院進学を決意しました。
自分で選んだテーマでしたが、最初は難しすぎて全く理解できなかったんです。でも実験は大好きで、土日や長期休みも関係なく毎日実験ばかりしていました。
プライベートでは、友人の誘いで参加した食事会でかけがえのない出会いがあり、大学院2年生、23歳の時に学生結婚をしています。現在、結婚27年目で長男が21歳、長女が19歳です。本当にどこに出会いや転機があるかわからないものですよね。
教育研究職をハイレベルで実現できるのが、高専だった
―教育職に興味を持ったのはいつごろですか?
大学の研究室配属後です。それまでは、研究職を志望していましたが、研究に興味を持たせてくれた先生の影響や後輩学生への指導、大学のTAでの実験指導、家庭教師のアルバイト経験などを経て、工夫して教える楽しさを強く感じるようになりました。幼少期に、北海道大学理学部地質学鉱物学科の教授であった祖父が身近にいたことも、教育研究職が身近に感じた理由のひとつだと思います。
教育研究職をハイレベルで実現できる高専の存在は、先に高専教員になっていた大学の先輩から聞いていました。全国の高専を5校ほど受けたのが2000年。小山工業高等専門学校 物質工学科に赴任し、教員生活がスタートしました。
―教職を始めたばかりのころの、心境についてお聞かせください。
最初の授業の時は、手を震わせながら黒板を書いていたことを今でもよく覚えています。毎日精一杯でしたが、学生たちの人懐っこさに救われましたね。
週2日の空き時間には、東京理科大学や筑波大学に通って大学生や大学院生にも指導をしていました。最初の10年は高専と大学を行き来する生活を続けていたので、今でも共同研究先としていい関係を築けています。
―現在の研究内容を教えてください。
医療、化粧品用材料への展開を目指した、機能性高分子材料の精密合成を研究しています。高分子は、構造や長さ、組み合わせを変えるだけで多様な性質をつくれる重要な物質です。私は素材としての物性が多様に変化することに、高分子材料の無限の可能性とおもしろさを感じ、この研究を始めました。
特に、分子内に複数の性質を有する多成分系ポリマー(ブロックポリマー、ランダムポリマー、グラフトポリマーなど)は、個々のポリマーの機能に加え、形状や組成の差異で新しい機能が生まれ、無限の可能性を秘めている材料です。近年では、これらの要求性能が高度化し、ナノレベルでの構造制御が必要とされ、精密な分子設計が重要となっています。
私の研究室では、これらの「かたち」や「組み合わせ」を工夫して新しい高分子材料を提案し、医療器具や化粧品などに使用できる柔らかい素材(ソフトマテリアル)への展開を目指しています。
具体的には人工臓器やコンタクトレンズなど、人体に対して応用されるものなので、要求されるハードルは非常に高いです。しかし、その分、やりがいはあると感じていますし、学生にはその過程のおもしろさを知ってほしいですね。
同じ研究室の仲間と、人間力を研鑽する
―飯島先生の研究室には、基本方針があるとお聞きしました。
はい。ゼミ生の共通言語になる6つの基本方針を掲げています。
1. 共に学び、共に遊ぶ!やるときはトコトンやる
2. 60点でもとにかく進め!常に後悔しないように頑張ろう!
3. 今日できることを明日にのばさない精神で!
4. 人のつながりに感謝し、人脈を最大限に活かそう!
5. 上から受けた恩は、愛情を持って下に尽くそう!
6. 研究に必要なものは、知識・経験・体力・やる気・人脈・段取り力であり、どれかが欠けてもいけない。自分に足りないものを自覚し、積極的に吸収すること。
これらの言葉は、私自身が学生の時、恩師や先輩に言われた言葉ばかりです。ゼミは研究がベースにはありますが、人間力も高め合える場になればと思っているんです。
そのひとつとして、私の研究室には歴代所属している学生の名前を直筆で書いた木札があります。現役生と卒業生、同じ志を持つ教え子たちをつなげるのも私の役目だと思うからです。定期的に私が交流会を催すと、後輩は先輩に進路や研究の相談をして、先輩は後輩から新しい刺激をもらっています。教師としてはそれを見るだけでも嬉しいことです。
―そのほか、高専で力を入れている活動はありますか?
課外活動では、女子サッカー同好会の顧問をしています。2002年に学生の声から結成された同好会で、当初は部費が十分になく、学校祭で石窯焼きピザを焼いてはその売り上げを部費に充てていました。
いつしか石窯焼きピザは恒例イベントとなり、20年間継続中です。現在は障害者就労支援施設からピザ生地を購入し、学校祭などでの石窯焼きピザの売り上げの一部を、東日本盲導犬協会や市立図書館などに寄付する活動を継続しています。
また、地域の小中学生を対象とした理科教育支援や関連大学の研究室における導入教育、キャリア教育の徹底、総合学生支援センターの運営などにも注力しています。
―今後の展望についてお聞かせください。
教育面では、コロナ禍で希薄になった人間関係を戻しながら、以前のような活気のあるチームワークを戻して、社会貢献・地域貢献につなげていきたいですね。学生の活気が私たち教員のエネルギー源なので、常に学生がやる気になる仕掛けをつくっていきたいと思います。
研究面では、プラスチックをはじめとする高分子材料が環境面で悪者にされつつある現状を実感しています。しかし、高分子材料はニーズに合わせて機能を調整できる素晴らしい材料であり、ほかでは置き換えができない部分も多いはずです。今後は、環境に適応する素材開発に注力しながらも、ほかにはない新機能を持った素材開発に努めたいと思います。
また、研究のおもしろさを学生に伝え、次世代の技術を担える人材育成に向けて努力したいです。
―最後に、学生にメッセージをお願いします。
好きな科目はとことん勉強して、その分野のスペシャリストになりましょう。「オタク」を武器にしてください。あとは、とにかく楽しく! 自分が楽しんでさえいれば、何でもやっていけますから。
飯島 道弘氏
Michihiro Iijima
- 小山工業高等専門学校 物質工学科 教授
1990年3月 千葉県立国府台高等学校 卒業
1994年3月 東京理科大学 基礎工学部 材料工学科 卒業
1996年3月 東京理科大学 基礎工学研究科 材料工学専攻 修士課程 修了
1999年3月 東京理科大学 基礎工学研究科 材料工学専攻 博士課程 修了
1999年4月~2000年8月 三菱化学株式会社(四日市事業所 技術開発センター 機能樹脂研究所)
2000年9月 小山工業高等専門学校 物質工学科 助手
2006年4月 小山工業高等専門学校 物質工学科 講師
2009年4月 小山工業高等専門学校 物質工学科 准教授
2006年4月~2011年3月 筑波大学 先端学際領域研究センター 客員研究員
2012年8月~2012年12月 アラバマ大学ハンツビル校 客員研究員(在外研究員)
2017年8月~2018年3月 長岡技術科学大学 客員准教授
2018年4月より現職
2018年6月~2019年3月 長岡技術科学大学 客員教授
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