宮城高専(現:仙台高専名取キャンパス)の建築科へ進学し、出会った「教員」という仕事。そのきっかけは、自身を導いてくれた恩師の熱い思いとサポートでした。現在は鶴岡高専で准教授を務めていらっしゃる松橋将太先生に、教育への思いを語っていただきました。
恩師の熱意に触れ、高専教員の道へ
―高専に進学したきっかけは?
知人の方で司法関係の仕事に就いている人がいて、小さい頃から弁護士に憧れていました。どんな人ともロジカルに、対等に渡りあえる。その姿がかっこいいな、と。そうしたなかで、身体を動かす仕事にも魅かれていて、中学生の時は教育や建築関係の職業に就くことも視野に入れていました。
そして、地元の工業高校(建築・土木学科)への進学を検討している際に、宮城高専の建築学科を知りました。調べているうちに、5年一貫性で就職率が高く進学も可能であること、部活動にも熱心に取り組んでいること、学生寮生活も可能であることを知り進学を志望しました。
宮城高専では1〜4学年まで学生寮で生活し、3学年時には1〜3学年寮長、4学年時には監査委員を担当しました。その傍ら5年間ラグビーフットボール部に所属していたので、学校生活は部活動が中心です。合宿なども多く早朝6:00から、パスの練習をすることもありました(笑)
成績はそれほど良くなかったので先生方には迷惑をかけたこともありますが、ある先生から「君はしっかりやり抜く力がある」という言葉をいただいたことは、今でもよく覚えています。周囲のサポートのおかげで、部活動では全国大会で優勝を経験し、選抜チームでのプレーなども経験できました。
―鹿屋体育大学に進学したのはなぜですか。
進学を検討したのは、学生生活や学生寮、部活動を指導してくださった多くの先生の熱意や仕事内容に興味を抱くようになったからです。
当時私は「失敗したくない」タイプの学生で、自分の弱みを見せるのが苦手でした。部活動で自分の立てた計画がうまく進まないことがあると、自分のやるせなさに落ち込むというか……。「まだ甘かった」と内省的に落ち込むことが多かったように思います。
そうした私の様子を見て、ラグビーフットボールの先生はきびしく粘り強く指導にあたってくださいました。また別の先生は「『計画』というのは君個人の話。みんながそれぞれの『計画』を持っているんだから、まずは他の人の『計画』や『思い』を聞くことからはじめなさい」と導いてくださいました。自分に向き合ってくれた大人がいたからこそ、今の自分があるのだと言えます。
世の中の仕事で「自分でなくてはできないこと」というのは、それほど多くはありません。「じゃあ、自分でもできることって何だろう」「楽しめるのはどんなことだろう」と、徹底的に考えました。
司法や建築にはある程度明確な答えやゴールがありますが、教育には「正解」はなく、ゴールがありません。そして、本気で教育の仕事に興味を持ち、挑戦したいと考えるようになり、体育教員を目指しました。
鹿屋体育大学を志望したのは、全国で唯一の3年次編入学ができる国立体育大学であったからと、2年間で専門的知識を身につけて体育教師の教員免許を得られるからです。
コーチング学を取り入れた授業も
―大学生活はいかがでしたか?
運動生理学研究室に所属し、主にスポーツ動作時に発揮される電気信号を測定するEGM(Electromyography、筋電図)測定の分析を進めていました。EMG測定とは、筋が発する電気信号とノイズに関する事象を通じて、筋肉の収縮や弛緩などの関係性を分析し、関節の動きや各神経系の伝導速度や変化要因を調べることです。
また、大学でもラグビーフットボール部に所属し、バイスキャプテンとしてプレーしました。練習計画の企画立案や大会への参加、チーム運営などの経験を通じて、コーチング分野の学習や、さまざまな研究活動による現象の解明などにも興味を抱くようになりました。
高等専門学校の教諭になることも目標だったので、その後は修士課程に進学することにしましたね。そして、「研究活動をコーチング学分野に広げていきたい」という新たな研究分野への挑戦に加え、より高い競技レベルでラグビーフットボールのコーチングを学びたいと思い、筑波大学人間総合科学研究科への道を選びました。
現在は、大学・大学院などで培った経験をもとに、福祉工学分野のデバイス開発・支援、ウェアラブルウォッチを用いたアプリ開発・支援、人材育成方法に関する研究などを進めています。
―現在担当している授業について教えてください。
2学年から4学年の「保健体育」と、1学年・4学年の「総合工学」の授業を担当しています。保健体育では、「個性」よりも「できること」や「したいこと」を探すことを大切にしています。
例えば、4学年の保健体育では、「主体的選択」と「自己課題設定」型の授業を取り入れています。身体を動かすのがあまり好きではない学生もいますが、そんな彼ら自身で時間の使い方を選べるようにしているのです。
私が提示するいくつかの選択科目の中から学生自身が科目を選択して、メンバーや時間の使い方などもすべて自分たちで決める。そうすることで、集団行動や他者への配慮、自己管理や責任感などを養ってもらえたらと考えています。
また、コーチングのライセンスを生かして、1学年生向けには「傾聴・対話スキル」、3学年生向けに「ビジネス・アイデア・プラン」を担当しています。3学年生向けの授業では、すぐに実用化したくなるような良いアイデアが出てくることもあります。情報の取り方や使い方を教え、材料だけそろえれば、彼らは自由に考えてくれる。マーケティングの視点で、原価計算まで自分たちで完結するんですよ。
学生に向き合い、チャンスをつくり続ける
―教育に対する思いや方針をお聞かせください。
学生たちに対して教員として大切にすべきことは、謙虚に、努力する姿を見せ続けることだと感じています。また、学生が持つ個性を見つけて、引っ張り出すのが私たちの仕事だとも捉えています。
日頃、指導にあたっていると、「自分の個性がわからない、個性って何ですか?」といった鋭い質問が飛んでくることもあります。「自信がない」「やりたいことが見つからない」と悩む子どもが多い現代において、コーチングは時代に合ったメソッドだと考えています。
例えば、今は4年生・5年生が就職活動中ですが、コロナ禍で学生活動が制限されていたため「学生時代に力を入れたことを面接で聞かれても、どう答えていいかわからない」と悩んでいる学生が何人かいました。
でも、彼らは何も頑張っていないわけではなく、「日々生きる」ことに一生懸命なんです。だから彼らには「自分が楽しいと思えること、未来を見据えて、自分の行動を取捨選択できていることが素晴らしいこと。その上で、自分は何をしてきたのか、これからどうなりたいのかを、我々大人との対話の中で気づいていくことが大切」と伝えます。すると、彼らも安心した表情を見せてくれるんですよ。
―最後に、未来の高専生へメッセージをお願いします。
やりたいことや興味のあること、自分しか考えないこと、何でもいい。君一人に寄り添った教育ができるのが高専です。やりたいと思ったことに、とことん付き合ってくれる大人がたくさんいます。だから、自分が楽しんだ分、学生生活が自分の楽しい未来につながり、大人になることが楽しみになります。
「自分の考えを誰にもわかってもらえない」と悩んでいるなら、それは「君だけが抱いている発想、想像力、つまりは天才?!」ということ! 周囲に理解してもらえないと落ち込む必要は全然ないから、君自身の「やってみたい!」を大切にし、その発想力に自信を持ってほしいです。
もし今、将来やりたいと思えることがなくても大丈夫。好きなことを見つける機会は、私たち大人(教員)が一緒に見つけますので、まずはいろんなチャンスに触れてみて、自分の感性を大切に大きくなってほしいと思います。
松橋 将太氏
Shota Matsuhashi
- 鶴岡工業高等専門学校
創造工学科・基盤教育グループ 准教授
2008年 宮城工業高等専門学校 建築学科 卒業
2010年 鹿屋体育大学 スポーツ生命科学系 卒業
2012年 筑波大学 人間総合科学研究科 博士前期課程 体育学専攻 修了
2012年4月~2014年4月 仙台高等専門学校 電気システム工学科 技術補佐員
2014年5月~2020年3月 鶴岡工業高等専門学校 創造工学科 基盤教育グループ 助教 (体育学修士)
2021年4月~現在 鶴岡工業高等専門学校 創造工学科 基盤教育グループ 准教授 (体育学修士)
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2014年8月~ 関東ラグビーフットボール協会 レフリー委員会
2015年4月~ 山形県ラグビーフットボール協会 大学・高専委員長
2015年5月~ 山形県ラグビーフットボール協会 強化委員
2016年5月~ 鶴岡工業高等専門学校 志願者確保マーケティングチーム
2019年4月~ 鶴岡市ラグビーフットボール協会 事務局長 兼 育成・強化委員長
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