徳島大学在学中より電磁界の研究をされている太良尾浩生(たらお ひろお)先生。大学院を修了後は高松高専(現:香川高専)へ赴任され、現在はタイ高専に勤務されています。そんな太良尾先生に、ご研究内容やタイ高専での授業についてお伺いしました。
得意だった数学を生かして、電磁界研究の道へ
―太良尾先生は、徳島大学で大学院まで進まれたんですね。
「やりたいことがあるから」という理由で、大学院まで進んだわけではないんですよ(笑)。徳島大学を選んだ理由も、高校3年生の冬に担任の先生から勧められたからという、割と受け身な選択で(笑)。5教科の中では数学が1番得意だったので、「数学が得意なら、徳島大学の工学部が良いんじゃない?」と言われて、徳島大学を受験したんです。
大学でも進路の選択を考えたときに、「まだ就職するには早い」と思って、大学院の博士課程まで進んだんです。4年生での研究室の内容が面白かったことも、もちろん理由の1つではあります。
―大学では、どのような研究をされていたんですか?
電磁環境に関する調査研究をしていました。電磁界って、私たちの体が感じ取っていないだけで、意外と身近なところにあるんですよ。私たちの身体の中にも電流が流れているのですが、その電流がどれくらいの大きさで流れるかを調査していました。
流れる電流の大きさが大きくなると、電気刺激を受けます。だから、どこでどのくらいの電流が流れるかを調べて、私たちの体に影響が出るラインを調べていました。
ただ、当時はコンピュータの性能がそれほど良くなかったので、人体モデルを使った実験ができなかったんです。だから、球体を人体に見立てて実験していましたね。それでも、当時で考えればハイスペックのコンピュータが研究室では使えたので、それが電磁界研究の面白さにつながっていたのかもしれません。
―大学院をご卒業後、高松高専に赴任することとなった理由について教えてください。
博士課程が終了した後、どこに就職するか悩んでいました。徳島大学の求人に空きがあったら、そこに就職するという道もあったかもしれませんが、私が卒業するタイミングでの募集はなかったんですよね。
そんなとき、教授に高松高専(現:香川高専)の求人を勧められたんです。「高松高専で空きがあるけど、どうだい?」と。私は高専出身ではありませんが、大学で高専出身の学生と関わる機会はありましたので、高専自体の存在は知っていましたし、高専出身の学生は優秀だという印象もありましたね。
双方向でのコミュニケーションを大切に、授業を進めたい
―高専に就職してみて、いかがでしたか?
高校生と同じ歳の学生が多いので、全体的に「若い」というイメージがありましたね。赴任した当初は、高校生の年齢である1年生から3年生までは、厳しく接していました。一方、大学生の年齢である4年生と5年生に対しては、歳が近いこともあって友達のように接していましたね。高専の中で、自分のキャラは2つありました(笑)。
最近、気が付いたんですが、授業に関して自分は板書をしすぎていたなと。そのきっかけはオンライン授業なんです。オンライン授業だと板書ができないので、パワーポイントを使って説明をするようになったのですが、これまで90分かかっていた内容が、60分で説明できることが分かりました。それだけ、板書に時間を取られていたと思うんですよね。
私は学生が理解しやすいようにと、つい板書してしまう癖があります。もちろんそのメリットはたくさんありますが、もっと学生の表情を見ながら、より双方向で会話をして授業を進めていけたらと思いますね。しかし、学生から反応が返ってこないのが悲しいです。
着眼点を変えて、電磁界の研究を続行
―現在は、どのような研究をされているんですか?
引き続き電磁界の研究は続けていますが、着眼点を変えて研究を進めています。今、私が着目すべきだと思っている点は、「神経系の組織」です。骨でも調べられるのですが、それよりも脳や心臓といった神経系の組織の電気刺激に着目しています。
「電磁調理器」というものがありますが、これは電磁界を使って鍋を温めているんです。実はそこから電磁界が漏れていることがあり、「それがどれくらい漏れているか」や「体に流れている電流がどれくらいか」を調査するのが私の研究です。
今後は、私の研究内容を歯の治療に応用していけたらと思っています。歯医者で虫歯の治療をしたことがある人も多いと思いますが、虫歯菌って完全にはなくならないんですよ。特に奥の虫歯菌は殺菌が難しいんです。
そこで、レーザー治療のような原理で、歯に電流を流すことで発熱を起こし、熱殺菌できるような機械の研究が進んでいます。私はその中でも「どういう電流を流せば効果的に熱が発生しやすくなるか」の研究をしていて、電極を使う場所や電流を流す時間を計算で求めています。
―電磁界の研究の「楽しいところ」を教えてください。
大学時代に研究をしていたときは、コンピュータのスペックには限界があり、思ったように研究が進められなかったこともありました。でも、今はコンピュータの性能は格段に上がり、大学時代にはできなかった高度な研究ができるのは嬉しいですね。コンピュータで計算をするときは、自分でプログラムを組んでいるのですが、プログラミングが楽しいから、この研究を続けられているのかもしれません。
「このプログラムを変えれば上手くいくかも」と、自分なりに考えながらプログラムを書き直さなければならないので、難しさはありますが、上手くいったときは嬉しさ倍増ですね。ただ、計算上は電流が流れていることがわかっても、実際に自分の目で確かめられないことが、もどかしいところですけど(笑)。
授業や部活以外にも取り組んで、外の世界を見てほしい
-太良尾先生は、現在、タイに赴任されているんですね。
香川高専で働いていたときから国際交流の仕事をしており、タイにも何度か出張する機会がありました。でも、1泊や2泊という短期間の滞在しかなかったので、詳しくは知らなかったんですよね。そんなとき、タイ高専の公募があり、思い切って新しい道を選びました。
当時、高専に在籍して21年となり、なにか変化が欲しいと常々思っていました。特に自分の授業のあり方について悩んでいたんです。このままでは、私の授業はワンマンショーになってしまうと思い、新しい授業のやり方を学びたいという気持ちもあり、タイに行くことにしました。
ただ、残念ながら新型コロナウイルスが流行ったタイミングだったため、9か月を経た今もまだ対面授業ができていないんです。オンライン授業でしか学生とは接していませんが、タイ高専の学生は、反応が良いように感じますね。コメントで答えを発表してもらったり、リアクション機能で反応を見たり、オンライン授業ならではの機能を使って、楽しく授業をしています。
タイ高専では、2年間勤務をすることになっていますが、この2年間で日本の教育現場もどのように変化するか楽しみですね。日本に戻ったときに、自分がタイ高専で働いたことを糧に、学生とコミュニケーションを取りながら授業ができたらと思います。
―高専生や高専への進学を考えている小中学生に向けて、メッセージをお願いします。
高専は、5年間という長い時間を過ごすことになります。だから、授業や部活以外のことにも積極的に取り組んでほしいと思います。授業や部活だけだと、高専だけの繋がりしかできないと思うんです。だから、外の世界との繋がりを持って、視野を広げてほしいですね。
そして、機会があれば海外にも目を向けてほしいと思います。日本だけで暮らしていると、「日本での生活」が当たり前になるんです。でも、海外では「日本の生活」が当たり前じゃない。それなのに「当たり前」と思ってしまうから、海外での生活が不便だと感じてしまうんです。
海外の生活を体験することで、「日本での生活が当たり前ではない」と感じることができます。すると、海外でも通用する人材になれるんです。「日本でしか通用しない人間」にはなってほしくありません。だから、授業や部活以外でも目標を持って、高専ではない「外の世界」にどんどん飛び出して行ってください!
太良尾 浩生氏
Hiroo Tarao
- 国立高専機構事務局・KOSEN KMUTT(高専-キングモンクット工科大学トンブリ校 タイ国) 国際課 国際参事補
1990年 徳島県立小松島高校 卒業
1994年 徳島大学 工学部 電気電子工学科 卒業
1996年 徳島大学大学院 博士前期課程 修了
1999年 徳島大学大学院 博士後期課程 修了
1999年 高松工業高等専門学校 電気工学科 助手、講師
2009年 香川高等専門学校 電気情報工学科 准教授
2011~2012年 タンペレ工科大学 在外研究員
2021年より現職
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