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自信を持て! 好きなことを突き詰めた先に答えがある。“鋼橋一筋”の教員が語る研究への情熱

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長野高専の工学科 都市デザイン系の准教授を務める奥山雄介先生。高専で出会った構造力学の分野に惹かれ、10年以上に渡り鋼橋に関する研究を続けています。そんな奥山先生が高専生に伝えたいことは、ずばり「自信を持て!」。そのメッセージに秘められた思いをお伺いしました。

理屈で解決できる「鋼橋」に惹かれて

―現在の研究について教えてください。

大学院から継続して、炭素繊維シートを用いた鋼構造物の補修・補強をテーマに研究を続けています。橋に使われている材料は6割がコンクリート、4割は鋼だとされていますが、鋼でできた橋(鋼橋)は錆びてしまうと修復しなければならないのです。

昔は古くなったら壊して新しくしていたのですが、現在は予算がなかなかかけられないのが実情で、管理だけでも手一杯だという市町村も多くあります。いわゆる“橋の高齢化”です。では、どうすればいいのか。そこで役立つのが炭素繊維です。通常、錆びた橋を補修するには外側から新しく鋼をつけなければならず、大型の重機を必要とするなど工事の規模が大きくなってしまう。でも、炭素繊維は素材として非常に軽く、施工が容易であることから補修が進みやすいのです。

―その研究をすることになったきっかけは何ですか。

研究テーマ自体に出会ったのは大学院の頃ですが、さかのぼると最初のきっかけは高専時代に出会った構造力学の渡辺先生です。私は数学をはじめとした“答えが明確にある科目”が好きで、例えば、研究に土を扱う際にも「今扱った土はこんな数値が出たけれど、同じ場所の土とはいえちょっと違う箇所だったら性質は変わるのではないか」と考えてしまうタイプ。そこを曖昧にしたまま「おそらくこうだろう」と研究を進めることができないのです。

ところが、鋼構造物は素材の性質が変わらない。答えがはっきりしているんです。そのことを構造力学の授業で知り、鋼構造物である橋に一気に惹き込まれていきました。先生が厳しく教えてくださるタイプだったのも、私に合っていたと思います。

▲渡辺先生との一枚

―そもそも、なぜ高専に進学したのでしょうか。

父の友人が函館高専で教員をしていたので、幼い頃から高専の話をよく聞いていました。明確に進学先として意識するようになったのは、中学生になって受験を考える頃です。漠然と「普通の高校に普通に進んでもつまらない」と考えていたので、「技術が身につく高専がいいんじゃないか」と思いました。

▲幼少期の奥山先生。手に持っているのはコンクリートの塊

環境都市工学科を選んだのは、父と祖父が建築系の仕事をしていて、機械や電気よりも土木のほうが身近に感じられたからです。幼稚園の頃から家にあるラジオを分解するような子どもだったので、きっと高専は肌に合っているだろうとも思いました。

卒業後は、鋼構造物に出会ったことをきっかけに「橋梁メーカーに勤めるのも良いな」と思っていたのですが、就職先の選択肢が意外と少ないことを知り、専攻科に進みました。ところが、当時はまだ専攻科ができたばかりで認知度が低く「せっかくなら大学院まで行ったほうが就職に有利なのでは」と思い、その後の長岡技術科学大学の大学院への進学を決めました。

……と、ここまではそれなりに順調に前に進んでいるようですが、実は「いよいよ院へ」というときに「やっぱりやめる」と親に言ってしまい、ひと騒動を起こしてしまったんですよ。

紆余曲折を経て高専教員に

―大学院進学をやめてどうしようと思っていたのでしょうか。

もう一度大学受験をして、数学の教員免許を取ろうとしていました。小学6年の頃の担任がとても好きだったので「教師になるのもいいな」と頭の片隅にあった思いが、一気にふきだしたのかもしれません。あるとき突然「もう一度大学受験をさせてほしい」と言われた両親は大慌てでした。それまでそんな素振りをまったく見せていなかったため、当然ですね(笑)

でも、当時の私は真剣でした。自分で選んだ道なのに「このままでいいのか」と、ずっとモヤモヤした思いを抱えていたからです。研究への向き合い方やなかなか結果を出せない自分に嫌気がさしてしまい、いっそやりなおしてしまおうか、と塞ぎ込んでいました。ところが、指導教員だった渡辺先生から「頑張っているほうだよ」と励ましていただいたおかげで心が落ち着き、無事に院に進みました。

―大学院には、進んで良かったと思いますか。

それはもちろんです! 長岡技術科学大学は渡辺先生の出身大学でもあり、特待生制度を使って入学することができました。進学の理由は単純でしたが、ここでもまた良い先生に出会い、現在の研究テーマに巡り合えました。

▲修士課程の頃の奥山先生。座り込んで何かを調べています

今でこそ炭素繊維を使った鋼構造物の補修技術は浸透していますが、当時はまだ技術として確立していない段階。ちょうど私が進学したタイミングで研究が始まり、博士課程ではNEXCO総研(高速道路総合技術研究所)との共同研究にも携わらせていただきました。いわば、自分が関わった研究内容が、世に出る瞬間に立ち会えた。これは非常に研究のモチベーションになりました。新しい技術で世の中に貢献している感覚は、何とも言えない面白さがありましたね。

▲博士課程の頃の奥山先生(右)。恩師である宮下先生と、バチカン市国にあるサン・ピエトロ大聖堂をバックに

―高専教員として働くきっかけは何だったのでしょうか。

博士2年目が終わる頃に、指導教員を通して長野高専から声がかかったことがきっかけです。現代の日本にはあまり大規模な橋のプロジェクトがないからか、構造の分野を極める若い人材が少ないんですよ。だからあまり人が集まらず、私に話がきたのではないかと思っています。

もともと教師を目指した時期もありましたし、いつかは高専に戻りたいという気持ちもあったので、チャンスがあるなら今しかない、と決意しました。長野高専に着任して2年半ほどは、博士課程を修了するために学生と教員の二足のわらじを履いた生活を送っていましたが、周りの先生方にたくさんサポートしていただいたおかげで、何とかなりました。

▲高専教員1年目の頃の奥山先生(後列1番左)。野球部の地区高専大会で優勝を飾りました

勉強に限らず、好きなことを見つけてほしい

―教員をしながらご自身の研究も進めるのは、大変ではないですか。

忙しさはまったく感じていません。教員の仕事も研究も、どちらも自分が好きでやっていること。むしろ、好きなものに集中できる環境があることをありがたく思っています。

▲オープンキャンパスで中学生に向けて材料の強度について説明する奥山先生

私は、自分が高専生だったときに「こんな先生がいたら面白かっただろうな」と思う“理想の先生”を心がけているつもりです。その一つに「忙しさを見せないこと」があります。研究室にはできるだけこもらず、休み時間にはできるだけ校内を歩いて学生と会話する機会を設けています。研究ばかりで話しかけにくい先生よりも、いつでも気軽に相談できる存在でありたいんです。

▲学園祭担当教員を務められた奥山先生(前列右)。学園祭実行委員のみなさんと

―高専生にメッセージをお願いします。

「もっと自信を持て!」。その一言に尽きます。学生たちを見ていると「自分なんて……」と自信を失っている人が増えているのが気になっています。今は世の中が便利になっていく反面で、さまざまな情報が飛び込んでくるため、必要以上に周りと比べてしまうからかもしれません。

でも、人と比べたところで何も変わらない。大切なのは、自分が辿ってきたこれまでの軌跡と、これからの自分に何ができるかです。では、どうすれば自信を持てるのか——渡辺先生の受け売りでもあるのですが「これなら誰にも負けない」という武器を持っておくことだと、私は考えています。

私自身、学生時代から「構造力学においては絶対に負けない」という思いで研究に取り組んできました。今でも「鋼橋の桁端部といえば奥山だ」と言われるような研究者になるべく、日々邁進しています。とにかく勉強だけに限らず、好きなことを見つけて自信を育んでください。高専は、こうした自分の可能性を見つけ、さらに伸ばしていくためには最適な場所だと思います。

▲海外研修で、ベトナムのトゥアンフオック橋へ(1番左:奥山先生)

―最後に、橋好きの先生が最も気に入っている橋を教えてください。

“渡ってみたい橋”で言うと、フランスにある「ミヨー高架橋」でしょうか。7つの主塔が等間隔に並んでいて、とにかく美しい。地上から橋までが270m、塔の最も高い場所までは地上から343mもあり、「世界一高い橋」としても有名です。周囲は濃霧が出ることがよくあるため、運が良ければ雲の中を突き抜ける感覚を味わうこともできると言われています。車に乗ることも好きなので、いつか必ず走りに行きたいですね。

“眺めたい橋”でいうと、東京ゲートブリッジです。鋼がこれでもかと使われていて、見ていて飽きない橋です。私は、橋は”横から眺めるもの”ではなく、“下から見るもの”だと思っています。それがどんな構造をしているのか、橋の下に潜って分かることがたくさんあるんです。常にそうしていたいぐらいには見飽きませんね。昔と今では構造がまったく違うので、そこから得られる気付きもあります。ぜひ、皆さんもいろいろな橋を見てみてください。

奥山 雄介
Yusuke Okuyama

  • 長野工業高等専門学校 工学科 都市デザイン系 准教授

奥山 雄介氏の写真

2007年3月 函館工業高等専門学校 環境都市工学科 卒業
2009年3月 函館工業高等専門学校 専攻科 環境システム工学専攻 修了
2011年3月 長岡技術科学大学大学院 工学研究科 建設工学専攻 博士課程前期 修了
2013年4月 長野工業高等専門学校 環境都市工学科 助教
2015年9月 長岡技術科学大学大学院 工学研究科 材料工学専攻 博士課程後期 修了
2018年4月 長野工業高等専門学校 環境都市工学科 准教授
2022年4月より現職

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ロボットに「心」を宿す技術で、社会を豊かにしたい。インタラクションデザインで拓く未来への挑戦
「自然現象を捉えたい」という思いから。研究者になる夢を叶え、大気を計測する装置開発に従事
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