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高専生には勉強の楽しさを、社会には高専のポテンシャルを伝えたい! 「高専テクノゼミ」を通じた社会への挑戦

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高専卒の東大発ベンチャー企業として、「高専と社会の架け橋になる」ことをミッションに掲げるOLIENT TECH株式会社。その事業の一環である「高専テクノゼミ」の代表を務めるのは、大島商船高専を卒業し、現在東大生として学びながら奮闘する藤本鼓太郎さんです。「高専テクノゼミ」は高専生向けの学習塾運営やイベント開催を通じ、高専生が多様な進路を切り開くためのサポートを行っています。そんな藤本さんに、高専時代のエピソードや事業への想い、今後の展望などをお聞きしました。

高専で勉強の「中身」を突き詰めることができた

―藤本さんが大島商船高専へ進学したきっかけを教えてください。

出身の山口県には高専が3つもあるので、子どもの頃から高専を身近に感じていました。また、長澤まさみさんが主演を務めた、高専の女子学生がロボコンに出場を果たす映画『ロボコン』は、山口県の徳山高専が舞台です。小さい頃にこの映画を見て、「高専に行きたいな」という思いが強くなりました。

他にも、中学生の頃から家を出て寮生活をしてみたいという憧れがあり、寮のある大島商船高専への入学を決めました。

―高専に入学して、夢中になったことや印象深い思い出を教えてください。

私は注意散漫な子どもだったので、中学生までは勉強が嫌いでした。しかし、高専には専門分野に精通した魅力的な先生が多く在籍しており、さまざまな専門的な知識を学ぶことができました。いわば、表層的な「勉強する姿勢」ではなく「勉強の中身」を深く学べる場所だったのです。そのおかげで、専門科目が増えるたびに「もっと勉強したい」という気持ちが自然と湧いてきたのを覚えています。

特に数学と英語には力を入れました。数学の先生は、私が所属していた剣道部の顧問の先生で、とても良くしてもらい、数学を頑張るようになりました。また、ちょうど高専時代にコロナ禍になったときは、剣道部の活動ができない代わりにみんなで数学を勉強するようになり、部活が数学サークルとして機能していたという思い出もあります(笑)

英語は、高専では授業数が少ないものの、英語の先生が気にかけてくださり、英語の弁論大会にも挑戦しました。中国地方大会で勝ち進み、全国大会にまで出場できたことがうれしかったです。

大島商船高専は、元々は船乗りの学校なので、入学してからは寮生活での上下関係の厳しさを体感しました。ただ、先輩後輩と一緒に過ごす中で、勉強や学校生活の相談に乗ってもらうこともあり、とても良い環境だったと思います。また、私が姉と妹に挟まれた三人きょうだいの真ん中で、男兄弟のノリに少し憧れていたこともあり、同級生と寮部屋に集まりワイワイと賑やかに遊ぶことができたのは、とても楽しかったです。

―東京大学への編入学を考えるようになったきっかけを教えてください。

当時、大島商船高専の卒業後の進路は就職が一般的で、進学や編入はあまり前例がありませんでした。私も最後まで就職と迷ったのですが、大学に行く方が自分のやりたいことができる環境があるのではないかと思い、大学編入への挑戦を決めました。そして、高専では電気系の学科でしたが、当時まちづくりに興味があったため都市工学を学べる東京大学を選びました。

まちづくりに興味を持ったのは高専の図書館で読んだ、イギリスの近代都市計画の祖とも呼ばれるエベネザー・ハワードの『明日の田園都市』という本がきっかけです。この本は都市分野におけるバイブルとも言われる本ですが、当時の私は全く知らずに手に取りました。読むと、電気や機械分野とは違った都市分野の将来性に面白さを感じ、それからまちづくりに興味を持つようになりました。

自身の経験を後輩たちのために生かしたい

―現在、OLIENT TECH株式会社で「高専テクノゼミ」の代表を務めておられます。この「高専テクノゼミ」について教えてください。

OLIENT TECH株式会社は、高専生向けの教育事業や、東大研究室とともに社会課題解決のための新規事業開発などに取り組む高専卒東大発ベンチャー企業です。そのうちの事業の1つが「高専テクノゼミ」に当たります。

高専テクノゼミでは、主に高専生を対象にした学習塾運営と、模試やイベント開催といったコミュニティ運営を行っています。塾運営は、定期試験対策だけでなく、編入試験への対策も行い、高専生の進路選択のサポートにも力を入れています。

―OLIENT TECHに入社し、高専テクノゼミの代表になった経緯を教えてください。

OLIENT TECHは今4期目で、元は代表取締役を務める河野朋基が個人で始めた会社でした。その後、事業拡大のために数名が参画し、私も東大に入学してからその中の1人としになりました。

河野は同じ東大の寮の斜め前の部屋で、話してみると、同じ山口県出身で徳山高専を卒業しており、実家同士もかなり近いことがわかったんです(笑) 大学に行くまでは全く面識がなかったのですが、共通点もあってすぐに打ち解け、彼の会社に携わるようになりました。

当時、OLIENT TECHは高専生の進路選択のサポートに熱を入れ始めていた時期でした。私自身、高専時代に進路選択で悩んだ経験があったこと、母校で初めての東大編入生であったことなどから、高専生の進路選択において何か力になれることがないかと感じていたので、入社することに決めたという理由もあります。

そしてその2年後、今からちょうど1年ほど前に、組織改編で高専テクノゼミ事業の代表に就任しました。今は学習塾の運営はもちろんのこと、高専生だけでなく高専卒の人材や、高専に期待する大学の先生や企業の方などを引き合わせるコミュニティとしての側面をより強くしていこうと、力を入れているところです。

―高専テクノゼミでは藤本さんがやりたかった「まちづくり」に関するテーマでも教育活動を行っているそうですね。

実は高専テクノゼミでは高専生をメインに「実践教育プログラム」というイベントを開催しています。これは、高専生や高校生、大学生にテーマを与えて社会課題に取り組んでもらい、その結果を企業にプレゼンするという実践的な課題解決プログラムです。

私は高専生に大きなポテンシャルを感じており、中でもデータ活用のできる人材は「まちづくり」と相性が良いと思っていました。そこで、今年の夏は「まちづくり×データ活用」をテーマとし、学生たちに取り組んでもらいました。

生活環境のデザインや設計を競う「高専デザコン」の審査員長を務める東京大学の吉村有司先生に監修としてご協力いただき、一緒に盛り上げていただいています。

高専テクノゼミで行った「実践教育プログラム」イベントでの一枚
▲高専テクノゼミで行った「実践教育プログラム」イベントでの一枚

―高専テクノゼミでの事業を進める上でのモチベーションややりがいを教えてください。

私は高専に入るまでは本当に勉強が嫌いな子どもでしたが、高専のオープンキャンパスや出前教室にはワクワクしたのを覚えています。このワクワクを感じられるような場所を、高専の勉強に満足していない人、もっと力を発揮したい人に対して提供できたらという思いで、高専テクノゼミに取り組んでいます。

やりがいを感じる時は、高専生に勉強の楽しさが伝わった瞬間です。理工系の勉強は、「地頭が良くないとできない」というイメージが少なからずあるようで、それができないと自信を消失してしまう学生もいます。ですが、全くそのようなことはなく、一歩一歩できることを積み重ねていくのが理工系科目の勉強方法だと思っています。高専生にこの成功体験を積んでもらい、自分はできるのだという自信と楽しさを感じてもらえた時に大きなやりがいを感じます。

また、いまだに発揮できていない高専のポテンシャルを感じたときにもやりがいを感じます。例えば「こういうシステムが欲しい」と思った時、既存のシステムを改修して、すぐにパパッと使えるようにしてしまうというのは、高専ではよく見かける光景です。しかし、大学に入学して、そのようなことが簡単にできる人はなかなかいないのだとわかりました。高専生のようにすぐに手を動かすことができて、いろんなことに興味のある人材が地方に散らばっているのは、日本のポテンシャルだと思います。

高専生のポテンシャルの高さを社会へ伝えたい

―高専テクノゼミを通して、社会や高専生たちにどのような影響を与えたいですか?

今後、高専は「理系が得意な学生だけが集まる」ような学校ではなくなると考えています。実際、専門科目は難しく、限られた時間の中で先生方が十分な指導を行うことは難しい場合もあります。だからこそ、「誰もが理系分野に取り組みやすくなる環境」をつくり続けたい。それが、高専テクノゼミが「塾」として目指している目標です。

続いて「コミュニティ」としての目標は、高専生のポテンシャルを発揮させて、社会に大きなインパクトを与えられたらと思っています。私も大学に入ってから高専生のスキルの高さがわかりましたし、高専の勉強ではまだまだ満足できないという人も多くいます。この高専生のポテンシャルを社会に対して伝えていくのが目標です。

さらにそのポテンシャルの高さを伝えることで高専の倍率が上がればとも思っています。私も実際に高専に入学する前は、高専がこんなに面白くて楽しい場所だということは知りませんでした。この面白さや楽しさが、高専の中だけでなく、外にも伝わっていけばと思います。

―高専テクノゼミの今後の展望を教えてください。

今後、高専テクノゼミは塾の運営をベースとして、よりエンジニアのコミュニティとしての機能を高め、いろんな活動を広げていけたらと思っています。そして、その中でも事業性があるものを、新規事業として社会に創出できるようにしたいと考えています。

個人的に挑戦したいのはやはり「まちづくり」に関する活動です。高専テクノゼミの実践教育プログラムで「まちづくり×データ活用」をテーマに課題解決に取り組みましたが、この活動にも大きな可能性を感じました。まだまだまちづくりに応用されていないデータはたくさんありますし、高専生であればすぐに活用の方法や手法を考えることができると思うんです。

また、これは高専からの進路選択の課題にもつながると考えています。高専生が進路を選ぶとき、「都会に出るか、地元に残るか」は大きなテーマです。私は東京という都会に出たことでいろんな経験ができましたので、都会という選択の良さはもちろん感じていますが、やはり地元についても考え続けたいと思っています。このまちづくりに関する活動を通して、進路や自分たちの街のことを高専生が考え続けられるような枠組みを整えられるよう、力を入れていきたいです。

―高専での経験が生きていると感じる瞬間を教えてください。

高専では、「考えるよりも先に手を動かして実装する」というスタンスを身につけられました。東大にいても、同じく高専を出ている人には実装力があると感じます。ビジネスでは、頭で考えるだけで答えが出るケースは少ないため、このスキルは様々な場面で役に立っていますね。

また、高専出身というだけで仲間意識が生まれやすく、盛り上がれるのも魅力だなと感じています。年が離れていても、出身地が違っても、同じ出身校の先輩・後輩のようなつながりを感じられるというのは、今の仕事でも非常に生かされています。

―最後に、高専生へのメッセージをお願いします。

藤本さん
▲藤本さん

高専の勉強ができる5年間は貴重な時間です。勉強ができる環境はどこにでもありますが、気軽に先生や友達と関係構築ができ、一緒に勉強ができる環境というのはなかなかこの先取り戻せないものです。クラスメイトとの5年間の交友関係も濃いものなので、大切にしてほしいと思います。

また、高専卒業後の進路選択の際に、狭い世界の中で周りと比較して自信がなくなってしまうこともあるかと思いますが、これは非常にもったいないことです。広い目線で見ると、みなさんはすごいポテンシャルを秘めた人材ですので、やりたいことに自信を持って取り組んでもらえたらと思います。

藤本 鼓太郎
Kotaro Fujimoto

  • OLIENT TECH株式会社 高専テクノゼミ 代表
    東京大学 工学部 都市工学科 3年

藤本 鼓太郎氏の写真

2022年 大島商船高等専門学校 電子機械工学科 卒業
2022年 東京大学 工学部 都市工学科 入学
2022年 OLIENT TECH株式会社 入社
2022年より現職

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