舞鶴高専の電子制御工学科4年生と教員の計34名が、研修旅行の一環で、熊本県内に立地する半導体関連企業や、九州大学 伊都キャンパスなどに訪問するツアーを10月上旬に実施。月刊高専スタッフも本ツアーに同行しました。本記事では、その様子などをレポートします。
「どうやって作るか」ではなく「何を作るか」
現在、国立高専機構では【高専発!「Society 5.0型未来技術人財」育成事業】として、「半導体人材育成事業」を実施。拠点校である熊本高専・佐世保高専を中心として、カリキュラムの整理や、産学連携による実践的教育の展開などを行い、本事業を推進しています。
今回ツアーを実施した舞鶴高専も実践校として本事業に参画しており、同校本科学生を対象に学科・学年問わず半導体製造プロセスの基礎を習得できる「半導体人材育成基礎プログラム」などを実施。そのほか、小学5年生~中学生を対象に体験講座「半導体ナノテクノロジー体験教室」を行うなど、半導体人材の裾野拡大にも取り組んでいます。
そんな中、本ツアーは、シリコンアイランドと言われている九州の中心・熊本に立地する半導体関連企業に学生が訪問することで、半導体業界やそれに関わる企業などへの理解を深めることを目的として実施されました。また、九州大学での半導体研究についても学び、産学両面で半導体を捉えるツアーにもなっています。
まず訪問したのは、九州大学の伊都キャンパスです。ここでは前半に、九州大学大学院 システム情報科学府附属 価値創造型半導体人材育成センター長の金谷晴一先生による講義が行われました。
講義は金谷先生の自己紹介から始まり、その後、九州が半導体関連企業を約1,000社擁する「シリコンアイランド」であることを説明。世界最大の半導体製造ファウンドリであるTSMC(台湾)の子会社「JASM」が日本に進出したのも熊本県でした。
また、日本は最先端の半導体分野において世界から遅れていると言われていますが、佐賀県伊万里市などに製造拠点を持つSUMCOは、半導体の材料であるシリコンウェーハの世界シェアが2位であり、材料分野が強いとのこと。ちなみにシリコンウェーハ1位も日本の企業で、信越化学工業です。
そんな中、九州大学では金谷先生がセンター長を務める「価値創造型半導体人材育成センター」を2023年に設立。ここでは、世界的なトレンドである微細な先端ロジック半導体などを「どうやって作るか」ではなく、それぞれの用途に合致した半導体は何なのか、つまり「何を作るか」という新しい潮流に向き合い、新しい価値を創造できる半導体人材を育成することを目指しています。
というのも、すべての産業で半導体は活用されているため、日本に数多くある社会課題を産業面から解決するには、どのような半導体(何の半導体)を作れば良いのかを考えないといけないのです。専門的な知識を活用して「どうやって作るか」を研究する人材も必要ですが、課題解決のために必要な半導体は何かを理解できる人材(価値創造型半導体スペシャリスト)もまた、社会から求められているといえます。
そのほか、同センターでは半導体に関する基本的な知識を持ちつつ社会的な変革を計画・実行できる人材や、不足していると言われている半導体製造を担う人材も育成。半導体に関する専門的な講義だけでなく、他分野と絡めることで社会実装を視野に入れた講義も揃えています。これらの講義はオンラインで見ることが可能で、高専生も視聴者に含まれているそうです。
講義の最後では、金谷先生がパソコンを分解し、実際の半導体を学生に見せながらご紹介。その後、金谷先生と加藤和利先生(システム情報科学研究院 情報エレクトロニクス部門 教授)の研究室も見学しました。最後には質問コーナーが設けられ、半導体に関すること以外にも、九州大学への編入を視野に入れた質問が展開されたのが印象的でした。
半導体に関わる多種多様な企業を知る
九州大学へ訪問した翌日、舞鶴高専のみなさんは熊本県に立地する半導体関連企業へ訪問しました。
まず訪れたのは、某半導体製造装置企業です。材料と同様に、実は半導体製造装置でも日本は世界的に大きなシェアを占めています。
半導体の製造工程は、シリコンウェーハ上に複数の半導体チップをつくりこむ前工程と、シリコンウェーハを切り出して半導体チップを製品として完成させる後工程に大きく分かれます。それらの工程の中にもさまざまなプロセスがあり、前工程だけでも成膜、パターン転写、エッチング、検査などがあります。
半導体製造装置はそれらのプロセスに合わせて作られており、成膜装置、露光装置、コータ・ディベロッパ装置(フォトレジスト塗布、現像に使用)、エッチング装置、洗浄装置など、多種多様です。
今回訪問した某企業は半導体製造装置に強みを持っており、企業や業界の概要説明だけでなく、その強みの理由についてもお話しされていました。また、機密情報が多い業界のためあまり行われない工場見学も実施(月刊高専スタッフは同行不可でした)。最後には、募集している職種についての質問などがありました。
次に訪れたのはJASMです。先述した通り、世界最大の半導体製造ファウンドリ「TSMC」が日本で事業を行うために設立した子会社であり、前工程における受託製造を担っているメーカーです。
JASMでは社内見学ツアー(工場除く)や説明会などが行われました。見学ツアーで特に注目を浴びたと思われるのは、とても広い食堂。充実したメニューが提供されていました。
また、説明会では採用担当の方からJASMの事業や社風などについてお話しされました。JASMは日本で需要が高いノードの半導体製造に対応できるよう注力されているとのこと。日本での事業を目的に設立されたJASMだからこそと言えます。
そんなJASMは2021年設立であり、現在3年目の会社です。働いている社員の方々の国籍やバックグラウンドも様々で、今まさに“社風”や“文化”をつくろうとしている段階でした。最後の質問コーナーでは社風を含め、英語を使う場面があるのか、福利厚生についてなど、半導体の専門的な事柄よりも、JASMでの働き方について問われる場面が多かったです。
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翌日、最後の訪問先となる堀場エステック 阿蘇工場で会社説明や工場見学に加え、実際の製品を用いた実習などが行われました。
堀場エステックは、主に半導体製造装置に搭載する製品を提供している企業です。半導体製造プロセスに欠かせない、流体の流量を正確に計測して制御する「マスフローコントローラ」という製品が事業の大きな柱であり、その世界シェアは約60%(堀場エステック調べ)とトップを誇ります。
また、本社が京都市にある堀場エステックは、舞鶴市にほど近い福知山市に研究開発拠点「京都福知山テクノロジーセンター」があります。今回参加した学生も3年生のときにテクノロジーセンターを訪問しました。舞鶴高専と堀場エステックの関係値は深く、全体社員の約2%が舞鶴高専の卒業生で、阿蘇工場の工場長(執行役員)も舞鶴高専ご出身だそうです。
当日はクリーンルームにおけるマスフローコントローラの製造工程をガラス越しで見学したほか、マスフローコントローラやその模型を見ながらの質疑応答などが活発に行われました。
マスフローコントローラがゴミの少ないクリーンルームで組み立てられているのは、半導体チップは非常に細い配線をシリコン基板上につくる必要があり、その配線上に小さなゴミが付着すると不良品になるからです。
また、使用している塩素ガスなどが大気中の水分と反応することでゴミが発生することがあるため、ゴミの無いクリーンルームで生産し、マスフローコントローラを構成するパーツもガスが接する面は鏡の様にステンレスを磨きあげた処理を行います。精密さが求められる半導体製造だからこその特徴と言えます。
堀場エステックではこのように繊細な条件下での製品製造が行われていますが、その製造に必要な機械も自社で設計・開発されているそうです。そういった点で、製造・設計・開発と、幅広い業務に携わることができるチャンスがあると言えます。福知山にあるテクノロジーセンターは2025年に拡張されるとのことで、舞鶴高専生にとっても興味深い見学になったと考えられます。
半導体製造装置企業、JASM、堀場エステックなど、半導体に関わる企業にはさまざまな形態があることが、今回の見学ツアーで感じられました。九州大学の取り組みも含め、今後の自身の進路や業種などを考えるきっかけになったのではないでしょうか。
なお、本ツアーへの同行取材は、舞鶴高専の清原修二先生(電子制御工学科 准教授)のほか、訪問企業や九州大学のみなさまにご協力いただき、実現に至りました。誠にありがとうございました。
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