弓削商船高専を卒業後、筑波大学に進学し、現在は同大学院で研究を続けられている中神 悠太さん。自身を「負けず嫌い」と表現する中神さんは、高専時代からさまざまなことに挑戦し、結果を残されてきました。そんな中神さんに、高専時代の思い出や、研究のお話、今後の展望を伺いました。
負けず嫌いな性格に火が付いた高専時代
―中神さんが弓削商船高専に進学されたきっかけを教えてください。
中学2年生の時に学校から配布された松江高専のチラシがきっかけで高専を知りました。中学1年生の時にロボカップジュニアの体験会で、「ロボットを使ってサッカーをする」経験をして以降、ロボット系の進路を考えていた私にとっては天国のような場所だと思えたんです。
その後、地元を中心に高専のオープンキャンパスに参加し、最終的に弓削商船高専への進学を決めました。理由は、オープンキャンパスで行っていたマイコン部のプレゼンです。瀬尾部長のプレゼンがとてもハキハキとしていて分かりやすく、そして開発されていたジョギングアプリのシステムに感動し、「この部活に入って活躍したい!」と思いましたね。
―実際に弓削商船高専に進学されてみて、いかがでしたか。
田房友典先生のプログラミングの授業が印象に残っています。授業の自由課題で、私は音楽に合わせて蜂を退治する音楽ゲームをつくり、制作期間1カ月ほどで、いろいろな音楽を選択できるよう工夫しました。
結果、高評価をいただくことができて、嬉しかったです。「クラスで一番すごいものをつくるぞ!」と意気込んでいたので、「一発かましてやったぜ!」と思いました(笑) このゲームは学校紹介イベントでも取り上げていただきました。
でも、私は最初から成績が良かったわけではなく、1年生後期の中間テストで数学の赤点を取りかけたんです。この経験がショックすぎて、その後必死で勉強して、何とか3年生前期の期末テストで初めて1位を取れました。
とことん自分で演習を繰り返したことと、寮で人に教えていたことが成績アップにつながりました。2年生になって初めてのテストでは実力が付いたことを実感できたので、この経験は人生のターニングポイントでしたね。
また、牧山隆洋先生との出会いがとても印象に残っています。牧山先生は物理の先生で、1年生の頃から授業を受けていました。ある日、私がプログラミング好きであることを牧山先生に話すと、「津波の様子をシミュレーションできるプログラムがあるけど興味ある?」と、話をもちかけていただきました。
その話がとても面白いと感じた私は「興味があります」と答え、先生からプログラムを共有していただきました。私はそのプログラムを基にして新しくJavaで津波シミュレーションソフトウェアを開発。牧山先生はそのソフトウェアをとても評価してくださり、学習デジタル教材コンクールに応募する流れになりました。
結果としてコンクールでは賞をいただくことができ、牧山先生の得意な物理・教育分野と私の得意なIT分野を掛け合わせた活動を開始しました。牧山先生との交流は今でも続いており、牧山先生との出会いも私を構成する大きな要素です。「アイデアを掛け合わせて新しいものをつくる」ことは牧山先生から学びました。
―高専時代はマイコン部に所属したのですか。
入学前に決めていた通り、マイコン部に所属しました。マイコン部は、毎年秋に開催されるプロコンへの参加を主軸に置いています。私は高専に入学するまでプログラミング経験がありませんでしたが、長尾和彦先生や先輩方からの指導のおかげで、プロコンに参加するためのプログラミング力をつけることができました。
また、マイコン部に一緒に入った同級生との切磋琢磨も忘れられない経験です。実をいうと、プロコンで私が活躍できたことは少なく、編入学へ向けた受験勉強のために3年で退部してしまったんです。あまりマイコン部に貢献することはできませんでしたが、マイコン部での3年間は私を構成する大きなものとなりました。
「ライフジャケット×漁船」で乗組員の安全性を高める
―卒業研究はどのようなことをされたのですか。
弓削商船高専は周りを海に囲まれた、全国でも珍しい立地にある高専です。そのため、先生方は長らく「離島工学」という研究課題に取り組んでおり、私も離島ならではのテーマである漁船搭乗者の安全管理に取り組もうと、「ライフジャケット着用をインテリジェントキーとするLPWA(※)による漁船管理システムの開発」を研究テーマにしました。簡単に言うと、「ライフジャケットも着ないと漁船のエンジンがかからない仕組みをつくること」です。
※「Low Power Wide Area」の略。省電力かつ広域・長距離での通信が可能な無線通信技術のこと。
一番苦労したのは「どうやってライフジャケットの着用判定をするか」でした。試行錯誤の上、「ライフジャケットを着ていないと絶対にできない動き」をしてもらうことで、着用判定をするようなシステムをつくり上げましたね。
この研究は高専ワイヤレスIoTコンテスト(現:高専ワイヤレステックコンテスト)に採択され、様々な方の支援を受けて研究活動に取り組むことができました。最終的にはライフジャケットと漁船の組み合わせによって漁船搭乗者の安全を確保するシステムを完成させることができました。
また、この研究活動はビジネス的にも評価され、四国ビジネスデザイン発見&発表会ではグランプリを、同全国大会ではナイスアイデア賞をいただきました。
―進路を決める際に、大学編入を選ばれた理由を教えてください。
きっかけは、プロコンに参加したことで繋がった他高専の先輩方の活動をSNS経由で知ったことです。先輩方が楽しんで活動している姿を見て、自分もそうなりたいと思い、編入学を目指すようになりました。あと、純粋に都会に出たかったんです(笑)
筑波大学を選んだ理由は、高専生を多く受け入れていて、かつ魅力的な授業が多くあったことです。また、好きな分野であるプログラミング言語に関する研究室が存在したことも理由の1つです。
プログラマーの三大欲求として「自作CPU・自作OS・自作コンパイラ」が挙げられているのですが、大学の自由課題ではそれに挑戦しました。ほぼ泊まり込みで熱量をかけてつくり、実際に動いたときは「やっとここまで来たな」という感動もありました。プログラミングの世界は、上を見るとキリがないほど能力の高い人がいるので、自分に集中して能力を高めていきたいですね。
できるかどうか度外視にして、まずは「妄想」
―現在の研究を教えてください。
大学入学から現在まで中井先生の研究室で、プログラミング言語、特にDSL(=ドメイン特化言語)に関する研究に取り組んでいます。
簡単に説明すると、「みんなが好きなプログラミング言語で開発したい」という理念があって、そのためにコンパイラをもっと楽につくれるよう研究しました。みんなが好きな言語を選択できるように、組み合わせられるソフトウェアと、対応する言語をたくさんつくるようなイメージです。大学の研究は学術論文としてまとめることが一つの目標でもあるので、論文として認めてもらうための調査や裏付けに苦労しましたね。
中井先生の口癖のひとつに「妄想」があるんです。「できるかどうか度外視にして、まず妄想してみなさい」という中井先生のお言葉は、今の研究の起点になっています。
私の妄想は「文章を書いたときに間違いを指摘してくれる人」です。コンパイラをつくる際は作り手の経験則に頼っているところが大きかったのですが、それを「経験則ではなく論理的に指摘してほしい」と妄想を始めて、最終的には「文法の誤りを指摘してくれるプログラミング研究」につながりました。
今後の大きな目標は、博士後期課程へ進学して博士号を取得することです。高専、大学を経たこれまでの私の学習および研究活動の大きな区切りとして博士号を取得したいと考えています。また、これまで私に関わってくださった多くの方々や組織への恩返しとして、私の研究を通して社会に貢献することができれば嬉しいです。
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
大学・大学院への進学は、高専での学びや経験を何倍にもできる大きなステップとなります。編入試験の難易度は高いですが、それを乗り越えることで得られる学びや経験は、自身のキャリア形成において非常に有益です。大学では高専で学んだ内容を基礎としてより高度な理論を学び、研究活動に積極的に取り組む機会が増えます。さらに、大学院では特定分野での研究を深めることが可能です。
もし少しでも迷っているのなら、ぜひ大学編入に挑戦してみてください。もしかすると、同級生で編入に挑戦する人が少なかったり、学力に自信が無かったりと不安に思うこともあるかもしれません。でも安心してください。高専からの編入に関する情報や体験ブログはインターネット上に多く公開されています。勉強方法や試験対策についても多くの情報が公開されています。SNSなどで仲間を増やすこともできます。
実は、私が編入試験に挑戦した当時、同期で編入試験に挑戦したのは数人ほどで、心細い思いをすることも多かったです。それでも、インターネット上で情報を収集したりSNSで仲間を探したりすることで試験を突破することができました。編入試験のための努力で無駄なものはありません。少しでも興味があるのなら挑戦してみましょう!
中神 悠太氏
Yuta Nakagami
- 筑波大学 理工情報生命学術院 システム情報工学研究群 情報理工学位プログラム 修士1年
2022年3月 弓削商船高等専門学校 情報工学科 卒業
2024年3月 筑波大学 情報学群 情報メディア創成学類 卒業
2024年4月 筑波大学 理工情報生命学術院 システム情報工学研究群 情報理工学位プログラム 入学
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