松江高専を卒業後、大阪大学に進まれ、今は母校の電子制御工学科で講師を務められている中西大輔先生。高専時代の足の怪我がきっかけで、今の研究にたどり着いたそうです。そんな中西先生に高専時代の思い出や、研究のお話を伺いました。
出身は電子制御工学科ではなく、機械工学科
―中西先生が松江高専に進学されたきっかけを教えてください。
実家が松江高専の近くなので、高専の存在は知っていました。入学する前はロボコンの印象が強かったですね。中学3年生のときに、松江高専のロボコン部が良い成績を残されていて、地元の市立体育館まで見に行った記憶があります。
もともと普通科に進学しようかなと思っていたんですが、野球部の友達が高専に誘ってくれたので、進学することにしました。ゆくゆくはモノづくりに関する業界に行くのかなという漠然としたイメージでしたね。
―松江高専に進学されてみて、いかがでしたか。
今は電子制御工学科で講師をしていますが、学生のときに所属していたのは機械工学科でした。当時、電子制御工学科と機械工学科で悩んだのですが、機械工学科の方が堅実なイメージがあり(笑)、将来安泰かなと思ったんです。
印象深い授業の1つとしては、1年生の最初の専門授業で、ケント紙を好きな形に加工して、中に生卵を入れて、4階から落とすという実験がありました。要は生卵を割れないように加工をしなければならないんですが、母に手伝ってもらって、家でいろいろと挑戦した記憶がありますね。
本番では、ミシンで使うボビンのような形に加工して、円筒部分に生卵を入れて落としました。高速回転しながら落ちましたが、生卵自体は割れなかったです。
-高専生のときも、野球をされたのですか。
先ほどお話しした高専に誘ってくれた友達と一緒に野球部に入りました。副キャプテンでキャッチャーでしたね。2年生以降、友達含め部員が何人か辞めてしまい、めちゃくちゃショックでしたね(笑)
その後、3年生のときに肉離れを起こしてしまって、夏の大会でもギチギチにさらしを巻いて試合に出ました。それでも、1点差を追いかける9回表に、センター前ヒットを打つことが出来たのですが、一生懸命走ったせいで、また肉離れを起こしてしまって……
代走に入ったのが、名前がそっくりな中大輔くんで、勝ち越すことができたのですが、結局9回裏にサヨナラ負けをしてしまいました。強いチームではなかったですが、いろいろと思い出がありますね。
恩師に褒められ嬉しかった、歯車の卒業研究
-卒業研究はどのようなことをされたのですか。
郡原宏先生の研究室で「円形内歯車の設計」の研究をしました。内歯車とはリング状の内側にギザギザが付いていて、それが接触する部分のことをいうのですが、円形ではなく楕円形の歯車の研究をしたんです。設計をして、ワイヤ放電加工機で歯車をつくって、実際に回るのかを試しました。
歯車が円形じゃないと、回る軸のスピードが一定ではないんですよね。ウィーンウィーンと波打つように回るんですが、速度が計算通りにつくれていれば成功でした。郡原先生に参考書をわたされて、サンプルがあるわけでもなく、プログラミングも一からだったのですごく大変だったんですが、自分で設計したものが実際に形になっていくのは感慨深かったですね。
実は完成品を郡原先生にすごく評価していただいたんですよ。今でも松江高専で顔を合わせますが、自分が卒研でつくった歯車を郡原先生はまだ持ってくださっているらしくて。普通は学期末に整理したりするものですから、それを知ったときは嬉しかったです。
―その後、大阪大学に進学されているんですね。
中学時代から足を怪我することが多く、それとなく歩行ロボットや筋骨格ロボットに興味を持つようになりました。大阪大学の細田耕先生が空気圧人工筋肉を用いたロボットに関する研究をされていたので、当初は阪大に編入して細田研で研究しようと考えていたんです。ただ、ちょうど編入するタイミングで入れ替わる様に細田先生の所属が変わってしまい、それは叶いませんでした。
一方で、ちょうど神戸大学から阪大へ来られた大須賀公一先生の研究室への配属が叶いました。大学4年生のころは受動的動歩行に関する研究をしていましたが、大須賀研で過去に空圧筋を用いたロボットに関する研究を行っていたことを知り、残された資料や資材を漁って、「空圧筋骨格ロボットに関する研究」を大学院から始めました。この研究は現在まで取り組んでいます。
研究している際に、空気圧人工筋肉を用いた筋骨格系の安定性に関する数理的解析をするですが、空気圧人工筋肉が壊れることがあるんですよ。モーターのように売っているわけではないので、メーカーさんにつくってもらおうとしたのですが、「金型を破棄したので、つくってほしければ何百万かかる」と言われてしまって。それは無理だと思い、自分でつくることにしました。
とはいえノウハウがないので、いろいろな先生に聞いて回ったり、学会や懇親会に参加したりして情報を集めました。シミュレーションでは結果を突き合わせたいので、個体差があるとすごく困るんですよ。どうやったら同じ品質のものが安定してつくれるかが大変でした。シリコンで型を取って、一度にまとめて同じ形のものができるように工夫しましたね。
一人ひとりとのコミュニケーションを大切にしている
―現在は母校で働かれていらっしゃいます。
現在も松江高専で空気圧人工筋肉を使ったロボットに関する研究を続けています。筋肉って必ず2つ以上必要で、伸びる筋肉と縮む筋肉を足並み揃えて運動させないと歩行が出来ないんです。それがどういうメカニズムで自律しているのかについて研究を続けています。
ロボットが複雑になってきてたくさん筋肉がついてくると、たくさんの筋肉に対して「この筋肉はこのタイミングでこういうふうに縮んで」と全部設計するのは相当無理な話です(笑)
でも、実際私たちって歩行のときに筋肉の動きを指示しているわけではないじゃないですか。その自律パターンを解明して、将来的には「歩け、走れ」といった指示に応じて、四肢や各筋肉の動かし方をロボットが自分で考えられる制御へ発展させていきたいと考えています。
―研究室での工夫はありますか。
教育方針としては、1人1テーマを与えて、自主性を大事にしています。手助けや助言はもちろんしますが、基本的には進め方などは自分で考えてもらっているんです。私が準備した10テーマぐらいから学生に選んでもらっていまして、興味を持ったテーマに取り組んでもらえるよう工夫しているつもりですね。
また、高専生なので、実際に手を動かして、なるべくモノをつくってもらうようにしています。そのために3Dプリンターや簡単な工作機械などは充実させているつもりです。先日、研究室内発表があったのですが、夏休みの間にそれぞれ自主的に研究を進めていて、嬉しく思ったところです。研究結果を取りまとめるのは簡単なことではないので、自主的に頑張れているなと思いました。
―野球部の顧問もされていらっしゃるんですね。
部員が11人と少ないのですが、一丸となってまず1勝できるように頑張っています。部員一人ひとりの性格や特徴を把握しないと、レギュラーや打順を決められないので、なるべく頻繁にグラウンドに出て、コミュニケーションを取っています。実践的な練習をするときには人数不足を補うために守備に入ることもあります。
暑いし練習もきついのですが、自分もやっている姿を見せることで、学生と一緒に頑張っていきたいですね。口だけの指示では絶対にモチベーションが下がると思うので、チーム全体で練習して、勝ちに行きたいです。
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
学生生活を振り返ると、結構いろいろとやってきたんですよね。だからめちゃめちゃ忙しかったですけど、充実していたなと本当に思います。
高専生には、いろいろなことに首を突っ込んで、いろいろなことを経験して、一生懸命やってもらいたいです。勉強や部活だけではなく、行事もたくさんありますし、外に目を向けてもいいと思います。5年間は長いとよく聞きますが、実際はそんなに長くないんですよ。
できない理由は正直いくらでもつくれますが、自分で限界を決めないでもらいたいなと思います。工夫すれば絶対できますし、本当に自由に何でもできる環境なので、それを生かして、充実した学校生活を送ってください。
中西 大輔氏
Daisuke Nakanishi
- 松江工業高等専門学校 電子制御工学科 講師
2010年3月 松江工業高等専門学校 機械工学科 卒業
2012年3月 大阪大学 工学部 応用理工学科 卒業
2014年3月 大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 博士前期課程 修了
2017年3月 大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程 修了
2017年4月 松江工業高等専門学校 電子制御工学科 助教
2022年4月より現職
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