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高校で選ばなかった「生物」を研究へ。蛋白質研究を軸に“学び続ける研究室”を育てる

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小山高専の物質工学科で「蛋白質科学研究室」を主宰する早乙女友規先生。生命工学との出会いや国際色豊かな研究室での経験、そして高専教員として研究室を立ち上げられた現在に至るまで、その歩みは一貫して「幅広く学び、考え続ける」姿勢に貫かれています。蛋白質研究を軸に、研究と教育の両立、高専ならではの課題、学生への思いを率直に語っていただきました。

受験の先に見えた「幅広く学ぶ」進路

―まずは、大学進学を考え始めた頃のことから教えてください。

高校では理系の受験科目として物理と化学を選択していました。これは物理・化学での受験者が多く、受験ノウハウが確立されているという、かなり現実的な理由からです。周りを見ても、大学進学を目指す同級生の多くが物理・化学を選んでいましたし、予備校の教材や情報量も圧倒的に多い。だからといって、物理や化学そのものに強いこだわりがあったわけではなかった、というのが正直なところです。

一方で、生物は履修していなかったものの、面白そうだなとずっと思っていました。生物選択の友人から発生や細胞培養の話を聞いて、なんとなく楽しそうだなと思っていたんです。ただ、生物は選択者が少なく、相談できる相手が少ないというイメージもあって、結局は受験の有利不利だけで科目を選んでしまいました。

―その後、東京農工大学の生命工学科へ進学されていますが、決め手は何だったのでしょうか。

受験勉強をしている最中も、正直なところ物理や化学にのめり込めていたわけではありませんでした。成績も学校の中で飛び抜けて良いわけではなく、「自分は何のために勉強しているんだろう」と考えることも多かったです。そんなときに偶然目にしたのが、東京農工大学 生命工学科のパンフレットでした。読んでみると、「物理・化学・生物を全部やっていい」というカリキュラムに惹かれました。

自分は一つの分野を120点まで突き詰めるタイプではなく、80点をいくつも積み重ねるような総合力型だと思っていたので、幅広く学べる環境のほうが性格に合っている気がしたんです。ただ、当時はそこまで明確に言語化できていたわけではなく、今になって振り返るとそうだったのかな、という整理ですね。

―実際に入学してみて、その考えは当たっていましたか。

半分は当たっていて、半分は予想と違っていました。生物系の科目は本当に充実していて、細胞生物学や分子生物学といった基礎から、再生医療、マリンバイオといった応用的な内容まで幅広く学べました。高校では触れることのない融合分野の科目も多く、「自分が学びたかったのはこういうことだったんだな」と感じたのを覚えています。

一方で、想像以上に生物の比重が大きかったのは誤算でした。私は生物未履修の状態で入学したので、DNAの複製や細胞の基本的な仕組みなどを一から学ぶ必要がありました。私が入学した2011年は東日本大震災の影響で後期試験が中止になり、キャンパスに一度も入構したことがないまま進学することになるなど、色々とイレギュラーな中での大学生活のスタートでした。

―学部3年に黒田裕先生の研究室に配属されていますが、何がきっかけだったのでしょうか。

研究内容そのもの以上に、研究室の雰囲気が大きかったですね。研究室は実験班と計算班に別れていたのですが、見学に行ったとき、計算班の先輩たちがすごく楽しそうに議論しているのを見て、「自分には合っていそうだな」と感じました。自分は指示待ちで動くよりも、ある程度自由に考えさせてもらえる環境のほうが向いていると思っていたので、そこが魅力でした。

▲黒田研究室での集合写真。黒田先生(写真中央)と大学生時代の早乙女先生(右端)

実際に入ってみると、学生の自主性を重んじる研究室でした。結果として私は実験班に入ることになりましたが、実験班には留学生が多く、インドやバングラデシュ、中国、フランスなど、本当に国際色豊かでしたね。よくラボのパーティーで本場のカレーを食べさせてもらったのを覚えています。

▲黒田研究室ラボパーティーでのメニュー。カレー・タンドリーチキン・ガパオライスなど、本場のスパイシーな料理が多く並んでいます
▲黒田研究室に在籍していた頃、ご自身もフランス南部の街・モンペリエに留学しました

蛋白質研究で拓く高専教育の現場

―黒田研究室では、どのような研究をされていたのですか。

蛋白質科学、特に「蛋白質凝集」という物理化学現象をテーマに研究していました。蛋白質は生命活動の主役ともいえる分子ですが、条件によっては集まって固まりやすく、それが病気や薬の効きに影響を与えることがあります。私は実験班に所属し、大腸菌を培養して組み換え蛋白質をつくり、その熱安定性や溶解性を評価する実験を行っていました。

―その研究の中で、長岡技術科学大学とのご縁も生まれたのですね。

はい。学部4年のとき、蛋白質の熱安定性を正確に測るために、示差走査熱量計(DSC)という装置がどうしても必要になりました。DSCは蛋白質が熱で変性する際のエネルギー変化を測定できる装置で、非常に高価です。当時の黒田研究室にはなかったため、長岡技術科学大学の城所俊一先生の研究室に2週間ほど出張させてもらいました。

そこで実際にDSCを使い、データ解析まで直接教えていただいた経験は、その後の研究人生を大きく左右しました。博士課程修了後、長岡技科大で助教として着任し、城所先生と一緒に研究を進めることができたのも、このときのご縁があったからです。

―現在の研究内容について教えてください。

現在は「蛋白質科学研究室」を立ち上げ、蛋白質凝集に焦点を当てた研究を行っています。具体的には、デングウイルスやコロナウイルス、インフルエンザウイルスなどの外殻を構成する抗原蛋白質を大腸菌でつくり、その物性を評価しています。熱や撹拌、凍結融解といったストレスを与えたときに、蛋白質が凝集しないかを調べることで、バイオ医薬品の品質評価を簡易的に再現する研究です。

蛋白質が凝集すると、薬の効果が落ちるだけでなく、体内で不要な免疫反応を引き起こす可能性もあります。そのため、いかに凝集を防ぐかは重要な課題です。黒田研究室で培った物理化学的な視点と、長岡技科大で学んだDSC(示差走査熱量計)による評価手法を組み合わせ、高専という環境でできる範囲の研究に落とし込んでいます。

DSCは蛋白質の熱安定性を定量的に評価するための熱測定装置で、セル内部の温度を徐々に上げることで蛋白質の構造転移を吸熱ピークとして観測します。そのためバイオ医薬品の品質管理において重要なツールの一つになります。

▲早乙女先生が使用しているDSC装置

―高専で研究室を運営する難しさはどのような点にありますか。

高専が大学と大きく違うのはマンパワーですね。高専では、配属される学生は主に4年生で、年齢的には大学1年生に相当します。実験に慣れるまで半年ほどかかり、慣れた頃には卒業が近づいている、という状況になりがちです。専攻科に進学する学生が少ないため、技術や知識の継承が難しいという課題もあります。

そのため、実験プロトコルをできるだけ文書化し、Teamsで共有しています。口頭だけで教えると、伝言ゲームのように内容がずれてしまうので、この形式を取っています。現在、プロトコルは合計で150ページほどになりました。学生にとっては放任に感じるかもしれませんが、自分で考える力を身につけてほしいという思いもあります。

▲小山高専 物質工学科の先生方による早乙女先生の歓迎会にて。とても親切で、温かく歓迎してもらったそうです

―学生とのかかわりで大切にしていることを教えてください。

高専の主役は学生なので、まずは授業の質を保つことを大切にしています。そのうえで、学生が安心して勉強に集中できる環境を整えることも重要だと考えています。特に気になっているのは、SNSをきっかけとした人間関係のトラブルです。オーストラリアでは16歳未満のSNSが禁止されるなど、SNSによる悪影響が世界的に懸念されるようになってきたので、高専生にはあまりのめり込んでほしくないのが本音です。

高専は高校と大学の中間に位置するような教育機関で、学力面でも生活面でも手厚くサポートされます。その環境に慣れすぎると、大学編入や社会に出たときにギャップを感じることもあります。だからこそ、勉強だけでなく、他者との関わり方や線引きの大切さも、少しずつ伝えていきたいと思っています。

▲早乙女先生が担任を務める物質工学科3年の学生たちが、サプライズでクリスマスのお祝い

―これからの研究室やご自身の目標について教えてください。

研究室としては、まずは継続的に成果を出せる体制を整えることが目標です。学会での発表や論文執筆も続けていきたいですし、学生が「ここで研究してよかった」と思える経験を積み重ねてほしいと思っています。そのためにも、医療系だけでなく、学生が興味を持ちやすいテーマにも挑戦しています。

自分自身としては、まだ高専教員2年目で、試行錯誤の連続です。数年後に振り返って「このやり方でよかった」と言えるかどうかは分かりませんが、必要に応じて柔軟に変わり続けたいと思っています。蛋白質を軸に、社会や学生とどう関われるかを考えながら、これからも模索していきたいですね。

早乙女 友規
Tomonori Saotome

  • 小山工業高等専門学校 物質工学科 助教

早乙女 友規氏の写真

2011年3月 私立駒場東邦高等学校 卒業
2015年4月 東京農工大学 生命工学科 卒業
2016年9月 東京農工大学大学院 工学府 生命工学専攻 博士前期課程 修了
2019年9月 東京農工大学大学院 工学府 生命工学専攻 博士後期課程 修了
2019年10月 東京農工大学 グローバルイノベーション研究院 特任助教
2020年12月 長岡技術科学大学 生物機能工学専攻 助教
2022年4月 長岡技術科学大学 物質生物系 助教
2024年4月より現職

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