
北海道電力株式会社の大井俊志さんは、苫小牧高専で土木を学び、現在は発注者の立場からインフラ整備に幅広く携わっています。採用・教育業務で活躍されている大井さんに、高専での学びと現在の仕事、そして若い世代への想いを語っていただきました。
土木の道を照らした高専との出会い
―高専の中でも土木分野を専攻されたきっかけを教えてください。
父が防衛省に勤めており、自衛隊設備の建設や維持管理といった土木建築系の仕事をしていたことが大きなきっかけでした。格好よく言うならば父の背中に憧れて——となるのですが、実際には「技術的な仕事がしたい」と漠然と思い描いていた中で、自然と土木の道へと関心が向いていったのが本当のところです。

最終的には、オープンキャンパスで出会った土木学科の先輩たちの、生き生きとした楽しそうな様子が決め手となりましたね。
―高専での授業はいかがでしたか。
専門科目の先生方は本当に個性的な方が多く、授業自体は難しかったものの、日々刺激を受けていました。また、民間出身の先生が多く、リアルな業界の話を聞けたことも大きな財産です。5年間を通して多様なお話を伺いながら「土木の中でも何がしたいのか」を少しずつ明確にできました。
―高専での寮生活はいかがでしたか。
今はわかりませんが、当時はかなり厳しい寮でした(笑) 本科1~2年生のころは、自律心や社会性を養うために毎日規則正しい生活を送れるようになっていまして、決められた時間に起きて点呼を取って、先輩方に挨拶して……といったように、食事も勉強もお風呂も全て時間が決められていました。ですが、そんな厳しい中でも、一緒に暮らしていく仲間たちと絆が深められ、楽しい日々でした。
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一番良かったのは交友関係が広がったことですね。寮生活でなければ、同学年間の交友関係しかなかったと思うのですが、上4つ、下4つまで広く関係を持てたところは寮のとてもいいところでした。卒業した今でも、先輩や後輩とは時々会っていますし、道外出張に行ったときは声をかけて食事などに行くようにしています。
―インターンシップも経験されたそうですね。
建設会社のインターンシップに参加しました。理由としては、父が発注者側の仕事をしていたので、それを受ける請負側の仕事を実際に体験し、現場の話を聞いてみたいと思ったからです。
実際に経験してみると、建設会社の大変さを知りました。また、社会に出てからではありますが、発注側が請負側の業務を理解しているだけでも、仕事全体への理解が深まることを実感しました。
こういった経験から、インターンシップには必ず参加してほしいと思います。必修のところもあればそうではないところもあるようですが、チャンスがあるならぜひ見に行ってみてください。
仲間と乗り越えた研究の日々
―卒業研究はどんなことをされたのでしょうか。
具体的に言うと「洋上浮体型波力発電に関わる浮体の安定性」についての研究です。あまり聞き慣れないテーマかもしれませんが、波の力を空気の力に変えるための装置が、海の上でどれだけ安定して浮いていられるか、ということを研究していました。
元々「人の役に立つ研究がしたい」という思いがあって、より現実的な課題に取り組める応用研究を希望していました。基礎研究ももちろん大事なのですが、性状や物性を調べるよりも、もう少し社会に近いテーマがいいなと思っていたんです。
当時、土木系の研究室はいくつかあったのですが、電気の要素を扱っていたのは私の入った研究室だけでした。土木分野で電気の研究をするのは珍しく、それも面白そうだと感じたんです。人の暮らしに役立ちそうですし、何より自分がやってみたいと思えるテーマだったので、この研究を選びました。
―研究で苦労したことはありますか。
多々ありました。元々この研究は、室蘭工業大学の機械系の先生からお誘いを受けて共同で始めたもので、私たちの代が初年度でした。そのため先輩もおらず、先生と学生が一緒になって相談しながら試行錯誤の日々を過ごしました。
ただ、複数人で研究に取り組んでいたこともあり、意見を出し合って支え合いながら、なんとか乗り越えることができたと思います。実験を繰り返し、徐々に良くなっていく過程は見ていて嬉しかったですね。
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設備の一生に関わることができる誇りと責任
―就職先として北海道電力を選んだ理由は何ですか。
在学中に土木系の幅広い勉強をしていく中で、社会インフラに興味を持ち始めました。そこから「電力」という分野が「より多くの人に寄与できる仕事がしたい」という自分の想いに直結していると感じ、北海道電力を視野に入れ始めたのです。調べていくと、扱う業務はどれも面白そうで、仕事を通して幅広い知識を得たいと考えていた自分にピッタリだと思い、迷わずエントリーしました。
また、在学中にお世話になっていた先生の後輩が北海道電力の現建設所長でして、先生から実際の業務内容などを詳しく教えてもらいました。卒業生のつながりが強いのも、高専の良さだと思います。
弊社の土木部門は様々な業務を担える、というのが楽しいところです。コンサルタント会社でしたら調査設計が仕事の中心ですし、ゼネコンや建設会社はつくる仕事がメインかと思います。しかし、弊社は計画から建設、維持管理までの全てに関われるんです。土木技術者として、幅広い仕事ができる点が特に魅力だと感じています。
―現在のお仕事について教えてください。
今は採用と教育業務をしています。事前にいろいろ調べていたこともあって、入社後に大きなギャップはなかったのですが、これまで本当に様々な仕事を担当してきました。入社したときは水力関係の業務につき、その後、火力関係の業務などを経て、今のポジションに至る、という感じですね。

ちなみに弊社はジョブローテーションを採用しており、幅広いキャリア形成が可能です。私自身、仕事内容もガラッと変わるので飽きが来ず、常に新鮮な気持ちで取り組めています。
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現在は採用担当ですので、合同企業セミナーや説明会に参加していただいた学生にエントリーしていただき、入社につながったときがとても嬉しいです。入社した学生たちを後悔させたくないので、教育プログラムにも力を入れ、工夫を凝らしています。採用と教育は会社の根幹として大変大事なことですし、そういった意味でもやりがいのある業務だと思っています。

―若手社員と接する時に心がけていることはありますか。
普段の声かけが大事だと思います。雑談も含めて「一人にさせない」ということを常に意識していますね。コロナの影響で学生時代は各自リモート授業を受けることが多かった方たちがいきなり集団の中で生活することになるので、いろいろな悩みがあると思うんです。でも、自らアクションを起こすのには勇気がいるでしょう。ですので、日々声をかけて雑談しながら関わることを考えています。

―高専への進学を迷っている学生にメッセージをお願いします。
今は一年目で幅広い分野の基礎を学ぶことができる高専が増えてきています。高専の中にどのような分野があるのかを知り、適性を見極める期間があるんですよね。学びたいことが見つかっていなくても、どういう分野に進みたいのかを1年間の学習を通して決めることができます※。
※例えば苫小牧高専の場合、入学時には専門(系)を決めず、混合学級として各専門(系)の内容を1年間かけて知り、希望調査と1年生での成績をもとに2年生以降の配属を決めています。
さらにその後は、専門的な分野を4年間かけてじっくり学ぶことができ、知識や技術を着実に深められる環境が整っています。技術的な分野に興味があるなら、ぜひチャレンジしてほしいですね。
―では、現在高専に通っている学生へメッセージはありますか。
一番伝えたいことは、授業で配布されたプリントや板書したノートは取っておいてほしいということです。先生が丁寧に教えてくれた途中式などは、市販の参考書だと省かれているので、それを書き写したノートはなによりもわかりやすい参考書になっています。私はそれを後輩に譲ってしまい後悔しました(笑) 「当時のノートがあれば、仕事ももっとスムーズに進められたのに……」と、働き出してから痛感したので、皆さんにはぜひ大切に保管しておいてほしいです。
また、進路に迷っている方もいらっしゃると思います。5年間で方向性が見つからなかった場合は、さらに進学して、もう少し時間をかけて考えてみるのも一つの選択肢です。深く研究する中で、将来の道が見えてくることもあると思うので、迷ったときには一歩踏み出してみてください。
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社会において高専卒は即戦力だと思います。基礎力の高さをすごく感じますし、なにより問題への「考え方」をしっかり理解している学生が多いです。コミュニケーション能力も十分高いので、それも含めて即戦力だと考えています。ぜひ、自信をもって社会に飛び出してください。
大井 俊志氏
Takashi Ooi
- 北海道電力株式会社 土木部 土木企画グループ 主任

2011年3月 苫小牧工業高等専門学校 環境都市工学科(現:創造工学科 都市・環境系) 卒業
2011年4月 北海道電力株式会社 入社
苫小牧工業高等専門学校の記事



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