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前代未聞のキャンピングカーづくり。「呉キャン」の熱意が形になった“秘密基地”の全貌を明かす!

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前代未聞のキャンピングカーづくり。「呉キャン」の熱意が形になった“秘密基地”の全貌を明かす!のサムネイル画像

呉高専に在学中の林 聖和(まさかず)さん。幼少期の感動が原体験となり、キャンピングカーをつくるプロジェクトを高専で立ち上げました。数多くの方々の協力のもと、現在2代目のキャンピングカーを制作中とのことです。林さんが率いる呉キャンピングカー開発チーム(通称:呉キャン)の活動と、“秘密基地”とも呼べるその車の全貌を伺いました。

5歳の時に衝撃を受けた、車の中の“秘密基地”

―林さんがキャンピングカーに出会ったきっかけを教えてください。

幼稚園の頃、キャンピングカーを持っている友達一家とよく遊んでいて、5歳のときに初めて乗せてもらいました。そこにはまるで秘密基地のような空間があり、キャンピングカーに出会うまで「車=自分が乗って移動するだけの乗り物」だと思っていた僕は、「こんな車があるのか!」と感動したんです。そこからキャンピングカーが好きになりました。

▲林さん(左から3番目)がキャンピングカーに出会ったきっかけの一台。幼馴染一家と一緒に

その後、高専で車関係のことが学べると知り、中学校1年生のときにオープンスクールを見に行きました。実は、父が呉高専を受験したことがあって、「俺が入りたかった学校なんだ」とよく話していたんです。実際に見て、「こんなに設備が揃っていて、楽しいことができる学校があるんだ」と、より入学したい気持ちが高まりましたね。

また、呉高専には「インキュベーションワーク」という、学生自らがテーマを設定し仲間を集めてモノづくりを実践できる仕組みがありました。自分の好奇心を深め、自由に挑戦できる環境があることが、最終的に呉高専を選ぶ決め手になりました。

様々な協力でつくりあげられたキャンピングカー

―高専に進学されてすぐ、キャンピングカーづくりが始まったそうですね。

1年生の時、インキュベーションワークの準備段階にあたる「プロジェクトデザイン入門」の授業で、クラスの前で「キャンピングカーをつくりたい」という話をしました。途端にクラスメイトの間にはざわめきが起こりましたね(笑) ですが、授業後すぐに「一緒にやりたい」と言ってきてくれた友人がいたんです。それが初期メンバーとなりました。

ずっと頭の片隅にキャンピングカーの存在が残っていたので、「もしかしたらつくれるかも」と希望を持ち、インキュベーションワークでプロジェクトを立ち上げました。

―キャンピングカー自体はどのようにして手に入れたのですか。

まずは車体をどうするかという話になり、インキュベーションワークを取りまとめてくださっている林和彦先生に相談したところ、呉高専と関わりの深い車屋を紹介していただき、さらにその社長さんに相談してくださったんです。そこで簡単なパワポをつくってプレゼンをしたら、「廃車になる予定の車でよければ」とお譲りいただけることになりました。本当にうれしかったです。

その話を学校に持ち帰って、まずは車の置き場所も含め学校側と議論することになり、なかなか大変だったのですが……最終的に、学校の中に草が生い茂っている空き地があり、そこの一部を屋外のものづくりの場として改修したときに、授業の教材として置くことで話がまとまりました。

車がガレージに入ったときは、本当に興奮しました。学校の先生方や車屋さんのご厚意でここまで来られたので、感謝してもしきれません。車が入ってきたときの感動は一生忘れられないですね。

▲ガレージにて、床版を切り出している様子

―キャンピングカーづくりの際にこだわった点を教えてください。

インキュベーションワークの授業時間にメンバーと集まって話をしながら、アイデアを出し合うところから始めました。現状の軽自動車のキャンピングカーだと、軽量化のためにマットレスが薄くなっていて寝心地があまりよくないので、自分たちで極厚なマットレスをつくることにしました。オーダーメイドのスポンジ屋さんからサンプルを取り寄せて、触り心地を比べながら、こだわりのマットレスづくりが始まりました。

▲サンプルを取り寄せ、触り心地や内装とのマッチを確認

まずは全体の厚みを10cmにして、5cm×2層に分けました。一層目は比較的硬いマットレスを選び、身体が底付きしにくいスポンジに。二層目は3分割マットレスにし、3ヶ所ともスポンジの種類を変えて、硬さ・弾力が全部異なったマットレスが完成しました。

それと、レザーで外側を包むところも自分たちでやりました。レザーの貼り方が分からなくて困っていた時、呉で家具屋をされている社長さんの紹介で広島の椅子張店へ伺いました。そこで、実際にレザー張り替えの技を直接伝授していただいたんです。余ったレザーまでいただき、サンプルのスポンジを使ってレザーを貼る練習をたくさんしました。

▲マットレス加工の様子。スポンジをサイズに合わせてカットし、接着剤で固定。底面に合板を敷いて、レザーをタッカ(コの字型の針金を打ち込む工具)で留めていきます

車内にはLEDのダウンライトをつけて、折り畳みテーブルを装備し、壁と天井は杉の板を使うことで、木に囲まれた温かい空間をつくりました。秘密基地のような空間を目指し、メンバーと一緒に議論を重ねたので、試作車が完成したときはとても感動しました。

▲試作車の内装

試作車の1代目は「SMALL MOBILE HOTEL」というネーミングにしました。「小型の移動式ホテル」という意味です。車のラッピングデザインを担当してくれた友人が考えてくれました。

▲試作車の外装

このラッピングは、実は僕たちの活動の様子をアップしていたインスタグラムを見ていただいた広島市の近代社さんが興味を示してくださり、無料で施工してくださったんです。もともと真っ白なボディーでしたが、ラッピングされてみると雰囲気が変わって、世界に一つのキャンピングカーになりました。

去年、展示会で幼稚園生や小学生がたくさん来てくれて、実際乗ってもらって感想を聞く機会がありました。そのときに「うちのベッドより寝心地がいい」と言ってくれた子がいて、これは本当に泣きそうになりました(笑) 自分がキャンピングカーに興味を示したのも幼稚園生の頃だったので、「こんなに面白い車があるんだ」というのを伝えられていたらうれしいです。

▲展示会にて、子どもたちが試作車の中を見学中

今後の目標は個人でレンタカー事業の立ち上げ

―その後、2代目の制作が始まっています。

1代目は自分が最初に思い描いていたような空間をそのまま形にした車だったので、実際に展示会でいろんな方に見てもらったところ、「これでは車検が通らないよね」「この装備が欲しい」と様々なご意見をいただきました。その反省を生かしながら、2代目ではもっといいものをつくろうと試行錯誤しています。

その2代目のベースになる車について、スズキのお店で相談したところ、「社用車で使っていた車で良ければ」と、中古車を案内いただきました。その金額が80万円でして、恐る恐る両親に話をして、家族で検討を重ねたところ、「そこまでやりたいんだったらチャレンジしてみたら」と了解してくれました。最終的に、車の費用は僕が出世払いをする約束にしたので、「失敗はできない」というプレッシャーはとても大きく、常に肩の上に80万円の重みを感じている状態です(笑)

―次の目標として、レンタカー事業に挑戦されるそうですね。

つくったキャンピングカーを次にどう繋げるかを考えたとき、最近はレンタカーで利用されている方が多いと知り、キャンピングカーのレンタル事業を思いついたんです。自分が体感した秘密基地のような素敵な空間を、レンタルを通してまだ乗ったことがない方に体験してほしいと思いました。

2代目の車は1泊2日の利用を想定してつくっていて、「ONE泊-car」というネーミングにしました。「1泊×わんぱくな体験をしてもらいたい」という意味です。前回から一番の変更点はマットレスで、全体の厚みを8cmにして4cm×2層に改良し、ベッドの下に収納を追加して、1泊2日の旅行でも荷物が置ける場所をつくりました。

▲「ONE泊-car」の内装。壁は一本檜を採用し、天井照明は調光・調色が可能なテープライトを取り付けました

また、今回レンタル車両のベースになっているのがスズキの「エブリイ」という車です。エブリイは視点が高いので運転がしやすく、郵便局の配達車にも選ばれています。いろんな業界から信頼されている車なので、安心して運転していただけると思います。

▲「ONE泊-car」の外装。宿泊を連想させる夜の月・木をデザインに取り入れています

ちなみに、レンタル事業は学校の運営ではなく、僕個人の運営です。今後は自分でレンタカー事業者になって、レンタカーショップをつくり、運輸局に申請をして、車両に「わ」ナンバーを付けようと思っています。学生の需要は割とあるかなと思っているので、普段は普通車をレンタカーで借りている学生さんに、ぜひ借りてもらいたいですね。

僕も免許を取ったら自分でキャンピングカーを運転して、好きな時間に寝て、好きな時間に起きて、好きなところに行く、そんな自由な車旅をしてみたいなと思っています。また、今後は学年が上がるごとに専門授業が増えていくので、頑張って理解しながら、将来は車関係の仕事に就きたいと考えています。

―キャンピングカーづくりに関わっている方々にメッセージをお願いします。

まずは「呉キャンピングカー開発チーム」(通称「呉キャン」)のみんなに感謝を伝えたいです。メンバーは今18人いるのですが、まとめるのが結構大変で、メンバーにはしょっちゅう迷惑をかけていると思います。それでもずっとついてきてくれているのは、本当にありがたいです。今は活動の仕方も少しずつ変えており、定期的にミーティングをして振り返りをしながら、次に繋げている最中です。

▲呉キャンのメンバーみなさんで集合写真。1~3年生の4学科の学生が集結しています(最前列1番左:林さん)

また、林先生をはじめ、学校の先生方、快く協力いただいている企業の皆様、関わってくださる皆様、本当に数え切れないぐらいの方にお世話になっています。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。まだ車は100%の状態ではないので、これを完成させて2025年度中にレンタル事業を始めることを目標に頑張っていきたいです。

最後に、中学生の皆さんは高専に進学する最初のハードルがすごく高いと思います。私も進学の際は少数派で寂しい思いをしたのですが、モノづくりの設備が整っているのはやっぱり高専だと思うんです。「自ら何かをやりたい気持ち」が大事だと思うので、「これをやってみたい」という思いがある中学生にはぴったりだと思います。高専でお待ちしております!

林 聖和
Masakazu Hayashi

  • 呉工業高等専門学校 機械工学科 学生

林 聖和氏の写真

2022年4月 呉工業高等専門学校 機械工学科 入学

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