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研究の枠を超えて、社会に適うスキルを培う。 PBLが函館高専と企業をつなぐ架け橋に

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学生が「プレ・社会人」になる
函館高専×企業のPBL

教育現場で、近年注目を集めている「課題解決型学習(PBL)」。自ら問題を見つけ、解決する能力を養うことを目的とした、能動的な学習方法のことです。

特定のテーマのもと、教師ではなく学生たちが先陣を切って、その問題を乗り越える方法を導き出すPBLの授業では、研究能力だけではなく就職後にも通用する社会人スキルが身につくと、今日の就職の現場においても重要視されつつあります。

そんなPBLを企業との間で積極的に行っているのが、北海道函館市の函館工業高等専門学校です。

生産システム工学科、物質環境工学科、社会基盤工学科の本科生と専攻科生が在籍する函館工業高専専門学校

函館高専では現在、専攻科の学生24名がPBLを履修中。学生は週1日6時間、3〜4名程度のチームに分かれ、1年間かけてひとつのテーマを掘り下げて研究します。

PBLがほかの授業と異なる大きな魅力は、社会に出て活躍する技術者になる上で必要なノウハウを学べる点にあります。学生たちはいきなり研究を始めるのではなく、まず年間スケジュールと予算書の作成からスタート。仕事には「納期」があり、「コスト」を考えなければならない、そして時にクライアントとの「交渉」も必要です。それらのビジネスマンとして必要な基本的な能力は、専門性を高める研究だけでは身につきません。

函館高専のPBLでは、企業の担当者や豊富な社会人経験を持つ高専OBが「マイスター」として存在します。そこには、企業経験が少なく研究畑にいる教師陣より、実際に現場を知る人のほうが全体のバランスを見ながら学生に助言ができる、という学校側の狙いもあります。

PBLの研究テーマは、チームによってさまざま。今回は、「ロボットアームを用いた笹の葉寿司の包装工程の自動化」に取り組む、生産システム工学専攻科1年生(3名)のもとを訪れました。

気になるPBLの授業現場へ!
企業の悩み解決に取り組み中

笹の葉寿司といえば、旅先のお弁当やお土産の定番品。紐を解いて笹をはがして、酢の香りとともに現れる小ぶりの寿司には、不思議とワクワクさせられますね。

この研究のメイン・クライアントは、笹の葉寿司の製造・販売を行う株式会社雅(みやび)。この会社では、笹の葉を折り込んで紐で結ぶまでの工程を全て手作業で行っており、従業員の負担と人手不足が懸念されていました。それを解消するための手段として、専攻科生が機械を使った自動化を試みているのです。

PBLの授業に潜入。機械とパソコンを用いた高度な研究に挑戦している

研究で使用している機械は、DENSO社の人協同ロボットCOBOTTA(コボッタ)。安全性が高く、約4kgと女性でも扱いやすい便利なロボットです。

学生たちは、このコボッタを用いて包装工程の自動化にチャレンジ中。中身を傷つけず、いかに美しく笹の葉を包んで紐で留められるか。膨大な試作を繰り返しながら、ようやく2つの検討案にまで、的を絞ることができました。

治具の開閉動作により、お寿司を横向きに置いて笹をたたむ『検討案1』
治具中央部の空洞に、笹とお寿司を縦向きに押し込む『検討案2』

研究開始から約9ヶ月を迎えた今は、どちらの検討案がより有効な方法かを決めるために、さらに研究を深めているとのこと。その真剣な様子は、授業を受ける学生というよりも、まるでプロの技術者のようにも見えました。

とはいえ、研究当初はコボッタを扱った経験のない状態からの挑戦では、機械のアームを動かすことさえひと苦労だったそう。「コボッタは参考資料が少なくて、マニュアルも学生の僕たちには専門的で難しかった。トライアンドエラーを繰り返しながら、自分たちでなんとか手探りで進めていきました」と学生は話します。でも、苦労した経験やそれに取り組む姿勢こそ、社会人に出てからも、本人たちの糧となるのです。

コボッタは書類にハンコを押す作業や、餃子の皮を包む作業も可能。社会の色々なシーンで人助けする

PBLの研究結果は、必ずしもそのまま企業で採用されるとは限りません。しかし、学生の研究をもとに企業側で改良されて実現化したり、新しい事業のきっかけになることは十分ありえます。自分たちの研究が社会貢献につながる可能性を秘めている、それが学生にとってはPBLのやりがいにもなっているのです。

大手企業から中小企業まで、
企業側もPBLへラブ・コール

学生たちが実践的な学びを深められるPBLですが、同じく企業側にもたくさんのメリットがあります。実際に函館高専のPBLに参加した2社の担当者に話を伺いました。

株式会社アプレ 【PBLテーマ:水耕栽培の自動播種機の制作】
「以前から、PBLという学習方法は知っていましたが、高専でも実施しているのは知りませんでした。プロジェクト学習で高専生がどこまでできるのか、とても楽しみでした。
 実際に会ってみると、高専生はみな真面目な印象を受けました。また、学生たちはそれぞれの得意分野を活かした役割分担でPBLを推進していました。高専には機械、電気、情報といった『ものづくり』ができる、それぞれの専門分野を専攻する学生がいて、かつ彼らを専門の先生が指導、サポートしてくれることは大きな力となっていると思います。
 弊社は農業の会社ですが、ほとんど工業的に野菜を生産していて、その技術を向上させるために、高専生のような技術を学んだ学生に大きな期待を寄せています。また、採用という観点以外でも、PBLで新しい発想に気づくチャンスがあることや、高専の持つ技術や機材をお借りして実験ができることは、会社にとってメリットになります。今後もぜひ、PBLの実施を続けていきたいと感じました」(亀井博文さん)

株式会社玉川組 【PBLテーマ:建設現場で粗粒材を搬送する機械の開発】
「建設業を営む弊社からは、運搬車や重機が立入ることができない高所や構造物の陰などへ、土砂や砕石などの粗粒材を搬送する機械技術の開発をPBLのテーマに設定させてもらいました。漠然と『実現可能なのかもしれない』という発想で提起した課題に対しても、学生たちは具体的な装置を示して、実験により可能・不可能を明確に示してくれました。
 高専生には、礼儀正しく知的な印象を受けます。弊社は自力で具現化する機械化技術を有していないので、若い発想力と先進技術の知識に魅力を感じています。そのため、一緒に働くパートナーとして高専生を採用したいという気持ちも深まり、実際に求人票を提出させてもらっています」(小林房昭さん)

教育機関と共同で取り組む活動となると、大手企業からの参加が多いのではないかという印象を持つ人もいるかもしれません。しかし、PBLを通して地域貢献がしたいと考える高専は非常に多く、数人規模の小さな会社にも、積極的に参加をしてほしいと学校側は考えています。

企業と「Win-Win」の関係でありたい。
副校長が語るPBLの展望

函館高専がPBLに乗り出したのは2007年。副校長の小林淳哉先生は、今後さらにPBLが学生や学校にとっても、また企業にとっても重要視される時代になっていくと考えています。

副校長 小林淳哉氏(物質環境工学科教授)

「私たちがPBLを始めた13年前、社会は団塊の世代の一斉退職にともなう『2007年問題』に直面していました。高度な技術を持つ社員が定年退職を迎えて社会から去っていく中、高専がうまくスキルを継承して、日本の優秀な技術を守り続け続けられないだろうか…。そんな経緯を持って、高専と企業の架け橋になる存在を目指し、PBLを始動しました」

PBLが直接的に企業の利益に結びつく可能性は低いかもしれません。しかし、企業によっては、若手人材を育てるような想いで技術者としての初歩の初歩から熱心に指導してくれる場合も。また、学生と企業担当者の交流が、就職に結びつくこともあります。

「大手企業の元技術者だった函館高専OBが、ある研究のマイスターについたことがありました。丸一年みっちりと学生と交流し、適性を感じた上で、『僕のいた会社で働かないか』と、そのまま就職に至ったケースもありました。ほかにも、PBLで扱ったテーマに学生自身が深い興味を持って、その企業や同業種企業への就職を望む場合も多いです。PBLを通して、高専と企業がWin-Winの関係でありたいと思っています。企業にとっても、函館高専の学生を見極める場として考えてもらえるとよいですね」

片輪を小さく設計し、ボウリングを楽しめるように設計された車椅子。PBLの研究で学生が制作

 PBLへの参加に興味はありつつも、企業担当者の中には、本業への負担を懸念する人もいると思います。一方で、小林先生はPBLを気軽な気持ちで考えてほしいといいます。

「テーマ自体は、例えば入社後の新人研修で扱うようなものでもよいと思っています。こちらとしても、会社の『社運をかけて』となると荷が重いですからね(笑)。函館高専を会社の研究部門のように捉えて『ちょっと試してみたい』『チャレンジしてみたい』くらいのテーマがあると嬉しいです」

現在、企業と連携する形のPBLの履修は専攻科生のみで行われています。しかし、若いうちから社会実装に向けた活動を取り入れるべきと、近いうちに本科生にも実施する考えとのこと。

小林先生のもとには、来年度に向けてすでに複数の企業からPBLのオファーが届いているそうです。今度はどんな魅力的な研究が実施されるのか、日本の未来を担う学生たちへの期待が高まります。

函館工業高等専門学校

〒042-8501   

北海道函館市戸倉町14番1号 

TEL:0138-59-6300 

https://www.hakodate-ct.ac.jp/

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