大学時代はイギリス文学を学び、「英語教授法」という領域を学ぶため、アメリカへの留学を決めた樫村 真由(かしむら まゆ)先生。帰国後、岐阜高専での勤務を経て、東京高専に赴任された樫村先生に、学生時代やアメリカでのお話を伺いしました。
「化学の実験を英語でできる先生」になりたかった
―樫村先生は、教員になりたいという気持ちが昔からあったそうですね。
そうなんです。祖母は小学校の教員、父は大学の教授をしていたことから、「教員」という仕事が身近にあったんですよね。中学生の頃は英語が得意科目だったこともあって、漠然と英語の教員になりたいと思っていました。
高校は隣の学区の進学校を選んだのですが、あまり勉強はしていませんでした(笑)。化学は、教えてくれていた先生が大好きだったので、(無機)化学は真面目に勉強していました。高校生の頃は「化学の実験を英語でできる先生になりたい」と思っていましたね。
―成蹊大学の文学部では、どのようなことを学んでいたんですか?
大学時代は、「イギリス文学」にのめり込みましたね。授業でイギリス文学を知るまでは、有名な作家の名前は知っていても、原著でしっかり読んだことはありませんでした。でも、いろいろな切り口から作品を読む楽しさに目覚めたんです。イギリス文学の面白さに気付いてからは、「文学を勉強する」ということが、楽しくなりましたね。
―津田塾大学の大学院に進むことを決めた理由を、教えてください。
イギリス文学を研究されている有名な先生がいらっしゃったので、津田塾大学の大学院に進むことを決めました。私は「ヴィクトリア朝」を研究したくて大学院に進んだのですが、合格が決まってその先生に指導をお願いしに行ったら、断られてしまったんです(笑)。
これからどうしようと思い、研究科長を務めていた先生に相談すると、「私で良ければ一緒に研究しましょう」と言っていただいたんですよ。それが恩師である土屋倭子(しずこ)先生でした。
今考えてみると、結果的に土屋先生の元で研究ができて、本当に良かったと思いますね。お母さんみたいな存在で、論文の出来があまり良くないときにはファミレスに連れて行ってもらい、ご飯を食べながら指導をしてもらいました。「彼氏はいないの?」など身の上相談にも乗ってもらいましたね。
「英語教授法」を学ぶためサンフランシスコへ
―アメリカへ留学もされていたそうですね。
博士課程の単位を取り終わった後に、アメリカのサンフランシスコに留学しました。イギリス文学を勉強していた私がアメリカへ留学に行ったのは、「英語教授法」という領域で有名な大学がサンフランシスコにあったからなんです。
「英語教授法」とは、「英語が母語ではない学生に対して、英語をどのように教えるか」という内容なのですが、アメリカでの授業は日本の授業とは全く違いました。先生は授業のテーマを与えるだけで、学び方は学生次第。だから新鮮に感じましたし、授業もディスカッション形式が多かったですね。
日本だと、先生が教壇に立って、教科書の内容に沿って授業を進めていくことが一般的だと思います。そのイメージが、アメリカに行ったことで覆されたんですよね。先生は「学びを与える存在」じゃなくて「より良い学びを提供する存在」なんだと気付いた瞬間でした。
クラスメイトの中には実際に英語を教えている先生がいたり、台湾や韓国からの留学生もいたりして、お互いに助け合いながら授業を受けていました。私が英語で上手く言葉にできずにいると、周りのクラスメイトが助け舟を出してくれるんですよ。そんな優しい人ばかりの環境だったので、辛い思いはしませんでしたね。
他教科の内容を学びつつ、英語力も向上させる「CLIL」とは
-樫村先生が岐阜高専に行くことを決めた理由は何ですか?
東京で中学と高校の教員試験も受けていたのですが、「研究を続けながら指導がしたい」という気持ちが強かったんです。「研究をしながら先生としても働く」ことが1番の理想形で、そのときに見つけたのが、岐阜高専の求人だったんです。
私は高専出身ではありませんが、高専に通っている留学生との交流があったり、高専ロボコンを見たりしていたので、高専は身近な存在だったんですよね。「研究を続けながら授業ができる」ということも知っていました。
でも、実際に岐阜高専に勤務していたのは1年半ほどでした。岐阜高専で働き出したのは2007年4月からだったんですが、2008年に入ってから妊娠がわかって、夏から産休と育休をいただきました。夫が東京で働いていたこともあって、その後、転職活動を行って、東京高専に移籍させていただきました。
-東京高専で力を入れている取り組みを教えてください。
長岡技術科学大学(以下、長岡技科大)から研究助成をもらい、長岡高専の機械工学科の先生と協働で作成している「CLIL (Content and Language Integrated Learning)」という取り組みですね。これは簡単に言えば、理科や社会といった科目の内容と言語(例えば英語)を同時に学ぶ手法です。他教科の内容を学びつつ英語力を向上させるといった取り組みなんですよ。
でも、ESP(English for Specific Purposes)用に作成され市販されている工学の内容が英語で示されている教材はありますが、工学を内容とするCLILの教材はほとんどありません。
だから、長岡技科大からの研究助成で、共同研究を組み、学生に合った教材を作成したんです。教材の内容は高専生や卒業生など、高専や工学教育に関係がある人にアンケート調査をして考えました。
今回作成したCLILは、「ヒューマンエラー」がトピックなんです。ヒューマンエラーはどの工学の分野にも関連がありますし、高専生も卒業生を含む社会人にもニーズが高いテーマだったんですよ。ヒューマンエラーについて、事例からそれを防止する策までを英語で学べる教材を作成しました。
授業では、CLILの手法ではターゲットとなる言語を使ってのコミュニケーションが大切になるので、積極的に学生同士が英語で話し合い、協力してタスクを行います。東京高専の学生からは「グループワークをきっかけに友達ができた」という声を聞くこともありますね。また、同じくCLILを使用している長岡高専でも「モチベーションが上がって学習意欲が湧いた」と高評価をいただいているようです。
「文学」と「ものづくり」を融合させた授業とは
―樫村先生は、授業で「ものづくり」もされたそうですね。
そうなんです。私の専門は文学ですが、「高専でしかできない英文学の授業をしよう!」と思って、「幻灯機」というものを学生に作ってもらいました。幻灯機は、今でいうプロジェクターのようなものですね。なぜ幻灯機を作ってもらったかというと、授業で取り扱ったチャールズ・ディケンズの「クリスマス・キャロル」に関連があったからです。
でも、私には工学系の知識がなくて、ものづくりに関してのアドバイスはできませんでした。ですので、私の知り合いの映像作家の人に授業に来ていただき、手伝いをしてもらいました。幻灯機が完成した後で、学生を班ごとに分けて、劇を演じることができました。高専ならではの授業ができたと思います。
-高専生にメッセージをお願いします。
高専にいて感じるのは、学生がみんなのびのびと生活をしていることです。興味を持ったことに対し全力で応えてくれる先生や仲間がいる環境なので、学ぶ場所としては魅力的だと思いますね。私も正直、学生が羨ましいです(笑)。
小学生や中学生には、高専の存在をもっと知ってもらいたいですね。高専では文化祭やオープンキャンパスなどのイベントが開催されているので、ぜひ足を運んで高専という場所を知ってもらって、「良いな」って思ったら、高専への入学を検討して欲しいです。
樫村 真由氏
Mayu Kashimura
- 東京工業高等専門学校 一般教育科 准教授
1995年 埼玉県立川越女子高校 卒業
1999年 成蹊大学 文学部 英米文学科 卒業
2002年 津田塾大学大学院 文学研究科 修士課程 イギリス文学専攻 修了
2005年 津田塾大学大学院 文学研究科 後期博士課程 イギリス文学専攻 単位取得満期退学
2007年 San Francisco State University, MA in English (Concentration in TESOL) 修了
2007年 独立行政法人 高等専門学校機構 岐阜工業高等専門学校 一般科目(人文) 講師
2011年 東京工業高等専門学校 一般教育科 講師
2016年より現職
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