東北大学の工学部に進学した後、阿南高専に技術職員として入職され、現在は准教授となられた小林美緒先生。学生時代は、意外にも研究に力が入らなかったという小林先生に、工学に興味を持ったきっかけや、技術職員を目指した理由などを伺いました。
コンピューターに興味を持ったのは、ライバルだった兄の影響
―小林先生は、どのような子ども時代を送られていたんですか?
昔から工作が好きでしたね。冬休みに凧揚げ大会が開催されていたので、自分で一からつくった凧を揚げて、1番に選ばれたこともあります。技術の授業で木を使ったパズルをつくったり、糸鋸という細くて薄い刃のノコギリを使って文鎮をつくったりするのが楽しかった記憶がありますね。
私が理系に興味を持つきっかけをくれたのは、7つ上の兄でした。まだコンピューターの知識がなかった頃に、ファミコンで遊んでいる兄を見て、「兄に負けたくない!」と思っていました。これが「情報系について学びたい」と思ったきっかけです。
高校生のときに、両親がMacのコンピューターを購入したのですが、わからないなりにも触っているうちに楽しくなって、コンピューターや情報について学べる東北大学の工学部に進学することを決めました。
大学時代は、正直ダメな学生でしたね(笑)。留年の危機に陥ったこともありました。そのときは再試験の機会を与えていただき、何とか留年せずに済みました。実は大学4年時に就職先の企業を紹介してもらえなかったので、流れで大学院に進学しました。
技術職員の先生が、ダメだった自分を救ってくれた
―阿南高専の技術職員になられた経緯を、教えてください。
大学時代にお世話になった「技術職員」(当時は「技官」)の先生の影響です。大学時代、直接指導してくださった助手の先生は私のことを半分諦めていたみたいでしたが、技術職員の先生は態度を変えずに接してくださっていて、とても救われました。
休憩時間に技官の先生方が集まる部屋に呼ばれて、コーヒーを淹れてもらって語りあっていたことが、今でも良い思い出です。ずっと気にかけてくださっていて、仙台のお父さんと思っていました。
大学の先生が理論のスペシャリストだとすれば、技官は技術のスペシャリストで、研究を支える二つの大きな柱、という印象があって、技官ってかっこいい仕事だなと。調べると「国家資格を取って就職する」というルートがあることを知って。そこで取得したのが、電子系の「第二種国家資格」でした。
でも、資格を取ったからといってすぐに就職先が決まるというわけではありませんでした。就職できないかもと思っていたところ、阿南高専からお声がけいただきました。高専は機材環境も整っていて、大学で学んだ内容と直結した仕事ができると思い、即決しました。
思い返してみると、高専には昔から縁がありました。高校生の時に津山高専に通っていた方とチャット友達になって、毎日のようにチャットしていました。その方から高専の話を聞いていましたが、当時、自分が「高専で働く」ことになるとは想像もしませんでした。その方とは、一度もお会いしたことはないですが、不思議なご縁だと思います。
「学位を取る最後のチャンス」と思い、再び大学院へ
―技術職員として働きながら、大学院に進まれたそうですね。
学生時代にちゃんと勉強してこなかったことを、ずっと後悔していました。とにかく中途半端になっていたことが心残りでした。そのことを当時、阿南高専に勤められていた藤本憲市先生にお話しする機会があり、藤本先生が徳島大学に異動された後、保健科学教育部医用画像機器工学分野の吉永哲哉先生のもとで一緒に研究をしませんか?とお声がけいただきました。
当時、画像処理に興味があったので、医用画像機器工学分野で研究することを決め、非線形数理モデルを用いた医用画像領域分割に関する研究に取り組みました。技術職員として働きながらの研究は大変でしたが、「学位を取るなら最後のチャンスだ!」と決意して取り組みました。
大学院の前期課程は中退したのですが、これは前向きな選択でした。私が徳島大学大学院に進んだ翌年に、同院の後期課程ができました。指導教員の吉永先生に「研究者は最終学歴だから」とアドバイスいただいたこともあり、技術職員として勤務していたことを考慮していただいて、前期課程を中退後に後期課程に進み、無事に修了することが出来ました。
さまざまな企業と進めている、共同研究の内容とは
-阿南高専では、企業の方と共同研究をされているそうですね。
「コーオプ教育」といって、学生が企業に就業して研究テーマをいただくという制度があります。そこでいただいたテーマの一つがエアシリンダーの位置測定に関する研究です。
この研究テーマは、現在専攻科2年生の学生が、本科生の時にコーオプ教育で「四国化工機株式会社」に就業した際にいただいた課題解決テーマです。四国化工機は、牛乳やヨーグルトをパッケージに詰めていくための装置を作っている会社です。大きい装置の中には、エアシリンダーという装置が入っていて、空気圧が原動力の装置で、ピストン運動を繰り返しながら、容器の中に液体を詰めていきます。
このシリンダーの位置を制御するために、センサーが取り付けられています。高価なセンサーをつければもちろん精度は向上しますが、高価なセンサーを複数個取り付けるには予算的に難しいことがあります。そこで「安価なセンサーでも高精度な検出ができないか」という研究を進めています。
元々は学生が卒業するまでの研究予定でしたが、専攻科に進んだ学生が「引き続き研究したい」ということだったので、現在も研究を続けています。
-他には、どのような研究をされているんですか?
阿南市に「有限会社岸火工品製造所」という花火会社があるのですが、「花火が上がるタイミングで音楽が鳴り出すアプリを作ってほしい」という依頼をいただきました。コロナ禍の関係で、通常より離れたところから花火を打ち上げるので、音楽と花火がズレてしまうことが課題でした。
アプリの開発は、「Flutter(フラッター)」という開発の土台を用いて、「Dart(ダート)」というプログラム言語により行なっています。2021年6月から開発をスタートしたのですが、2021年11月段階で、出来上がったアプリを使って実機テストができました。
今後はテストを繰り返しながら改善を行い、実際にアプリを使っていただける環境を目指したいと思います。そして、このアプリが一通り完成したら学生に引き継いで、開発環境や設定方法について教えながら、さらに開発を進めていきたいです。
「グローバルエンジニア」の育成に力を入れていく
―今後の目標を教えてください。
国際的に活躍できる「グローバルエンジニア」の育成に努めたいです。グローバルな動きがしにくい状況だからこそ、今は地盤を固める大切な時期だと思っています。
阿南高専は、今年度6月に、工学教育の世界水準とされている「CDIO」に認定されました。今後、世界中の大学や教育機関との連携をさらに広げる機会が持てると思います。
また、今年度、阿南高専は、中四国高専と台湾国立聯合大学との連携による「第4回NIT-NUU日台国際カンファレンス」の主幹校としてオンラインで実施しました。もちろん、多くの学生、教職員が英語で研究発表を行い、手前味噌ですが素晴らしい国際会議になったと思います。また、今後、タイ高専からの留学生や同じくタイのチュラポーン王女サイエンスハイスクールからの留学生の1年次受け入れなど、グローバル推進に取り組んでいます。
阿南高専は、どちらかというと真面目でシャイな学生が多いイメージです。だから、もっと「外に飛び出す」という意識を持って、大胆にチャレンジしていけるような環境を提供したいです。そんな環境を提供することが、私たち教員の役目だと思います。国際交流が、学生が外に飛び出すきっかけになってくれたら嬉しいです。
学生たちには、自分がやっていることに「意味」を見出して行動して欲しいです。世の中にあるものについての「意味がある」「意味がない」という違いは、結局は私たちがどう感じたかにより決まるものだと思います。「何の意味もない」と思ってやるのと「こんな意味がある」と思ってやるのでは、取り組み方も全然違うはずです。何事も自分でしっかりと意味をみつけて、一生懸命取り組んで欲しいと思います。
小林 美緒氏
Mio Kobayashi
- 阿南工業高等専門学校 創造技術工学科・電気コース 准教授
1997年 栃木県立宇都宮女子高等学校 卒業
2001年 東北大学 工学部 電子工学科 卒業
2002年 東北大学大学院 工学研究科 電子工学専攻 前期課程 中退
2008年 徳島大学大学院 保健科学教育部 保健学専攻 前期課程 中退
2011年 徳島大学大学院 保健科学教育部 保健学専攻 後期課程 修了
2011年4月より現職
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