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留学が変えた「学び方」。正解のない文学と答えを出す工学のあいだで、高専生の思考力を育てる

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小学6年生で思い立って中学受験に挑戦し、英語コースへの進学、そして大学時代の留学を経て、「学ぶとは何か」を問い直してきた、大分高専の野間由梨花先生。オーストラリアでの1年間の経験をきっかけに、英語を「勉強する科目」ではなく「使って考えるための道具」として捉えるようになったそうです。これまでの歩みと、高専教育にかける思いについてお話を伺いました。

留学が変えた「勉強」の理解

―まずはこれまでのご経歴から教えてください。小学生のころに中学受験を決められたそうですね。

はい。あれは本当に、思い立ったが吉日みたいな決断でした。小学6年生の夏に、急に「受験しよう」と言い出したんです。それまで一緒に過ごしてきた友達と同じ中学校に上がるのも悪くはなかったんですけど、どこかで「それだけだと刺激が足りないな」という気持ちがあって。環境を変えて、新しい世界を見てみたいという、漠然とした思いがあったんだと思います。

突然だったこともあって、両親に伝えたらかなり驚いていましたね(笑) そこから急いで塾に通い始めて、短期間で受験準備をしました。本当に必死でした。でも応援してもらえたのがありがたくて、あのとき背中を押してもらえたから今があるのかなと思います。

―進学されたのは武庫川女子大学の附属校です。大学までの一貫教育はいかがでしたか。

中高が同じ敷地にあって、そのまま大学に進むという環境だったので、当時はそれが「普通」だと思っていました。でも大学生になってアルバイトを始めたり、外部の人と関わったりして初めて、「あ、私たちの普通って普通じゃなかったんだ」と気づかされることが多かったです。

▲高校3年生のときにニュージーランドへ中期留学。台湾やモンゴルから来ていた学生とも交流を深めたそうです

閉じた環境というわけではないんですけど、やっぱり独特の文化はあったと思います。同じ場所で長く過ごす安心感もありましたし、その中でじっくり自分の興味を育てられたのはよかったですね。

▲大学2年次の短期海外留学にて、Outstanding Service Awardを受賞したときの1枚

―高校では英語コースを選ばれています。理由を教えてください。

正直に言うと、理系科目がまったくできなかったんです。数学とか理科は本当に苦手で(笑) 理系のコースに進む選択肢もあったのですが、「3年間これをやる自信がないな」と思ってしまって。

英語は特別得意というより、ずっと身近にある存在でした。「これなら続けられそう」という感覚に近かったですね。好きなこと、あるいは苦にならないことじゃないと続かないなと、そのときすでに感じていたんだと思います。

▲中高の6年間は英語部として活動していた野間先生。写真は高校3年生での文化祭で英語劇『マンマ・ミーア!』を発表したときのもの

―先生のご専門は英文学ですが、もともと本を読むのが得意だったわけではなかったそうですね。

そうなんです。実は、読むのが遅くて、文章を理解するのに何度も読み返してしまうタイプでした。本を最後まで読み切れないことが多かったんです。

でも高校のとき、国語の先生が教室に小さな本棚を置いていて、「好きなのを持っていっていいよ」と貸してくれたんです。たまたま手に取った時代小説を初めて読み切れたとき、「あ、読めた」という感覚があって。そこから読書が楽しくなりました。私の場合、文学への興味は、英文学よりもむしろ日本文学から始まっているんです。

―大学3年生のときには、オーストラリアに留学されています。

はい。留学のための基準をクリアしていたので、「せっかくだから行ってみよう」と思ってオーストラリアに1年間行きました。英語を話せるようになる、というより、「英語を使って何かができるようになる」ことを目標にしていて、広報の授業やパフォーミングアーツの授業を履修しました。

▲オーストラリア留学中の野間先生。週末のナイトアウトの様子

最初はうまくいかないことだらけでした。現地の学生に話しかけるのも怖くて。でも、長期休暇中にニュージーランドを旅行したとき、日本人が一人もいないバスツアーに参加したんです。もう英語でしかサバイブできない状況で、嫌でも話さないといけない。必死に伝えようとしたら、相手も分かろうとしてくれて、「あ、コミュニケーションってこういうことなんだ」と腑に落ちました。

▲美しいフィヨルドで有名なニュージーランドの観光名所「ミルフォード・サウンド」の観光クルーズに参加したときの1枚

そこから行動が一気に変わりました。気にしすぎて動けなかった自分が、少しずつ前に出られるようになった気がします。

文学研究と教育が交わる現在

―その後、就職活動をやめて大学院に進学されていますね。

帰国後は普通に就職活動をしていました。でも、面接の帰り道、同じスーツ姿の学生たちと同じ方向に歩いていく自分の姿を俯瞰したとき、「今の私はまだここに混じる自信がない」と思ってしまったんです。

それと同時に、「もうちょっと勉強したいな」という気持ちが強くなりました。留学中に「学ぶって面白い」と初めて実感できたこともあり、就活をスパッとやめて、大学院に進学することにしました。

―教員を目指したのもその頃ですか。

はい。もともとは「絶対に先生にはならない」と思っていました。以前は人前に立つのも、人に説明するのも苦手で、自分にできる気がしなかったんです。

でも、留学を経て、自分に合った勉強の仕方や、人とのコミュニケーションの取り方が分かり、「こうやって伝えればいいんだ」と思えるようになったとき、「今ならできるかもしれない」と初めて思えました。それで、教員免許を取ろうと決めたんです。

―高専教員になられた理由は何だったのでしょう。

研究もしたいし、教育もしたい。その両方ができる場所を探していて、高専がちょうどいいと思ったんです。高校生の年齢の学生の成長も見られるし、研究時間も確保できる。まさに理想の職場でした。

実際に働いてみても、その感覚は変わりません。学生たちは本当に元気で、真面目で、ピュア。自分から挨拶してくれる学生が多くて、最初はびっくりしました。毎日刺激をもらっています。

▲第58回英語プレゼンテーションコンテスト(九州)に参加したときの1枚。シングル部門で5年生の学生が入賞し、全国大会にも出場しました

―現在のご研究についても教えてください。

19世紀のイギリスの女性作家、特にメアリー・シェリーを研究しています。『フランケンシュタイン』を書いた作家ですね。きっかけは、National Theatre Liveの舞台版『フランケンシュタイン』を観たことでした。いわゆる怪物のイメージとは全然違う物語で衝撃を受けて、「ちゃんと読んでみたい、研究したい」と思ったんです。

今は精神分析学的な読みを取り入れています。精神分析というと難しく聞こえるかもしれませんが、登場人物同士の関係性や心の動きを理論で補助的に考える方法です。イギリスの精神分析家ウィルフレッド・ビオンの“container/contained”という、母親と子どもの関係性をモデルにした概念を使って作品を読み解いたりしています。

▲博多座にて歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』を観劇したときの1枚。ストレートプレイやミュージカル、最近では歌舞伎まで、幅広く芸術鑑賞を楽しんでいるそうです

文学研究って、すぐに役に立つものではないんですよね。でも、人間の複雑さや「わからなさ」を扱う学問だと思っています。正解がないからこそ、ずっと考え続けられる。それが面白さでもあります。

―授業で大切にしていることは何ですか。

コミュニケーションですね。声をかける、話を聞く、信頼関係をつくる。あと、できるだけ学生に話してもらうようにしています。私は説明役に徹して、あとはみんなに使ってもらっています。言語は使ってこそ身につくと思っているからです。

それから、「自分の言葉で書いてほしい」と常に伝えています。課題に取り組んでもらう中で、翻訳機やAIを使うことを禁止することはありません。ただ、定期試験では記述問題も出題するので、自分の考えを、自分の言葉で伝えられるようになってほしいと思っています。

―最後に、高専生へのメッセージをお願いします。

エンジニアとして社会を支える立場になる人たちなので、技術力はもちろん大切ですが、それ以上に「自分の頭で考える力」を持っていてほしいなと思います。言われたことをそのまま受け入れるだけじゃなくて、「自分はどう思うか」を大事にしてほしいです。

ピュアで真面目だからこそ、そこに思考力が加われば本当に強い。5年間でたくさん悩んで、考えて、自分の言葉を持った大人になってくれたら嬉しいですね。

野間 由梨花
Yurika Noma

  • 大分工業高等専門学校 一般科(文系) 講師

野間 由梨花氏の写真

2013年3月 私立武庫川女子大学附属高等学校(SEコース)卒業
2016年3月 武庫川女子大学 文学部 英語文化学科 卒業
2018年3月 武庫川女子大学大学院 文学研究科 英語英米文学専攻 修士課程 修了
2022年3月 武庫川女子大学大学院 文学研究科 英語英米文学専攻 博士課程後期 修了
2018年4月~2021年3月 武庫川女子大学附属中学校・高等学校 非常勤講師
2019年9月~2022年3月 武庫川女子大学 文学部 英語文化学科 非常勤講師
2021年9月~2022年3月 大阪経済法科大学 非常勤講師
2023年5月 大分工業高等専門学校 一般科(文系) 助教
2025年10月より現職

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