仙台電波高専(現 仙台高専広瀬キャンパス)のご出身で、人と人とをつなげる「情報通信工学」を研究されている小林秀幸先生。高専時代から、機構本部での現在の取り組みについてまで、高専への熱い思いを伺いました。
好きなことを、とことん自由に。今につながる高専時代
-仙台電波高専のご出身ですが、高専に進学したきっかけは?
父の仕事の関係で、小さな頃から無線通信に触れることがあり、どうやって動いているんだろうと興味があったんです。離れたところと自由に通信ができることに夢を感じて、それを極めたエンジニアになりたいと思っていました。
山形の出身で、地元にはそういうことを学べる学校がなかったんですが、中学の先生から「おもしろい学校がある」と言われたことや、テレビでロボコンを見ていたこともあり、仙台電波高専に興味がわきました。調べてみると自分にぴったりだと思って、進学したんです。
-どんな学生生活でしたか?
当時は、勉強はそこそこで、部活の水泳ばかりしていましたよ(笑)。寮に入ると夕食の関係で部活ができないから、片道2時間かけて自宅から通っていました。レポートや国家資格の勉強は、ほとんど電車の中でやっていましたね。
学校では、水泳のラップタイムを計りたいからと、携帯でストップウォッチのアプリを作ったり、当時流行っていたMDウォークマンをいじって曲の編集をしたり、とにかく好きなことばかりしていました(笑)。わからないことがあれば、友だちに聞いて、私も友だちに教えたりして…。また、恩師である研究室の高橋薫先生には、本当によくしていただいて、とても楽しい毎日でしたし、自由にさせてもらっていました。好きなことを、とことんさせてくれた高専の環境に、今でも感謝しています。
-高専の教員になったきっかけは、何ですか?
研究室のOB・OGと集まって意見交換する中で、やっぱり楽しいな、いつか高専に戻って働きたいなと思うようになりました。「研究がしたい」「教員になりたい」というより、「高専に関わる仕事がしたい」という理由から教員を目指しました。大学のドクターに進んだのも、研究をしたいという思いより、高専教員になるのに必要だったからです(笑)。
研究をする上でも、高専は最初の助教から自分の研究室が持てて、好きな研究が自由にできるんです。大学だと教授の下について研究するのが普通なので、こんなに自由にできるってないんですよね。やっぱり「自由」にできるのがよくて、高専がいいなと思っていました。
人と人とをつなぎ、社会を支える情報通信
-先生の研究内容について教えてください。
センサを無線でつなぐ「センサネットワーク」の研究を基本に、それを応用した研究をいくつか行っています。
ひとつは、携帯電話の位置推定です。「位置推定」というと、地図アプリなどが思い浮かぶと思いますが、あれはGPSを使っているので、屋外でしか使えません。屋内でも位置推定ができないかということで、Wi-Fiのアクセスポイントからでている電波を捕まえて、その電波の強さから携帯電話がどこにいるかを推定するんです。
この研究には、AI(機械学習)も使っているんですが、実は、高専出身の人が立ち上げたAIのベンチャー企業であるConvergence Lab.株式会社と共同研究をしていて。高専で育った2人が、高専発の技術で行っている研究なんですよ。
また、その逆に、携帯電話自身が出している電波を、いろんな場所にアクセスポイントを置いて集めて、どこに携帯があるかを推定する研究もしています。COVID-19の対策として耳にする「人流の計測」もこの技術で応用可能です。人の流れがわかるようになると、買い物客の導線がわかって広告が打ちやすくなったり、災害時に混雑状況を見ながら避難ルートの案内ができたり、いろいろと汎用性があります。
他には、株式会社ビオシスと東北大学との共同研究として、洪水などの危険がある河川の水位を計って、避難情報を出す研究などもしています。センサネットワークをやっているということで、いろんなつながりから声をかけていただいて。人の役に立つ研究をしたいとずっと思っていたので、やりがいがありますね。
-さまざまな研究をされているんですね。改めて、情報通信工学のおもしろさはどういうところですか?
ちょっと哲学的ですが、「人と人は、つながるから人でいられる」と思っています。コミュニケーションするから人であって、コミュニケーションがなければ、人間はただの動物です。そのコミュニケーションの中心にあるのが「情報通信」なんです。言葉で伝える音声や、LINEでのやりとりなんかも、すべてを支えているのが「情報通信」。「社会は情報通信でできている」と学生にもよく言っています。
今はオンラインで遠く離れた海外とも、簡単につながることができるようになりました。とても画期的なことですが、それをどういう風に支えているかを考えたり、実際にどうやってつながっているのかがわかったりすると、本当に楽しいですね。
社会にとっても、人間にとっても一番大事な分野だと思っているので、その研究や開発ができるのは、非常にやりがいがあります。技術は日々すごい勢いで進歩していて、勉強し続けないとすぐに置いて行かれてしまうのは大変ですが、でもそれがおもしろいところでもあるんです。
自由と多様性のために、新たな挑戦と社会への恩返しを
-学生にはどういう思いで、接していらっしゃいますか?
学生は本当に優秀で、教えてあげることなんてそんなにないんですよ(笑)。情報通信は、日々進歩していて新しいことが次々にでてくるので、一緒に勉強して、私自身も一緒に成長したいと思ってやっています。
私の方が経験はあるので、自分の知識を「教え」はしますが、「育てる」のは違うかなと思っています。なので、「教育」という言葉はあまり使いたくないんです。どう育っていくかは本人が決めることで、私はそのサポートを全力でしています。やりたい子にはとことん付き合いますよ。
高専時代、好きなことをとことんやらせてもらった自分自身の経験から、とことんやるからこそ、技術力は高まると思うんです。好きなことじゃないと、楽しくない。勉強も仕事も、楽しくないとやっていても辛いだけですよね。
テストでは点数とれないけれど研究で成果が出せる学生もいるし、勉強は苦手だけれど部活で輝ける学生もいる。学生には、いろいろなことにチャレンジして好きなことをやってほしいですし、学生の多様性を認めて、できるだけいろいろな機会を提供していきたいです。自由で多様性があって、それを自分で選べるのが高専の研究室の良さだと思っています。
-今年の春から、機構本部に異動されたと伺いました。機構本部ではどういうお仕事をされているんですか?
今は、機構本部の国際交流という部署で、2つのタイ高専をバックアップする仕事をしています。タイ高専は、高専スピリッツをもった学生をタイにもつくることが目的ですが、日本の高専のカリキュラムをそのまま持っていくのではなく、タイの人たちが本当に必要とする技術や知識が何かを考え、地域にあった高専を作るためのプロジェクトです。
具体的には、現地にいる先生と一緒に授業の内容やコースの設計を考えたり、今後現地にいく先生の調整をしたり、プロジェクトの説明会を全国の高専で行って、教材提供の依頼をしたり…。まだ2カ月ですが、2カ月と思えないくらい忙しい日々ですね(笑)。
-先生ご自身もいろいろなことに挑戦されているんですね。
そうですね。世界はどんどん進化していくので、現状維持のままでは置いて行かれてしまいます。これまで自分の好きなことを自由にさせてもらってきましたが、自由にできるのは、それを認めてくれる人たちがいるからです。自由でいるためには、自分も進み続けなければいけないですし、世の中に役立つことで恩返ししたいと思っています。
そして、自由で多様性があるという高専の良さも、社会が認めてくれるからこそ維持できるものだと思っています。社会に還元するためにも、高専全体の多様性をもっと広げて、世の中ともつながっていきたいと考えています。つながりを加速させられる今の仕事も、やりがいをもって取り組んでいます。
今後は、セキュリティ分野の技術の向上についても取り組んでいきたいと思っています。まずは、学生に教える高専教員のレベルアップを図るために、木更津高専の丸山真佐夫先生、米村恵一先生を中心としたチームで、教材開発などを行っています。これを日本全国の高専はもちろん、タイの高専にも展開して、世界的にも優秀なセキュリティ分野の人材の成長を助けるのが、これからの挑戦ですね。
小林 秀幸氏
Hideyuki Kobayashi
- 独立行政法人国立高等専門学校機構 本部事務局 准教授/国際参事補
2003年 仙台電波工業高等専門学校 情報通信工学科 卒業
2005年 豊橋技術科学大学 知識情報工学課程 卒業
2007年 豊橋技術科学大学 知識情報工学専攻 修士課程 修了
2011年 静岡大学 創造科学技術大学院 情報科学専攻 修了
2011年 仙台高等専門学校 情報システム工学科 助教
2016年 同 准教授
2016年 豊橋技術科学大学 高専連携推進センター 連携准教授
2017年 仙台高等専門学校 総合工学科 准教授
2021年 独立行政法人国立高等専門学校機構 本部事務局 准教授/国際参事補 現在に至る
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