高専教員教員

「機械をつくりたい」その思いを貫いて——海という厳しい環境で無人観測ロボットの研究に取り組む

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豊田高専の学生の頃に「ものをつくって動かす」楽しさを知り、企業経験を経て、神戸高専の教員として無人ロボットによる海洋観測システムの開発に取り組む小澤正宜先生。高専時代の選択から現在の研究、そして学生への思いまで、お話を伺いました。

周りとは違った選択を——気づけば海洋に惹かれて

―豊田高専へ進学したきっかけを教えてください。

中学生の頃の私は決して真面目なタイプではありませんでしたが、家で漫画やゲームを禁止されないために最低限の勉強はして、成績もそれなりに良かったんです。そんな私に、「あまり座学が好きじゃないだろう」と、担任の先生が紹介してくださったのが豊田高専でした。

正直に言うと、それまで高専のことはほとんど知りませんでした。「工業高校よりも座学が少ないらしい」「なんだか良さそうだ」という、かなり軽い気持ちで進学を決めたのを覚えています。

―実際に入学してみて、印象は変わりましたか。

はい、「座学が少ない」というのは完全に誤解でした。進学校と同じような座学の勉強があり、そこに実習が加わる。むしろ忙しいくらいでしたね。

▲高専1~2年生の頃にアメリカへ留学した小澤先生

高専生活で特に印象に残っているのは、寮生活です。同級生と過ごせる環境は刺激的でしたし、親の目がない分、自由はありますが責任も伴いました。

寮でのイベントも多く、特に寮祭は思い出深いです。出店やステージ企画など、すべて学生主体で運営します。教員の関与がほとんどないため、高専祭と比較しても「自分たちでつくって、自分たちで楽しむ」イベントで、熱量も達成感も大きかったですね。

▲高専5年生のときの小澤先生。指導階の寮生たちとの集合写真

―その後、東京海洋大学に編入されていますね。

豊田という土地柄もあり、周囲には自動車産業を目指す学生が多くいました。求人情報を見ても、順当に進めば自動車関連の道が開けている。けれど私は、「みんなと同じ選択肢を取るのは違うのではないか」と感じていました。高専時代の仲間には優秀な学生が多く、「同じ分野で競っても勝てない」とも思っていましたし、何より自分が心から熱を持てない分野で競争するのは難しいと感じていたんです。

そんなときに出会ったのが、海洋発電技術に関する本でした。海が持つエネルギーの大きさや、まだ十分に活用されていない可能性に強く惹かれたのを覚えています。そんな時に大学を調べる中で、東京海洋大学の清水悦郎先生の研究室を見つけました。ホームページには、「JAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)のロボットを用いて研究している」と書かれており、最高の環境で研究ができると思い、編入を決意しました。

▲大学の同期のみなさんとパリへ旅行

しかし、清水先生は制御分野の専門家で、研究室も「機械をどう動かすか」に強みを持っていました。それを理解したうえで進学したものの、当時の自分には思うような研究ができなかったのが正直なところです。私はもともと“つくる側”に強い興味があり、水中ロボットそのものをつくりたいという思いがありました。それも、豊田高専でロボコンに取り組み、ものをつくって動かす楽しさを知っていたからです。

―修士修了後は就職と博士進学を同時に決断されています。

修士2年のとき、海中電波通信技術に関する研究に取り組んでいました。その内容について評価していただいた指導教員から「アカデミックに残るのも手だよ」と言われたんです。しかし、ちょうど三井造船(現:三菱重工マリタイムシステムズ)への就職も決まっていたタイミングでした。

▲海中電波通信手法の実験風景

博士号を取得すること自体に大きな不安やデメリットは感じていませんでしたが、「就職と両立して本当にやりきれるのか」という不安はありました。先生からは「必要な力は修士で身についている。サポートもあるし、論文を書けたらいける」と背中を押され、それなら挑戦しようと、就職と博士課程進学を同時に進めることにしました。

―実際、両立はできましたか。

正直に言うと、無理でした(笑) 仕事が忙しい時期と博士研究の山場が重なると、かなり厳しかったですね。

今思うに、博士課程というのは人生で最も研究が楽しくなる時期だと思います。今の立場では教育や社会的な役割も増え、研究だけに集中するのは難しい。だからこそ、あの時期にもっと研究に向き合っておけばよかった、という心残りも実は少しあります。

企業を経て、もう一度ロボットの世界へ

―三井造船では、どのようなお仕事をされていたのでしょうか。

入社後、最初に配属されたのは造船部門でした。船の試運転にも何度か乗船し、2〜3泊で海に出ることもありました。大学時代も船に乗る機会はありましたが、トータルでたった1週間程度です。実際に造られた船を動かし、海上で確認作業を行う経験はとても貴重でした。

船という巨大なシステムの中で、どのような構成が必要なのか、船上で機材を使うならどれくらいの大きさが現実的か、どんな電源が必要か。そういった現場感覚は、机上では得られないものです。あの時期に研究に向き合っておけばという心残りはありながらも、企業での経験は今でも大きな財産になっています。

―「海洋ロボットに関われないもどかしさ」があったそうですね。

そうですね。最初の配属の造船部門は面白い分野でしたが、スケールがあまりにも大きく、建物を造っているような感覚でした。自分は機械をつくりたくてこの世界に入ったはずなのに、という思いはずっとありました。

その後も機械系の部署への異動を経て、技術営業として本社勤務も経験しました。担当製品の技術説明をする役割で、3年間営業を担当。その後も在籍しましたが、ロボットに関わる機会が少なく、「やはり自分は海洋ロボットをやりたい」という思いは消えませんでした。

▲技術営業をされていた頃の小澤先生。展示会で戦闘機コックピットに搭乗

ちょうどその頃、造船業界は不況の波を受けていました。博士号も取得し、「一度だけ、本気でアカデミアへの転職に挑戦してみよう」と思ったんです。期限を半年で設定し、そこで結果が出なければ、企業でキャリアを続けようと腹を括っていました。そして、神戸高専とご縁があり、現在に至ることになりました。

―現在取り組まれている研究について教えてください。

USV(Unmanned Surface Vehicle:無人船)、ROV(Remotely Operated Vehicle:無人潜水機)、UAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機)、そしてヒューマノイドが連携し、海洋を無人で観測するシステムの開発に取り組んでいます。これらを組み合わせることで、広い海域を面的に調査できる仕組みを目指しています。

海洋観測は非常にコストがかかります。人が船に乗り、生活設備や安全設備、観測機材を船に積み、限られた時間で作業する。人間が乗ることでその分コストが増え、船を出せる回数も限られてしまいます。本来、海は広大で、もっと多くのデータを取得すべきです。しかし、費用や人員の制約があり、データが思うように取れないという課題がありました。

そこで考えたのが、「無人の船にして、人は陸に残り、必要なときだけヒューマノイドを使う」仕組みです。無人化によって人の生活設備を減らし、観測そのものをコンパクトにする。ヒューマノイドは、人間の代わりに操作が必要な場面だけ活用されます。

―この構想は大学時代から考えていたそうですね。

学部時代から、遠洋の海中調査には必ず船が必要になることから、船とROVを組み合わせたシステムを開発したいという思いがありました。高専で研究テーマを自由に決められるようになったことから、改めて実現しようと動き出したものです。

大学で扱っていたのは、ケーブルでつながれた遠隔操作型の水中ロボットでした。ロボット自体は無人なのに、動かすためには人が船で運び、海に下ろさなければならない。その構造に違和感がありました。「ロボットなのに、そこはロボット化されていない」。だったら、船そのものも無人化できないだろうかと考え始めたのが原点です。

▲大学生の頃に取り組んでいた、モジュール型水中ロボットの外観

海の厳しさと、ロボットが拓く未来

―実海域での研究は難易度が高いと伺いました。これまでで特に印象に残っていることはありますか。

一番大変だったのは、船を購入したときです。助成金を活用して小型船舶を導入することになり、2024年11月に購入を決意しました。条件に合う船が北海道にあり、現物を確認せずに買うのは無謀だと思い、日帰りで北海道へ。そこで購入を決め、12月に小型船舶の免許を取得し、1月末には船が到着。2月には海に出しました。

そして、スケジュールは順調だったのですが、最初に海に船を浮かべたときに浸水させてしまったんです。船のフタにあたる部分の準備が不十分でした。知識としては理解していたのですが、写真だけでは細部まで分からず、自分が準備した機材で合っているのかが判断できなかったんです……。幸い、クレーンで吊った状態で慎重に試していたため、すぐに引き上げることができ、故障にも至らなくてホッとしました。

さらに、技術的な課題以上に難しいのが、海というフィールドそのものです。ボートを降ろせる場所が限られており、岡山県笠岡市まで運んだり、神戸市のヨットハーバーを利用させてもらったりと、調整が必要になります。

また、漁業関係者の方々との関係構築も大切です。漁業は生活そのもの。資源を守りながら海と向き合っている方々がいる中で、研究目的で船を浮かべさせてほしいとお願いするのは、簡単なことではありません。技術だけでなく、人との関係性も含めて乗り越えなければならないのが、海洋研究の現実です。

―それでも、この研究を続ける理由は何でしょうか。

やはり、水の中を見ることができる瞬間です。人が自力で潜れるのはせいぜい2メートルほど。それより深い世界を直接観察することは簡単ではありません。水中ロボットがなければ、カメラを届けることも難しいです。

自分たちでロボットをつくり、好きな深さまで潜らせ、これまで見られなかった世界を観察できるという体験は、この研究ならではのやりがいです。

―学生指導で大切にしていることを教えてください。

卒業研究では「本人がやりたいことをやれる環境をつくる」ことを意識しています。私自身がそういう指導を受けてきましたし、適切な助言はいただくけれども、基本的には任せてもらえるというスタイルが自分には合っていました。

ロボット研究は、手取り足取り教えるというより、自分で進める要素が多い分野です。だからこそ、やりたいことを実現できるようにサポートするのが教員の役割だと考えています。

▲学生と海で実験をしている様子

―今後の目標を教えてください。

高性能なヒューマノイドを導入することです。私が研究で航海に出て、学校を長期で不在にすることがあるため、将来的にはその間も、ヒューマノイドが授業や会議を担当する環境をつくりたいと考えています。

技術的には、遠隔操作自体はそれほど難しくありません。課題はバッテリー交換の自動化です。ここが安定すれば、実現は近いと考えています。ここ数年のヒューマノイド開発の加速を見ていると、2〜3年後には十分可能性があると思っています。

―先生から見た高専生の印象を教えてください。

高専生は昔から実行力が高いと思います。あるとき、教室でスマートフォンの電波が入りにくいという問題が発生しました。学生から「どうにかしてほしい」と言われ、技術的な話をすれば学生の理解も深まるだろうと考え、「解決するには基地局を増やすか、アンテナを設置する必要がある」と説明しました。

すると、その日のうちにクラスの半分ほどが集まり、「基地局を増やしてほしい」と記した要望書をつくって学校に提出したのです。状況を理解し、必要な行動を考え、すぐに動く。そのスピード感は高専生らしいと感じました。

―中学生や保護者の方へ、どのような高専の魅力を伝えたいですか。

高専は決して楽な環境ではありません。普通高校とは違い、1年生から専門性を求められます。しかし、高専だからこそできることがあります。第一線で研究している教員から直接学べる環境が当たり前にあるのは、通常では考えられないことです。専門知識に早く触れられるのは大きな魅力だと思います。

▲海のお仕事体験プログラム「こどもわーくin神戸」で小学生にレクチャーする小澤先生

―最後に、高専生へのメッセージをお願いします。

まずは、しっかり勉強してください。能力が高いからこそ、ギリギリで乗り切ろうとする人もいます。だからこそ、もう少し余裕を持って取り組んでほしいと常日頃から思っています。

そして、自分のやりたいことと、社会で求められていることを一致させ、その力を存分に発揮してください。そのためには、情報収集と自己分析が欠かせません。自分は何をしたいのか、進もうとしている環境は目標に合っているのかを、立ち止まって考えてほしいと思います。

私自身、進路選択で「外した」と感じたことが2回ありました。だからこそ、目の前の選択だけでなく、その先の環境まで含めて考えることの大切さを伝えたいですね。

高専生は強い実行力という武器を持っています。その力を、正しい方向に向けて頑張ってくれることを願っています。

小澤 正宜
Masayoshi Ozawa

  • 神戸市立工業高等専門学校 機械工学科 准教授

小澤 正宜氏の写真

2008年3月 豊田工業高等専門学校 機械工学科 卒業
2010年3月 東京海洋大学 海洋電子機械工学科 制御システム工学コース 卒業
2012年3月 東京海洋大学大学院 海洋科学技術研究科 博士前期課程 海洋システム工学専攻 修了
2012年4月 三井造船株式会社(現:三菱重工マリタイムシステムズ株式会社)
2019年9月 東京海洋大学大学院 海洋科学技術研究科 博士後期課程 応用環境システム学専攻 修了
2020年4月 神戸市立工業高等専門学校 機械工学科 助教
2021年4月 同 講師
2022年4月より現職

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