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高専卒社長が率いる総合設備工事会社「ダイダン」。社長になるまでの道筋から、高専卒社員のキャリアアップを読み取る

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高専卒社長が率いる総合設備工事会社「ダイダン」。社長になるまでの道筋から、高専卒社員のキャリアアップを読み取るのサムネイル画像

国内外の建築設備に貢献しているダイダン株式会社の社長 山中康宏さんは、奈良高専のご出身です。技術者として入社された山中さんが、約2,000名の社員数を擁する企業の社長になられるまでの経緯を紐解きつつ、大卒と遜色のない高専卒社員のキャリアップ、ダイダンの事業内容、組織改革などについてお伺いしました。

25年以上、建築現場の技術者として活躍

―ダイダンの事業内容について教えてください。

「電気設備」「空調設備」「給排水衛生設備」をメインとした建築設備の事業を行っています。このような仕事は目に見える形で現れてこないものですが、天井の中には様々な空調設備や、スプリンクラー、電気配線などがあります。当社は「建物のいのちをつくる」をスローガンに、「電気」「空調」「水」を建物に行き渡らせているのです。

取材をお引き受けいただいた山中さん
▲取材をお引き受けいただいた山中さん

―山中さんは奈良高専を卒業されており、現在は社員数1,901名(個別:1,687名)を抱えるダイダンの社長です。山中さんのキャリアについて紐解いていきたいのですが、まず奈良高専に進学された理由を教えてください。

※2024年3月末現在

私は奈良が出身でして、私立高校の選択肢が少なく、大阪の高校に行くことも考えていませんでしたので、奈良の国公立の学校を視野に入れていました。そんな中、中学校の先生からのススメもあり、奈良高専の機械工学科に進学したのです。

正直、高専がどのような学校なのかしっかり理解せず入学したのですが(笑)、その学生生活には驚きました。工学系の難しい授業や、鉄を溶かして鋳物をつくるなどといった実習など、これほど工業系の濃密な時間を過ごせる学校があるんだと思いましたね。

高専生の頃の山中さん
▲高専生の頃の山中さん

―奈良高専卒業後、ダイダンに入社されたのはなぜでしょうか。

当時のダイダンは奈良に天理支店(現:奈良支店)があり、20歳だった私は地元が好きで、そこで働けるものと思って入社したのが理由です。しかし、ダイダンは全国規模の会社であることを私は分かっておらず、大阪で半年間の研修を受けたのち、東京で働くことになりました(笑)

ダイダンに入社された頃の山中さん
▲ダイダンに入社された頃の山中さん

―そのようなダイダンでのスタートから、現在は社長を務めるまで、どのようなキャリアアップをされたのでしょうか。

研修後に働いた東京本社では、建築現場でヘルメットをかぶって仕事をしていましたね。その後、4年目に「横浜営業所」が「横浜支店」に昇格し、それまで営業部しかなかった横浜に技術部をつくることになりました。そして、神奈川県・大船の寮に当時住んでいた私は、新設された横浜支店の技術部に異動することになったのです。

横浜支店の技術部では、横浜アリーナ(1989年開館)や横浜ランドマークタワー(1993年開業)の建設などといった大きな仕事に従事しました。そして、横浜支店 技術部の課長、部長を務めていくことになります。

建築現場で働いている頃の山中さん
▲建築現場で働いている頃の山中さん

当時の建築現場は忙しかったです。当日の朝に指示されたことを当日に終わらせないといけませんし、建築現場ではいろいろな企業の人間が集まって1つの建築物をつくっていますから、人とのコミュニケーションが必ず発生します。毎日目の前にある仕事を1つずつ一生懸命クリアしていくことで、最終的に大きな仕事を達成することができました。

また、建築現場で様々な仕事をする中で、高専で自然と頭にすり込まれた知識や技術は役に立ちました。計算面でもそうですが、モノの考え方の面においても生かせたと思います。

―技術部としての仕事に長らく携わってこられたのですね。

はい、25年以上の間、建築現場で仕事をしてきました。そこからガラッと変わったのは46歳のときです。横浜支店長になり、営業を務めることになりました。といっても、これまでの技術部での経験を生かし、「技術を知っている営業」として力を発揮できたと思います。

そこから東京本社の営業部長や、東日本事業部のトップなどを経て、2024年4月より社長に就任しました。これまでのダイダンの歴史上、初めての「現場上がりの社長」となります。

建築現場だからこそ、1つの仕事をスピーディーに

―ダイダンでは、高専卒と大卒のキャリアアップに遜色がないと伺っています。

先ほど申し上げた通り、基本的に建築現場には多くの企業の方がいらっしゃり、そこに当社の社員も数名のチームで赴き、目の前の一品生産の仕事に取り組んでいます。つまり、同じオフィスで同じ企業の社員と一緒にいろいろな仕事をしているわけではありません。ですから、当社の社員にとっての成果は「できあがった建築物」であり、又、それを5~10年続けたことによる「お客様からの信頼」です。

よって、当社の社員には、目の前の仕事に取り組む「技術力」と、他の企業の方と一緒に働く「コミュニケーション力」が求められるわけですが、これらは「評価がしやすい指標」だと思います。そこに高専卒と大卒の境目はありません。

ダイダンでの仕事の様子
▲ダイダンでの仕事の様子

―山中さんは技術から営業の仕事に途中で変わりましたが、その経験が今の人事制度に影響を与えていますでしょうか。

はい。社長に就任した2024年4月に発表した中期経営計画において、2025年4月からの3年間を「グループ総合力の強化」のフェーズとし、そこでの方針を「人材戦略を基盤とした人づくりの実現により企業価値を高める」としました。

人材戦略では「組織風土の変革」に加え「従業員個人の能力向上」を掲げ、採用と研修の強化、そして(ジョブ)ローテーションの実施に力を入れました。今までとは異なる部署で働くことで知識や知見が増えますし、知り合いも増えます。大きな組織だからこそ、知り合いが増えることで、特殊な知識を必要とする業務を人に尋ねるハードルが低くなり、組織が円滑に動くことになるのです。

―組織が円滑に動くための取り組みは、ほかにもありますか。

私が東京本社のトップに就任した際にすぐに始めた「ザッソウ運動」が挙げられます。ザッソウは「雑談」と「相談」を組み合わせた言葉でして、ザッソウによるコミュニケーションの推進を実施しました。

ダイダンでの仕事の様子
▲ダイダンでの仕事の様子

相談をするためだけに誰かに話を聞きに行くのは、その時点で心が通じ合っていない証拠であり、良い相談にならないと思っています。ザッソウ運動によって、雑談が自然と相談につながる雰囲気を醸成し、できる限り各社員が心の中で思っていることを話すことで、スピード感が生まれ、一つ一つの課題を解決していくことができる——これによって組織は間違いなく変わります。実際に当社も変わってきていますし、業績も上がっています。

―ダイダンの社内環境向上のための取り組みを教えてください。

まず、入社後の半年間の研修が挙げられます。大阪の研修所で座学を行うほか、「見る」「触れる」「行う」機会を設け、半年間じっくりと研修することで、配属後に安心して仕事に取り組み始めることができます。

大阪にあるダイダンの研修所
▲大阪にあるダイダンの研修所

また、当社では健康経営を推進する組織として、部門横断の「ウェル・ビーイング タスクフォース」を2022年4月に立ち上げたほか、2024年10月には専任の部署として「社長室人事部健康推進課」を設置し、計画・実施・検証ならびに社内展開を行ってきました。その結果もあって、今年の3月に、経済産業省の認定制度に基づいた「健康経営優良法人2025 ~ホワイト500~」に認定されました。

※「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として顕彰する制度。上位500の大規模企業には「ホワイト500」の称号が与えられる。

加えて、スポーツ庁設立の「Sport in Life コンソーシアム」に加盟し、「スポーツエールカンパニー2024」の認定を受けています。社員の健康のためにダイダン健康保険組合が主催で「ウォーキングラリー」を実施するなど、ESGの観点から、非財務の活動にも積極的に取り組んでいます。

※環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取った略語で、企業の持続的な成長を支えるための観点を指す。

ウォーキングラリーでの山中さん
▲ウォーキングラリーでの山中さん

目の前のことに一生懸命取り組む高専生

―ダイダンの強みを教えてください。

私たちの業界は群雄割拠ですが、その中で当社の強みを挙げるとするならば「西に強い事業基盤があること」だと思います。

実はダイダンという社名は、前の社名である「大阪電気暖房株式会社」の略称でして、大阪の「大」を「ダイ」と読み、それと「暖(ダン)」をつなげています。そして、大元をたどれば、1903年に大阪市北区壷屋町で「菅谷商店」として創業しているという長い歴史を持っています。

1907年に「菅谷商店」から「大阪電気商会」に商号を変更。写真は、大阪電気商会の頃に施工した、住友総本店(大阪市、1907年竣工)
▲1907年に「菅谷商店」から「大阪電気商会」に商号を変更。写真は、大阪電気商会の頃に施工した、住友総本店(大阪市、1907年竣工)

これまでは建物が多くあるところ、特に首都圏に事業基盤がある企業が強かったのですが、例えば半導体関連企業の工場が北海道や熊本にできるなど、大規模な工場が全国各地でつくられている状況に現在なっています。秘匿性が高く、どこにあるか公表されていないデータセンターも各地にありますね。

ですので、全国的に大規模な建築物ができている状況下において、当社が長い歴史で培った「大阪を含む西日本の営業的な強み」を生かすことができると考えています。

―今後、事業面ではどのような成長を遂げたいと考えていらっしゃいますか。

当社の祖業は「電気設備」ですが、今の業績では約15%に留まっていますので、そこをさらに伸ばしたいと考えています。

また、当社の事業は海外にも展開しており、その業績は現在約16%です。それを20%近くまで増やしたいですね。建設業界において活況の地になっているシンガポールを中心に、タイ、ベトナム、台湾で現在は事業を行っています。「空調設備」「給排水衛生設備」のベースも着実に伸ばし、全体の売上を3,000億円に届かせるのが目標です。

ダイダンの海外支店にて集合写真
▲ダイダンの海外支店にて集合写真

加えて、2017年から活動体制を整備した「再生医療」の事業も伸ばしていきたいです。当社はこれまで病院の施工実績が業界内で最も多く、手術室やクリーンルームなどを建設するノウハウが蓄積されています。それを生かすために、再生医療の事業を始めました。

具体的には、細胞製造施設「セラボ殿町」の開設、藤田医科大学東京 先端医療研究センター内でのコンパクトCPF「セラボ羽田」の開設、ラックやブース・ユニットなどといった再生医療ソリューションの販売などが挙げられます。

セラボの一部分であるエアバリアブース。扉がなくても気流の力でクリーンな環境を維持することができ、再生医療における細胞培養ブースとして用いられています
▲セラボの一部分であるエアバリアブース。扉がなくても気流の力でクリーンな環境を維持することができ、再生医療における細胞培養ブースとして用いられています

―最後に、現役の高専生にメッセージをお願いします。

高専生は優秀な方が多く、真面目だと思います。高専卒社員は確かな技術レベルがあり、私自身が高専を卒業しているからかもしれませんが、安心感があります。

その安心感は、高専でのたくさんの勉強・実習を通して、目の前のことに一生懸命取り組んできたから生まれるのでしょう。「目の前のことに一生懸命取り組むこと」を続けることで身につく習慣・修正・行動の能力は、社会に出た後も必ず役に立ちます。私もそうでした。ですから、今するべきことを精一杯行って、それを続けていってほしいです。


○ダイダン株式会社 HP
https://www.daidan.co.jp/

○ダイダン株式会社 新卒採用ページ
https://www.daidan.co.jp/recruit/graduate/

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