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課題解決や事業化ができる「縁ジニア」の育成を目指す! 都城高専のスタートアップ人材育成について

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令和4年度第2次補正予算より「高等専門学校スタートアップ教育環境整備事業」が組み込まれ、各高専ではスタートアップ人材の育成に取り組んでいます。今回は「地域の課題解決」と「事業化ができる人材輩出」のためのスタートアップ教育に力を入れている都城高専の髙木夏樹先生(機械工学科 准教授)に、計画している教育内容や事業への思いを伺いました。

地域ともつながれる、モノづくりの拠点となる場所に

—現在進めている、都城高専のスタートアップ教育の指針について教えてください。

本校では、『「未来協創力」を育む縁ジニアリング教育の推進 ~個の学びから協創の学びへ~』というテーマを掲げ、IDEA(Innovation Design & Engineering Associates)プログラムをスタートさせました。地域とつながり、問題や課題を発見して、解決につながる取り組みや、その取り組み自体を事業化できる能力をあわせ持つ次世代イノベーション人財「縁ジニア」の育成が目的です。

都城高専のスタートアップ教育の概観図
▲都城高専のスタートアップ教育の概観図

モノづくりへの高い技術を持っているだけでなく、ビジネス・社会の仕組みを把握した上でモノづくりに生かせるような能力や、株主や投資家・消費者などのステークホルダーともしっかりと会話ができるコミュニケーション能力など、ビジネスを進める上で必要になる能力を一貫して鍛えられるような教育プログラムを目指しています。

社会を生きていく上で起業家精神やチャレンジ精神は重要です。このプログラムから、リスクに直面しても自ら解決策を考えて、チャレンジしていけるようなマインドを持った人材や、起業だけにとどまらず社会まで変えていけるような学生を輩出できたらと思っています。

髙木先生
▲取材をお引き受けいただいた髙木先生

いずれは学内ファンドをつくり、学生が資金集めをできるような仕組みにして、その資金をもとにさまざまな課題やモノづくりにチャレンジしてもらいたいです。その結果、地域も豊かになっていく、というのが理想ですね。学生のモチベーションにも、高専の認知度にもつながるプログラムになれば良いなと思います。

—具体的には、どのようなことに取り組んでいるのでしょうか。

「縁ジニア」育成の第一歩として現在行っているのが「IDEA(イデア)ラボ」の創設です。「IDEAラボ」という名前はまだ仮ではありますが、学生が地域の課題解決やビジネス課題に取り組める拠点となるよう、準備を進めている段階ですね。学内で行っているPBL教育(課題解決型学習)やモノづくりの授業で使ったり、文化祭などでの発表・展示に向けて研究に取り組めたりできる場所になる予定です。

あとは、モノづくりや課題解決などを行える部活動をつくって、放課後や休日に学生が利用できるようにしたり、部活動ではなくとも何かにチャレンジしたいと思っている学生が自由に出入りできるようにしたりなど、そのような使い方ができる場所になればと考えています。いずれは地域住民との交流や、地元の小中学生と一緒にモノづくりができる場所になれば良いですね。

—IDEAラボの創設準備は、どこまで進んでいるのでしょうか。

空いている部屋があり、その場所を使える、というとこまでは確定していて、部屋に入れる設備なども決まりました。ただ、部屋のレイアウトや具体的な使い方などは、まだ議論が必要な状況ですね。

まだまだ準備は必要ですが、今年度中には何らかの成果は出すつもりです。部屋のレイアウトの概案はあるので、10月中には内容を固めて、11月から部屋の片付けを進め、来年の1〜2月あたりに開所し、学生を絡めた対外的なイベントを開催できたらと思っています。

—地域にとって、IDEAラボはどのような場所になってほしいですか。

都城をはじめ宮崎というエリアは穏やかな土地柄で、人もすごく優しくて良いところなんです。ただ、どうしても新しいことへのチャレンジやビジネス展開などの話は出てきづらい環境ではあります。ですので、チャレンジできる場を学校が提供し、地域の方々も巻き込んで一緒に何かできたらと思っていますね。

今でも企業から課題解決の相談が来ることはありますが、高専という場所では時間の制約、お金の問題などもあり、なかなか期待に添えられないこともあるんです。そこで、高専に相談する前に、IDEAラボに行ってみる。すると、アイデアが出る。協力者とも繋がれて、本校の学生とも一緒にモノづくりができる。理想論ではありますが、地域にとって、そのような場所になれば良いと思います。

—IDEAラボの準備の他に、どのような取り組みを計画されていますか。

教材の準備にも着手する予定です。SPIKE™(スパイク)という、マイコンやセンサー、モーターなどの部品をレゴ®ブロックと組み合わせて動かせたり、プログラムが組めたりするレゴ社の商品があります。モノづくりの教材として優れているのですが、高価な商品なので、学生自身で購入するにはハードルが高いんです。そこで、学校が積極的にSPIKEを教材として揃えようとしています。

SPIKEを用いた1年生の演習授業(機械工学概論)の様子
▲SPIKEを用いた1年生の演習授業(機械工学概論)の様子
SPIKEを用いた1年生の演習授業(機械工学概論)の様子
▲SPIKEを用いた1年生の演習授業(機械工学概論)の様子

また、ロボットマニピュレータ(アーム)が本校にはなかったので、教材として導入して、実際の工学教育だけでなく、地域課題解決に向けたアイデア発想のために使用できるように準備を進めています。

来年度以降は、より教育体制の整備を進めていくつもりです。例えば、先輩起業家や専門家などをお招きして、経営戦略やビジネスプラン、マーケティング、デザイン思考などに関する講演や演習を実施し、ビジネスコンテストやピッチイベントへの参加促進も行っていきます。他にもさまざまな起業・事業化支援を行い、学内だけでなく自治体や企業・VC(ベンチャーキャピタル)などと連携した活動にも段階的に取り組んでいく計画です。

小型ピーマン選果機「せんかちゃん」の実用化に向けて

—「高等専門学校スタートアップ教育環境整備事業」の前から取り組んでいたスタートアップ教育はありましたか。

体制を取っていたわけではなく、あくまで個別事例ですが、宮崎県で盛んなピーマン栽培に着目して、2018年から小型ピーマン選果機「せんかちゃん」の開発を始めたことが挙げられると思います。ピーマンは収穫後、重量ごとに選別が必要で、作業のほとんどを手作業で行っているんです。目視や感覚で判断できない場合は、一度重量計で重さを確認してから選別しているので、非常に手間と時間がかかります。

ピーマン選果機の現場実証実験の様子
▲ピーマン選果機の現場実証実験の様子

この話を農家さんから聞いた際に、ある学生が目をつけて、選別作業を効率化できる機械の開発に乗り出しました。その後、実際に開発を進めて、ビジネスコンテストへの参加や展示会への出展も行いましたね。

【アグリビジネス創出フェア2022】にて、ピーマン選果機を展示
▲【アグリビジネス創出フェア2022】にて、ピーマン選果機を展示

—開発において大変だったことや壁などはなかったのでしょうか。

実際、開発に着手するまでは、ちゃんと形になるのかが分からず不安で、「学生に任せて大丈夫なのだろうか」という気掛かりもありました。ですが、私の考えすぎだったようで、学生たちは予想以上に主体的に取り組んでくれたんです。私が手伝ったのは、学生のアイデアに対して具体的な技術要件が必要なときくらいでした。

ピーマン選果機がピーマンを選果する瞬間の写真
▲ピーマン選果機がピーマンを選果する瞬間の写真

実際に製品を使ってみた農家さんからは、ポジティブな声をいただいています。「作業が楽に感じる」とか「実際に使えそうだ」という話は聞いていますね。今後も実用化に向けて、改良や実証評価を重ねて、スタートアップも視野に入れて製品化や事業化を目指したいと思っています。

【みやざきテクノフェア2022】にて、ピーマン選果機を展示
▲【みやざきテクノフェア2022】にて、ピーマン選果機を展示

大事なのは「ワクワク」と「達成感」

—スタートアップ教育を通して学生に期待していることを教えてください。

とにかくワクワクしてほしいです。せっかくモノづくりが好きで高専に入っても、授業では基礎を固めるための座学が中心になります。そのため、自分がモノづくりに関われていないと思い、モチベーションが下がってしまう時期があるんです。

なので、スタートアップ教育の中では、日々の座学ではなかなか感じることのできない「モノづくりのワクワク感」に大いに没入してほしいですね。さらに、自分がつくったものが社会の人々に喜ばれるという「達成感」を同時に得てもらい、工学技術を学ぶさらなるモチベーションになればと思っています。

2022に開催された【おもしろ科学フェスティバル】の展示で、参加者にドローンの操縦体験ができる場を提供
▲2022に開催された【おもしろ科学フェスティバル】の展示で、参加者にドローンの操縦体験ができる場を提供

学生たちはさまざまな能力を持っているので、外の世界と繋がることでできることがたくさんあるはずです。まずは、そこに気づいてほしい。未来に対するチャレンジ精神を持ってもらい、その上で、やっぱり「モノづくりは楽しい」と感じてもらえたら嬉しいですね。

一方で、現実的な目線も得てほしいです。社会で生きていく上では、シビアなこともたくさんあるでしょう。例えば、ビジネスを進めるとなると、資金調達はひとつの課題となります。そのような現実も、この事業を通して知ってほしいと思います。

—先生自身、モノづくりを通してワクワク感や達成感を得た経験があったのでしょうか。

私は舞鶴高専出身で、学生時代はロボコンに参加していました。4年生のときにロボコンで全国大会に出場でき、京都で展示をする機会をいただいたのですが、そのときに初めて、自分がつくったものが外部の人に喜ばれるという直接的な経験をしたんです。モノづくりにはこのような面白さもあるんだな、と実感しました。

高専生のころの髙木先生
▲高専生のころの髙木先生

また、5年生のときには担任の先生に声をかけてもらい、企業から依頼を受けた共同研究案件に参加しました。研究内容は私の知らない分野だったので、いまだになぜ声をかけられたのかは分からないのですが、当時は「とりあえずやってみよう」と、取り組んでいましたね。

今思うと研究結果も素人に毛が生えた程度のものでしたが、それでも企業の方には喜んでいただけました。当時は自信もなく、担任の先生の力を借りて進めていましたが、「いざやってみればできるんだ」と思った経験のひとつです。

—スタートアップ教育を通して髙木先生が成し遂げたいことはありますか。

現状、スタートアップやベンチャーという言葉はいまだ学生には浸透していません。しかし、モノづくりや課題解決に興味のある学生がいるのは確かです。そのような学生がチャレンジできる環境を、この事業を通して提供できるようになればと思います。そして、世界に面白いものを提供するベンチャーが本校の学生から誕生してくれると嬉しいです。

◎高等専門学校スタートアップ教育環境整備事業
アントレプレナーシップ教育に取り組む予定のある国公私立の高専に対し、教育環境整備などの戦略的な取り組みを支援する事業です。
詳細は文部科学省のHPをご覧ください。

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