
故郷である長野の美しい星空を眺め「宇宙プラズマ」に興味も持ち、高専、大学、大学院とプラズマの研究に邁進する名古屋大学の兒玉直人先生。プラズマの魅力と「熱プラズマの物性」から挑む大型プロジェクトについてお話を伺いました。
宇宙プラズマの魔法に魅了された高専時代
―まず、長野高専へ進んだきっかけからお聞かせください。
出身は千曲市という、長野市と上田市の間くらいの町です。小中学校から理系が好きで、要らなくなった家電製品を分解したりとか、また組み立て直したりとか、典型的なモノづくりが好きな子供でした(笑)
長野高専で電子制御工学科を選んだのは、この分野が好きだということもですが、兄もそこが出身だったことも挙げられます。
-高専時代、宇宙プラズマに興味を持った経緯についてお聞かせいただけますか?
長野県ではそこら中で星が見えて、なんかもう星が綺麗だなっていうのはずっと分かっていました。それで、宇宙をちょっと勉強していくと、「宇宙プラズマ」って何なんだろうって思ったのがきっかけだったと思います。
高専へ進学したもう1つのきっかけも、その宇宙プラズマに対する興味でした。高専時代は天文部に在籍し、宇宙に関する研究を追求。高専5年生のときにプラズマの研究室に配属されたことで、卒業後もプラズマについて学びたいと考え、その後、金沢大学に編入します。
天文部時代ですが、当時、ホームズ彗星と呼ばれる彗星が急に明るくなる現象が起こりました。毎日明るさを観測して「明るさが変化するのはなんでなんだろう」と考えていましたね。日本天文学会の高校生部門で研究を発表したりしていました。
―天文部で撮影された「星景写真」について教えてください。
天文学部の顧問だった大西先生が、星と風景を同時に写す「星景写真」を撮っていて、星景写真を撮りながら天体観測を行い、写真撮影や星景写真が趣味となりました。今は旅行が趣味でして、学会などの出張と組み合わせて楽しんでいます(笑)

新しい場所や国を訪れる機会があるので、国内外を旅行することが多く、最近はドイツのグレイシュフバルドに行ってきたばかりです。ちょっと辺鄙な場所でしたが、楽しい経験でした。

恩師の情熱的なご指導。学ぶことの「ワクワク感と楽しさ」を実感
―編入先の金沢大学・田中先生のプラズマ研究室についてお聞かせください。
長野高専から金沢大学に進む際は、電気工学系の大学に進学し、大学院で研究の道に進むことを考えていました。大学院に進学することは、高専から大学に編入する段階で決めていましたが、博士後期課程までの進路についてはまだ具体的には決まっていませんでしたね。
当時、金沢大学にある環境電力工学研究室と協力してプラズマ研究をしていて、それが進学先の選択肢に影響を与えました。私の指導教員であった田中康規先生は非常に熱心で、研究の魅力を学生たちに伝えることに情熱を燃やす方でした。
金沢大学への編入を決断したのは、プラズマへの情熱が高まっていたこと、そして金沢大学にはプラズマ研究室があったからです。特に、田中先生はプラズマの分野では有名な先生で、実際、情熱的なご指導のもとで「学ぶことのワクワク感と楽しさ」を感じました。
―名古屋大学で教鞭を執られることになったのはなぜですか。
修士1年生のときに国際会議に参加する機会を得て、1週間ほど海外に行く機会がありました。そこで海外の研究者とディスカッションをする中で、博士号を持たないと企業で働くにしても研究職に進むにしても、難しいなと感じたんです。自分自身がプラズマ研究に情熱を持ち、その成果を大切にし、他の人に引き継ぎたいという思いも含まれていました。

たまたま名古屋大学で教職の応募があり。後輩たちに未知のものを探求する楽しさを伝えたいという思いが、大学教員を志す道に進むきっかけとなりましたね。「分からなことが分かるようになる楽しさ」や「未知の領域に挑戦する楽しさ」を実感してもうことを心がけて,研究室内で指導などを行っています。
プラズマ研究を通して、大型プロジェクトへ。NEDO「未踏チャレンジ」にも参画
-ご研究分野の「プラズマ」について、詳しく教えてください。
物質にエネルギーを与えると、固体から液体、それから気体に変わりますが、そこにさらにエネルギーを与えると「プラズマ」になります。プラズマは、電子が分子・原子から離れており、かなり不安定な状態と言えます。
学生時代は「熱プラズマを用いた機能性ナノマテリアルの生成」をテーマに研究しており、熱プラズマを使って、非常に小さなサイズの材料を大量につくるというプロジェクトに参加していました。

ナノマテリアルというのは、カーボンナノチューブ、カーボンナノグラフェン、ナノ粒子などが該当し、通常、これらの材料は化学薬品を用いた方法でつくられます。しかし、この方法は環境に負担をかけるので、熱プラズマを使用して材料を急速に蒸発・冷却させ、ナノサイズの材料を作成する手法を開発しました。この方法は大量生産に向いていて、環境に優しいという特長を持っていますが、プラズマをコントロールすることが難しいんです。
プラズマの制御を向上させ、特定のサイズや形状のナノ材料を大量に製造する方法を開発しました。プラズマの中の状態、つまり温度やプラズマを構成する原子や分子についても研究し、可視化、制御しようとしています。これは学生時代からの研究で、今の研究にも関連しています。
-現在の研究内容と、今後のプラズマ研究の目標について教えてください
最近の研究課題は、ブレーカーやヒューズといった電力保護機器の中にある遮断器の熱プラズマの消滅に関連する問題に取り組んでいます。遮断器とは変電所や開閉所で使用される電気回路を切断する装置で、スイッチをオフにする際に熱プラズマが発生します。熱プラズマを効果的に消すことは、電気回路の安全な切断に寄与するんです。

この研究を通じて、電力会社や一般の人々が使用する遮断器の挙動を理解し、電力供給を安全に制御する方法を開発しようとしています。最新の研究では、電気回路を保護するために熱プラズマを消滅させる新しい材料の開発に焦点を当てています。
この材料の性質を理解し、計算に基づいて設計する作業が中心です。特に、この材料の開発には、材料の原子や分子の性質を詳細に計算し、その物性を理論的に理解する「量子化学計算」という手法も使用しています。

今後はこの分野での研究をさらに進め、電気回路を保護する新しい装置を開発するために、大学と協力してさまざまなプロジェクトを進行させる予定です。プロジェクトは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の先導研究プログラム「未踏チャレンジ」という若手研究者向けのもので、5年間で1億円の予算が提供される大規模なものです。

「工嶺祭」でのバトルドーム製作に充実感。高専の幅広い将来への選択肢は魅力
―高専の良さについてお聞かせください。
高専の良さは、やりたいことをサポートしてくれる先生方が多いことです。学校の校風が自由で、やりたいことを応援してくれる環境がありました。この自由度と責任感は大きな魅力で、自分のやりたいことを追求できる環境が整っていたおかげで、私も大学進学後に研究者になれたのだと思います。
高専時代の思い出ですが、学園祭「工嶺祭」があり、特に4、5年生になるとクラス単位で企画展を行うことがありました。5年生のときに、仲間と力を合わせて大規模な「バトルドーム」を作成したのは楽しい思い出です。自分たちで何かをつくり上げる過程は非常に充実感がありました。

―これから高専を目指す中学生へメッセージをお願いします。
未来の高専生へのアドバイスとしては、高専は自分のやりたいことをサポートしてくれる環境であることを生かして、積極的にチャレンジしてほしいというですね。高専は文系や工学系への進学、就職など間口が広い場所であり、将来への選択肢も大きく広がります。
中学生の方にとっては,他の普通校に比べると高専は未知の世界だと思います。ただ、理系(特に工学系)に進みたい気持ちが強いのであれば、1年生から専門教科を学べ、就職にも進学にも強い高専はお勧めです。ぜひ、飛び込んでいってください。
兒玉 直人氏
Naoto Kodama
- 名古屋大学 大学院工学研究科 電気工学専攻 助教

2011年3月 長野工業高等専門学校 電子制御工学科 卒業
2013年3月 金沢大学 理工学域 電子情報学類 卒業
2015年3月 金沢大学 理工学域 自然科学研究科 博士前期課程 修了
2018年3月 金沢大学 理工学域 自然科学研究科 博士後期課程 修了
2018年4月より現職
長野工業高等専門学校の記事

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