和歌山高専専攻科、神戸大学大学院を経て、現在は大阪大学大学院博士課程で研究を進められている、嶋田仁さん。高専時代から大学院への進学を決めていたという嶋田さんに、高専時代のエピソードや進学についての思いを伺いました。
小学生の時の「憧れ」が人生を変えた
-和歌山高専に進学を決めたきっかけは?
小学生の時にドラマ「ガリレオ」を見て、福山雅治さん演じる湯川学に憧れを抱いたのが、そもそものきっかけです。当時本当にハマっていて、「ガリレオになりたい!」と、元素を自主学習ノートにまとめていたのを母親が見て、和歌山高専を勧めてくれました。
その後、中学校の体験学習で和歌山高専の実験に参加し、高専に進むことを決意しました。4学科をすべて体験させてもらい、一番楽しいと感じた“物質工学科”に入学しました。あとからガリレオは物理学者だったと知るのですが、化学も物理も“物質”が根本なので、後悔はしていないですね(笑)。
-高専での生活はどうでしたか?
和歌山高専は2年生まで全寮制だったので、隣の部屋に行けば分からないところをすぐ聞ける環境が良かったですね。学部を問わず専門知識を持っている同級生と生活できるので、とても心強かったです。高専時代に出会った仲間とは、大人になった今でも仲良く語り合っているので、本当に大きな財産ですね。
また、部活ではソフトテニス部のキャプテンを経験しました。高校生くらいの年齢で、部活を通してマネジメントの経験をしたことは、研究とは違った楽しさがありました。
実はもともと海外留学への思いが強かったんです。「どうせ行くなら英語を学ぶだけじゃなくて研究で行きたい!」と思って、担任の綱島克彦先生に相談したら賛同していただいて。「まずは研究から」ということで、ほかの学生よりは少し早かったのですが、4年生の中頃から綱島研究室に入りました。
「セミクラスレートハイドレート」との出会い
-高専ではどのような研究をされたのですか?
高専時代から現在まで、「クラスレートハイドレート」を大きな研究テーマにしています。「クラスレートハイドレート」とは、氷によく似た物質で、水分子がカゴのようにたくさんくっついて形成されています。カゴの中には様々な分子を入れることができ、分解しない限り、一度入った分子は外に出られないようになっています。
氷は通常0℃で溶けるのですが、水分子のかごの中にイオンを入れることで、ハイドレートの溶ける温度を変えることが可能になります。これを「セミクラスレートハイドレート」と呼んでいますが、「どんな構造のイオンを入れると、溶ける温度がどう変化するのか」の謎は当時まだ解明されておらず、「その道の第一人者になりたい」という思いもあり、研究に明け暮れました。
ハイドレートの溶ける温度を10℃・20℃と変えることができれば、エネルギーの利用効率が良くなります。例えば、従来の氷では冷たすぎて使えなかった野菜や生鮮食品の保冷剤としても使えますし、実は私たちの暮らしに直結している領域になるんですよ。
高専卒業の際、進路に迷いはなかった
-本科卒業後は、そのまま専攻科に進まれたのですね。
高専の研究室に入ったときから、専攻科に進むことは決めていました。もちろん就職や大学編入への道もあったのですが、「専攻科に進むからこそ、出来ることもあるのではないか」と思っていたからです。
実際、「自分の分野を築きたい」という思いも強かったですし、研究を通じて「まだ自分にしか見えていない法則」を見つけることも楽しくて(笑)。腰を据えてやることが大切だと思い、そのまま専攻科に進学しました。
網島先生が研究されている「イオン化合物の合成」の分野を専門にしつつ、「クラスレートハイドレート」の専門家である神戸大学や大阪大学と共同研究できたことも、環境としてはとても良かったですね。
網島先生が積極的に学会に連れて行ってくださったので、外部との交流の大切さもそこで知ることができました。自分の今のポジションを客観的に知ることができ、かなりモチベーションが上がりましたね。
-共同研究がきっかけで神戸大学の大学院に進まれたのですか?
進学するにあたっていくつか候補はあったのですが、やりたい研究を続けられることと、学生や先生の雰囲気の良さに惹かれて、神戸大学大学院人間発達環境学研究科に進学しました。
この研究科は“教育学研究科”からできた領域になります。「教える」に特化していることもあり、学生や先生のコミュニケーション能力が非常に高いんです。きめ細やかに相手の気持ちを汲み取るコミュニケーション力やプレゼンテーション力など、学ぶことが本当に多かったですね。
逆に研究領域は得意分野だったので一目置かれることも多く、持ちつ持たれつで良い相乗効果が生まれていたと感じています。
神戸大学では地質の研究に携わったり、高校生に研究を教える経験もしました。今までひとつの分野を突き詰める経験しかしてこなかったので、複合的に幅広い分野に挑戦できたことで、自分の中の世界が大きく広がりました。
-現在は大阪大学の大学院で研究を進められているのですね。
インターンシップも経験したのですが、やはり研究者として「生み出す」ことがしたいと思いました。また、綱島先生から「博士号を取ることは、研究者の免許証みたいなものだ」と言われたことも大きかったですね。
実は次に出す論文が今までの研究の集大成ともいえる論文で、成果として世に出せることを嬉しく思っています。やっと専門領域を達成できる時が来たので、恩師の綱島先生にも本当に感謝しています。今は目の前のことに集中していますが、今後は自分が「やりたい!」と思ったことを柔軟に達成していきたいですね。
-高専を目指す中学生、現役の高専生にメッセージをお願いします。
高専は座学だけでなく、実験から入る勉強ができます。最初は分からなくても、実験をしていくうちに理解が深くなるんです。またとても優秀な先生方が揃っており、大学レベルの研究を分かりやすく噛み砕いて教えてくれるので、本当に高専に進んで良かったと思っています。学生をないがしろにせず、優しく接してくださる先生たちばかりでしたよ。
また現在、高専に通っている皆さん。ぜひ今の自分のスキルに自信を持ってください。進路に迷うこともあるかと思いますが、高専というポテンシャルを十分に発揮して、夢に向かって頑張ってください!
嶋田 仁氏
Jin Shimada
- 大阪大学大学院 基礎工学研究科
2017年 和歌山工業高等専門学校 物質工学科 卒業
2019年 和歌山工業高等専門学校 専攻科 エコシステム工学専攻 修了
2021年 神戸大学大学院 人間発達環境学研究科 人間環境学専攻 修士課程 修了
2021年-現在 大阪大学大学院 基礎工学研究科 物質創成専攻 化学工学領域
2021年-現在 日本学術振興会特別研究員DC1
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